酸素は「たくさん与えれば安心?」 それは思い込みかもね🚑🧑🚒
救急現場で酸素をどれだけ投与するべきか、悩む救急隊は多いと思います。「多ければ多いほど良い」と思いがちですが、最近の研究はそう単純ではないことを示しています。
今回は、最新の研究「Early Restrictive vs Liberal Oxygen for Trauma Patients」を基に、酸素投与について考えます。
https://jamanetwork.com/journals/jama/fullarticle/2827980
外傷患者への酸素療法、どうして必要?
外傷を受けた傷病者は、体内の酸素が不足しやすい状態にあります。
つまり・・・
そのため、酸素を供給することで臓器障害を防ぎ、患者の命を救うことが基本的な考え方です。
しかし、酸素の「量」については議論の余地がありました。
研究の目的:酸素療法の量を比較
この研究は、酸素を「制限的」に投与する場合と、「自由に」投与する場合のどちらが良い結果をもたらすかを比較しました。
具体的な介入は以下の通りです。
1. 制限的酸素療法:
• 酸素飽和度(SpO2)を94~98%の範囲内に維持する。
• 必要以上の酸素は投与しない方針。
2. 自由酸素療法:
• SpO2を100%に近づけるよう、高流量で酸素を投与する。
結果:過剰な酸素は逆効果?
研究では、次のような結果が得られました。
1. 生存率に大きな差はない
• 制限的酸素療法と自由酸素療法の間で、30日または90日後の生存率に差はなかった。
2. 高流量酸素のリスク
• 自由酸素療法では、酸化ストレス(酸素が過剰になり細胞にダメージを与える状態)や肺損傷のリスクがやや高いことが示された。
3. 酸素が少なすぎるリスクは低い
• 制限的酸素療法でも、患者の臓器障害が増えることはなかった。
• 酸素飽和度を94~98%に維持するだけで十分である可能性が示唆された。
救急現場でどう活用する?
この研究から、救急隊が現場で酸素を投与する際にどのように考えるべきでしょうか。
1. 過剰な酸素は慎む
• 「酸素は多ければ多いほど良い」という固定観念を捨てる。
• 過剰酸素による肺のダメージを防ぐため、酸素飽和度をモニタリングし、適切な範囲を維持する。
2. 目標はSpO2 94~98%
• SpO2が94%以上であれば、無理に高流量酸素を投与する必要はなし
• 傷病者の酸素飽和度を観察し、範囲を下回る場合は酸素流量を調整する
3. 状態によって柔軟に対応
• ショックや酸素飽和度が低い(90%未満)場合には、迷わず酸素投与。
• 安定している患者では適量を心がける。
「すべての患者に制限的酸素療法を行うべき」という結論ではない
この研究は「すべての患者に制限的酸素療法を行うべき」という結論ではありません。臨床的には、酸素を慎重に使用することで合併症を減らしつつ、患者の転帰を改善する可能性があることが説明されています。
外傷の対応といえばJPTECを元に活動している救急隊が多いと思いますが、高リスク受傷機転やショック所見を認めた場合は高濃度の酸素を投与しますよね。ただ、継続観察で酸素飽和度の数値が良いから酸素投与量を減らすという選択肢は考えたことがありません。
この研究が示す「制限的酸素療法」の考え方は、JPTEC活動にも活用できる貴重な知見だと思います。外傷傷病者に酸素を投与する際、「たくさん与えれば安心」という思い込みを一度見直す必要がありそうですね🧑🚒✨