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『私はウイルス』——第1章 封城日記:3,それは一時停止ですが、早送りでもあります。
過去3週間、大人口を抱える大きな図体(形容偌大)の武漢にストップキー(暂停键)が押された。そう、今はほとんど中国全体がストップキーを押された状態だ。そんな中、李文亮医師は若くして(英年)亡くなった。彼は私と同様の普通の人であるが、生来すぐれた判断力を持ち(良知)、自分の属する小さな医師グループの中でウイルスへの警鐘を鳴らした。それで私たちの心の英雄になった。私ははたと思い至った。このストップの現状を人々は見ることができ、見て理解することができるが、私はそれを一コマ一コマ早送りモードで見るとよりはっきり見えることに。10年後、20年後に同じような悲惨な出来事が起きれば、私たちが直面しているような場面がコマ送りで展開することだろう。それは新たなウイルスの来襲かもしれないし、水源の汚染や大きな堤防の決壊、原発の爆発かもしれないし、およそ私たちが予測し得ないなんらかの人災かもしれない。いずれにしても私たちはそうした災害を今と同じように迎えるに違いない。過ちを悔いることもなく、災難が来襲するたびに私たちは自分が無事でよかったと思うだけだ。いつも「内部通報者」が現れる幸運を待ち望みつつ、一人ひとりの中国人は依然として今次の人災同様「丸裸で疾走する(ストリーキング)」だろう。
世間を騒がせようと過激なことを言っている(危言聳聴)わけではない。とりあえず、2月2日に私がネットで見つけた、武漢の新型ウイルス流行に関する時系列表を見てみよう。時間を2019年12月1日の時点まで巻き戻す。
12月1日 金銀潭で初の患者、華南海鮮市場への立ち入り歴なし
12月10日 さらに3人発病、うち2人は華南海鮮市場への立ち入り歴なし
12月30日 武漢市衛生健康委員会が内部通知。武漢に原因不明の肺炎発生、華南海鮮市場に関連
12月30日 李文亮ら医師8人が微博の友人グループ内で同僚らに注意喚起(注:この時点で最初の患者発生から1カ月。李文亮医師ら8人はそれぞれ善意から注意喚起を発した。それで私たちはこの新型ウイルスを理解し、1カ月間の出来事が説明できた。武漢のウイルス感染者はすでに恐るべき数に上っている)
12月31日 華南海鮮市場を消毒
12月31日 国家衛生健康委員会専門家グループが武漢に到着
12月31日 武漢市衛生健康委員会が原因不明の肺炎27例を発表(通報)、「人から人への感染は未確認、医療スタッフの感染も未確認」
12月31日 協和病院が呼吸器伝染病隔離エリアを設立、1フロア24床ではすぐに不足となり、随時4フロアに拡張(注:武漢市当局が最初に情報を公開したのが医学的な究明が間に合っていない時点でないのは明らか。絶対に詐欺だ。その動機は、私たちがわざわざ知恵を絞って(費脳筋)分析を試みるまでもない、彼らは無数の動機から一般大衆を欺こうとするものだ。問題なのは(問題的関鍵)、無数の人の健康や生命に危険が及ぶしれない伝染病に直面しても、依然として慣例(習慣)的に詐欺的手段を用いたことだ。それは体制の邪悪さを反映している)
1月1日 華南海鮮市場閉鎖
1月1日 武漢市公安局がデマを広めたとして医師8人を取り調べ(注:公安局が8人を取り調べる以前に、すでに冷酷な国家マシンが原因不明の肺炎を理由に動きだしていたのは明らか。彼らが真相隠蔽を選んだとしてもなんら驚くに当たらない)
1月2日 大量の環境衛生要員が華南海鮮市場を徹底清掃(清潔)
1月2日 新華病院のCT担当医師がCT異常3例発見
1月5日 同済病院の救急医師1人にCT異常
1月5日 武漢市衛生健康委員会が患者59例発表、依然明らかな人から人への感染は未発見、医療スタッフの感染も未発見(注:現在私たちが理解している新型コロナウイルスの感染力と感染速度からすれば、この59例という数字は絶対にでっち上げ(人為編出来的)と断言できる。再度「人から人への感染は未確認」と強調しているのもパニックの発生を恐れ状況に配慮(斟酌)したものだ。人命に関わる事柄でありながら、「人から人への感染は未確認」という推敲に堪えないフレーズに対し、1000万都市武漢の誰一人として反応を示すことはなかった、私を含めて)
1月6日 武漢市人民代表大会・政治協商会議開幕
1月6日 新華病院の呼吸科医師1人にCT異常
1月6日 新華病院で内部会議、状況を外に出せないと強調、メディアへも公表できず
1月6日 中国疾病予防管理センター(中国疾病予防控制中心)が通達、2級(重大)応急対応(应急响应)発動
1月8日 国家衛生健康委員会専門家グループ、新型コロナウイルスが肺炎流行の病原と確認
1月10日 武漢市人民代表大会・政治協商会議閉幕
1月10日 新華病院のCT医師がCT異常30例発見
1月10日 同済病院のCT異常救急医師、感染確認
1月11日 新華病院で2例目の医療スタッフ感染
1月11日 武漢市衛生健康委員会が感染確認患者41例発表、死亡1例、3日以降新たな発病例はないと強調、人から人への感染は未確認、医療スタッフの感染も未確認」
1月11日 湖北省人民代表大会・政治協商会議開幕
1月15日 中国疾病予防管理センター(中国疾病予防控制中心)が通達、1級(特別重大)応急対応(应急响应)発動
1月16日 新華病院の耳鼻咽喉科主任がCT異常
1月16日 武漢市衛生健康委員会が新たな病例増加はないと発表、「人から人への限られた感染は排除しないが、なお人から人への感染リスクは低い」
1月17日 湖北省人民代表大会・政治協商会議閉幕。武漢市衛生健康委員会が12日から17日まで新たな病例増加はないと発表(注:両会議開催中、病例増加を発表せず、人々をかっとさせる(令人发指)。が、この国に住む誰一人として斟酌して口にせず(心照不宣))
1月18日 武漢市衛生健康委員会が病例4新増発表
1月18日 新華病院のCT医師がCT異常100例発見
1月19日 武漢市衛生健康委員会が病例17新増発表、病原確認後累計62例
1月20日 新華病院のCT飽和状態に
1月20日 鐘南山医師がメディアに対し「人から人へ伝染」と発表
1月22日 湖北省が2級応急対応発動
1月23日 武漢都市封鎖
1月24日 湖北省が1級応急対応発動
1月25日 新華病院耳鼻咽喉科主任死亡
2019年12月1日から2020年1月23日の都市封鎖まで54日間の政府による操作を「再放送」で振り返ると、その操作がでたらめで邪悪(荒唐和邪恶)であることが容易に見て取れる。と同時に、李文亮医師と7人の「情報通報者」が微博の友人グループ内で微弱な警報を鳴らした以外、政府の情報に懸念を抱いたり、懸念について問いを発したりした者が人口の一千万分の一もいなかったとは、私たちは考えもしなかったのではないか。事情を知る者は8人の医師に留まらなかっただろうし、政府の情報は穴だらけ(漏洞百出)だったというのに。これでは次に同じような災難に襲われたらどうなる? 一つの都市、国家を生命体と捉えるなら、私たちの免疫力はあまりに低下しているのではないか。私たちは何を以て、次なる災難を人災としない予防対策とするのだろうか。
都市封鎖の後、17年前のSARS流行が武漢であまりひどくなかったため、武漢人も武漢市当局もSARSの教訓を生かせず対応が遅れたと反省する人が少なくなかった。本当にそうなのか? 明らかにそうではない。今回ウイルスの流行を制御できなかった原因はただ一つ、私たちが当局を赦免(容忍)し、人命を最優先しない体制の行政ロジックを容認してきたからだ。私たち自身にせよ、今もって有効な薬剤が確認されていないという状況でなければ終日びくびくと暮らしたりはしないだろうし、致命的な危機がいつ何時自分の身に降りかかってくるか分からないと切実に感じたりはしないだろう。危機が深刻であるから私たちは平気ではいられないだけなのだ。
私たち一人ひとりの脳の中にウイルスがいる。それは今回の新型コロナウイルス同様、どこから来たものか、どのような経路を経てきたのかいまだ確定できない。しかし、一度爆発的に広がると、一度感染すると命にかかわる可能性がある。このウイルスと新型コロナとの違いはただ一つ急性(快速致命)か慢性かという点だ。それを体内から除去しなければ、たとえ予防でき制御できる災難であっても、一再ならず私たちの身に災禍として降りかかってくるだろう、我が身を含めて! それはこの世界のどこかに身を置くあなたも同じだ。私がチェックできた早送り画面のどれもがそのことを訴えている。
私がタイトル(書名)を「私はウイルス」としたのは、災禍のただ中で焦慮のあげく過激な判断に至ったからではけっしてない。それは長年持ちつづけてきた思考の大爆発である。私の診断・結論が多くの人に耳目を引くための過激な物言い(危言聳聴)と映ったとしても、それは間違いなく切実な憂いであり身を切って体得したものだ。「遠からぬ東方に一群の人あり。その膨大な数の一群の人は死に至るある種の慢性ウイルスを身に蔵している。このウイルスはいつ爆発するやもしれず、その災禍は、彼ら自身はおろか全人類に及ぶ。今次の伝染性がきわめて高い新型コロナウイルス、その伝播は速く、影形なく、誰もが望まぬような逃れようのない惨烈さで広がる。前もって早送り式でリハーサル(预演)をしたように、中国式ウイルスはおそらく人類に危害を与えるだろう」
かくのごとき災難を経れば、武漢人はかくのごとき計り知れない代価を払うことになる。全世界もまた恐怖の渦に巻き込まれる。武漢人が深刻に反省し、一身を以て行動を始めなければ、中国が次なる災難を乗り切りたいと思ってもそれは無理だ。もはや待てない。私は今こそホイッスルを響かせる(吹哨子)。全中国人に聞いてもらおう。全世界に聞いてもらおう。(2020年2月12日記)