見出し画像

その119番通報が、大切な命を守るための第一歩

ある朝の救急出動🚑
傷病者の家族と話をする機会がありました。

搬送中、救急車の後部で、彼女がぽつりぽつりと話してくれたことが、今も心に残っています。

「本当はもっと早く救急車を呼ぼうと思ったんです。でも、呼んでいいのか分からなくて……」

その声には、迷いや不安が色濃く感じられました。

彼女はこう続けました。
「最初に息子に連絡しようかとも思ったんです。でも、朝早い時間に電話したら怒られるかもって思ったんです・・・。」

さらに話を聞くと、過去に何度か救急車を呼んだ経験があったそうです。それが「また迷惑をかけるんじゃないか」という気持ちを生み、今回の通報をためらわせた一因になっていました。

「様子がおかしいのは分かっていたんです。でも・・・結局、電話を手に取るまでに時間がかかりました。」

彼女の言葉を聞きながら、僕は胸が締め付けられる思いでした。
一人で悩み続けた時間がどれほど苦しかったか、容易に想像できたからです。

救急車は、確かに「最後の砦」です。
ですが、その砦の高さ――つまり、助けを求めるタイミングは人それぞれ違います。

「まだ大丈夫かもしれない」「こんなことで呼んでいいのだろうか」という思いが、砦を必要以上に高くしてしまうこともあります。その結果、助けを求めるのが遅れてしまうこともあるのです。

僕は救急隊員として彼女に伝えました。
「お一人で抱え込まないでください。それが私たちの役目ですから。」

さらに、「もしご家族に説明が必要なら、息子さんにもお話しますよ。連絡先を教えていただけますか」と伝えたところ、奥さまは涙を流されました。

このような迷いは、多くの方が抱えるものです。
家族や自分の体調に異変を感じた時、どう行動すべきか迷うのは当然のことです。

その迷いを持つこと自体を責める必要はありません。
ただし、大切なのは「自分が最後の砦にたどり着く高さ」を自覚し、それが必要以上に高くなりすぎないようにすることです。

私たち救急隊員は、どんな時でも皆さんの「最後の砦」として存在しています。それが私たちの役割です。

「迷惑をかけたくない」「これくらいで呼ぶべきではない」という思いに縛られすぎると、必要なタイミングを逃してしまうことがあります。

救急車を呼ぶかどうかの迷いには、その人なりの背景や思いがある。だからこそ、一人ひとりに寄り添い、その不安を解消することが私たちのもう一つの役割なのだと思います。

傷病者一人一人に対応するのが私たちの仕事ですが、119番通報した家族のサポートも同等に大切です。

救急車は最後の砦。でも、その砦は決して「高すぎる」必要はありません。その声が、その119番通報が、大切な命を守るための第一歩になるかもしれないのです。


いいなと思ったら応援しよう!

あぽ🚒🚑
「書籍購入」と「救急救命士としての研修費用」に充てさせていただいており、職場内での勉強会に活用しています✨