気遣いジェントルマン
彼氏以外の男の話をしようか。
心移りとか浮気とかではなく、「こういう男がいる」というだけの事実であり、ただの記録である。数か月後、数年後に振り返った時に、そういう人もいたなと思い出せるように残しておこうと思う。
男と呼び続けるのも忍びないので、彼のことを橋本さんと呼ぶことにしよう。もちろん仮称である。
橋本さんは私の担当しているK社の総務の方で、29歳。イケメンではないけれど、ほんわかした雰囲気があり、他社さんのおじさん・おばさんの担当者と比べると、若くて親しみやすさがある(いろいろ失礼)。元々某信託銀行の営業をしていたらしく、おじいちゃんおばあちゃんによくモテたそう。なんか納得。いわゆる「いい人オーラ」がすごい出てる。
私は今年の4月からK社の担当となり、それ以来なんやかんやで毎月お取引があり、直近1か月では、メールはほぼ毎日、訪問も週に1回はしているような感じだった。
商談の内容的に、情シスの方が同席することも多かったが、最近は二人で面談することが多かった。彼も私もおしゃべりが好きなので、二人での面談の時は商談の話だけでなく、雑談もよくする。休日は何をするとか、今の仕事がどうだとか、最近の天気がどうだとか、よくある雑談を30分くらいすることが多い。
そういう機会が増えてからだろうか。いつからか、彼の気遣いをものすごく感じるようになった。
毎回メールの文末には「炎天下での外回りは本当に大変だと思いますので、無理なさらないでくださいね!」というような気遣いコメントがあり、テンプレではない内容も受け取るようになった。
また、盆明けに訪問した時は帰り際に「あの!外暑いのでよかったらこれ飲んでください!」と500mlのお茶をいただいたり、忙しい中訪問時間を割いたときは「僕の都合で無理してきてもらってすみませんでした、よかったらこれ」と言ってチョコレートをくれたりした。
とにかく優しかった。
最初は、信託出身だからその名残かな?と思ってありがたく頂戴していたのだが、途中からどうもそういうことではなさそうだなと思い始めた(完全に直感)。
そう思った背景にはいろいろあるが、極めつけは先週の訪問の時。台風の前日だった。いつも通り帰ろうとしたときに「あの、これ。明日台風で外回りしたら濡れちゃうと思うので。」と言ってスティッチのタオル(もちろん新品)を手渡してきたのだ。これには思わず笑いをこらえきれなかった。
販促品としてタオルを年末年始の挨拶の時にもらうことはあるが、自社商材とも全く関係のない、キャラクターのタオルをプレゼントしてくれる人が他にいるだろうか。なんだか妙に好意を寄せられているなあと思わざるを得ない日だった。
今までの私であればちょろちょろのちょろな女なので、こんな風にされたらころっと気持ちを持っていかれていたと思うが、今回は全くなびいていないのだ。ちょろい女から脱却できたと信じたいが、顔がタイプではなく(コラ)、安定感ありまくりの彼氏がいることが大きな要因だと思う。彼よりちょうどいい距離感で、居心地のいい人を見つけるのは大変だと自覚しているので、ちょっとやそっとじゃ気持ちは動かなくなった。
もし橋本さんが私に何かを期待していたら申し訳ないと思うし、これが私の思い違いで、彼がそういう気持ちなしにいろいろ気を遣ってくれているのであっても、毎回毎回何かを受け取ってしまうのは心苦しい。
来週もアポがあるだろう。
早めに橋本さんの真意を知りたいところだが、何かいい方法はないだろうか。