中国 ハルビン・松花江 马迭尔(madier)のアイスキャンディー
秋のハルビン。中央大街に植えられた木々の葉を、風がしゃらしゃらと鳴らして一気に吹き抜ける。お天道様のもと、何時間でもこの道端のベンチに座っていたいくらい気持ちがいい。ふと足元に目をやると、広がる石畳はみんな揃って角が丸くツヤツヤしている。そういえば現地の友達のお母さんとここを歩いた時、彼女が教えてくれた。この石畳が丸いのはみんなが踏みしめたからではなくて、元々こういう石を用意して敷き詰めたのだ、と。街を歩けば見えてくる、ロシア語が併記された緑色の道案内。見上げたビルの屋根についている鐘楼(鐘は吊ってないのになぜか作られている)。ハルビンにいると、訪ねて来たばかりなのにもう懐かしいような恋しいような、そんな気分になってくるから不思議だ。
街角で立ち止まり、道を歩く人々をじっと見てみる。すると、自由に往来するように見えた人の流れも、ある方向に向かってゆっくり流れているようだ。聞けば、みんなが向かっている先には松花江という大きな河があるのだとか。よし、私も行ってみよう。
人の流れに合流して進んでいると、人気のアイスクリーム店「马迭尔」(madier)本店が見えた。店は小さいものの、深い緑色に金色の装飾が愛らしい、異国情緒ある佇まいだ。この街の代名詞とも言えるアイスクリーム、それが马迭尔(madier)のアイスキャンディー。大阪人にとっての551蓬莱のように、ここの人々の心には马迭尔が染み込んでいるらしい。そして、ハルビンには马迭尔の店舗が無数にあるのに、何故かみんな「買うなら本店がいい」と変なこだわりを持っている。この日も販売カウンターには人だかりができていた。カウンターのそばの看板にはコーヒー味やマンゴー味、ラム酒味などいろんな味が案内されている。実は私もかつていろんな味を食べ比べてみてどれも美味しいという結論に至ったのだけど、その結果心はオリジナルに帰ってきてしまった。そんなわけで、今回もオリジナルを買う。人だかりを無視してカウンターの一番前まで自分の体を捩じ込んでいく。握りしめたお札を高く掲げ強気で叫ぶと、店員はすぐに練乳色のアイスキャンデーを私の手に握らせてくれた。濃厚なミルクに、熟したバナナが加わったような、なんとも美味しいアイスキャンデーである。これを食べると「ああ!ハルビンに来たんだ・・」としみじみ実感する。
アイスを食べながらさらに進んでいく。人々の後を追い巨大な地下道を通って再び階段を上がると、大きな広場に出た。眼前に海かと思うような風景が広がっている。やっと松花江に着いたようだ。なんと大きい河なのだろう。対岸がよく見えないくらいの川幅である。遠くに、観光船がゆっくりと巡回しているのが見えた。川縁には階段が作られていて、大勢の人がそこに座って景色を楽しんでいる。私も、みんなに混じってそこに座ってみた。人々のたわいない話し声に耳を傾けている間じゅう、河から穏やかな風が絶えず吹いてきて・・まあなんと優しい気持ちにさせてくれるのだろう。目を閉じ、深く息を吸った。
どれほど座っていただろう。一時間くらいであろうか。ふと、遠くから楽しげな音楽が聞こえてくることに気づいた。立ち上がり、音のする方に近づいていった。観光船の乗船場近くには背の高い木々が植えられ、大きな日陰になっている。そこでおじさんとおばさんが二人でマイクを握り、デュエットしているではないか。それも、おばさんは「プロなのかい?」と思うほど上手だ。マイクの先には携帯がセットされている。なるほど、多分画面に歌詞が表示されているのだろう。二人が歌っている歌は有名な歌らしく、周りに腰掛けている関係のない人たちも、歌に合わせ鼻歌を歌っている。
ついでに観光船に乗ろうかと思ったが、一周40分と書いてあったので諦めた。実はこの後、美味しい羊肉串を食べにいく予定だったのである。本当に、「花より団子」とはよく言ったものだ。以前ここに来た時に食べた、ある店の羊肉串を忘れられずにいた。目を閉じると脳裏に浮かぶ、香ばしく角がこんがり焼けたサイコロ状の脂肪が眩しい、あの羊肉串・・。来た道を振り返ると、遠く太陽島公園に向かうロープウェイが空にきらりと光って見えた。
※ここで言ってる羊肉串については紆余曲折あったので別の記事で・・
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