コンクールの価値と輪
フランスレストラン文化振興協会(略称、APGF)note編集部員です。
APGF公式noteの 第六回目の記事は、山本晃平理事からのメッセージです。
是非、山本理事の貴重なコンクールを通じて得たエピソードをお楽しみください。
1.職場ジレンマからの脱却
私がコンクールに初めてチャレンジしたのは約15年前の事でした。
そのきっかけと経緯を少しお話し参考になれればとの想いで文章を書かせて頂きます。
恩師の推薦もあり高校を卒業後、地元の小さなホテルに就職した私は料飲部バンケット担当に配属されサービス業の仕事に就く事となりました。新人はモンキーコートと呼ばれるユニフォームからスタートです。
周囲の反対もあり音楽の道を諦めた私は、日々漠然と働く中で黒服やソムリエコートの格好良い姿を目の当たりにし、職人的な考えや働き方にも魅力を強く感じた。
この「仕事を極めたい」「この仕事で食べていく」と思うようになりました。
田舎のホテルではありましたがタイミングよく大阪の有名ホテルを経験された方が上司として着任され、都会のホテルや有名レストランの話を沢山伺いました。
当時、仕事を教えてくれる人は殆ど配膳会社の方々で、劣等感のあった田舎者の私にとっては刺激的な話ばかり。
このままでは駄目だ!と感じた私は神戸・大阪のホテルやレストランを中心に巡りだします。
20歳の時、神戸御影のレストランで食したフランス料理が感動的でなんとも言えない感覚(料理・空間・サービスが絶妙に絡み合う体験)に包まれてしまいました。帰宅した後も眠りにつけないほどの興奮であった事を今でも鮮明に覚えています。まさにフランス料理にとりつかれた瞬間です。
その後もアラン・シャペル、ラ・べカス、ジャン・ムーランやラ・コート・ドールの流れを汲むレストランを毎月のように食べ歩きました。
仕事に戻れば、和宴会が殆どでバックヤードに一人アサインされている事が多くあり基本裏方です。同期も同年代のスタッフもいなかった私は、自分の実力がどのレベルなのか全く分からずに悶々とした日々を過ごしておりました。
そんなタイミングで若手コンクール開催の知らせがあり、上司からやってみろと背中を押される形でチャレンジを決意したのが全ての始まりです。
チャレンジしてみると有名ホテルやレストランの方々と遜色なく戦えた事が自信に繋がり「チャレンジの大切さ」と「人」という財産を手に出来たのです。
また参加した選手たちは、同じような悩みや苦悩、志を持っていることも知り得て、自身が仕事をしていく上での励みになりました。
私は元々、繊細で消極的なタイプの人間でしたが、コンクールへの挑戦が人格や人生さえも前向きにさせてくれることを教えてくれたのです。
2.常にフランスを隣に
コンクールを通じフランス文化に惚れえ込んだ私は、常にフランスが隣にある環境で働く事を決意し歩んでいきました。
そこで素晴らしいお客様や料理人、メートル・ド・テル達と時を共に出来、厳しいグランメゾンで積めた経験は礎になっております。
仕事内容は毎日の掃除から始まり予約に合わせたセッティング、銀器の磨き、卓上花を生ける、バターカットやドリンク・フロマージュの管理、お客様情報共有、伝票作成など多岐に渡り、先輩が出勤するまでに完璧に終わらせる。少しでもズレたセルヴィエットや花、臭うグラスがあれば全てやり直し…
また、フランス人シェフとのコミニュケーションも苦労しました。言葉も勿論ながら日本人のもつ細やかさとは違った繊細さと大胆さが入り混じっているのです。
満席で毎日が戦場化し張り詰める空気の厨房は、料理の声掛け一つ間違うとリズムが狂う真剣勝負。
実力主義で信頼と信用が全ての環境は、乗り越えた時に一生涯の関係となるのです。
3.コンクールと仕事に従事することの責任と任務と意義
私はコンクールに何度かチャレンジさせて頂き、幸いにも技能グランプリというコンクールで優勝する事が出来ました。
当時このチャレンジは自己啓発や現状自己レベルの確認をする意味が大半でありました。また同時に所属組織における自己アピールや存在意義の確立に燃えていたようにも思います。
しかしながら参加することの本当の意味は更に先にあり、業界全体の発展や指針、発信を司る人としての責任もあると感じています。
私たちの先輩方世代は日本の大きな経済発展があり、コンクールやお客様も含めた横の繋がりも多くありました。ガラパーティーなどで垣間見る先輩方のコミュニティーは羨ましいくらいです。
しかし現在は、激しいスピードでグローバル化する世の中、仕事の選択肢やコミニュケーションツールの多様化、レストランの在り方、お客様や料理人やメートル・ド・テルのネットワークの細分化は生身の繋がりの弱体化を意味しています。
このような現状から若手の世代でも先輩方に負けない様なネットワーク組織が出来ないかとの想いでCamarade de Serviceを設立し次世代へ繋ぎ発展していく事を目指し進めております。
私はフランス語にある「リエゾン」という言葉が大好きで、まさにコンクールやAPGFはそれを意味します。
コンクールは業界の血液とも言える存在ですので是非、自分から繋がりを取りに行ってみてください。
素晴らしい世界が待っています。
APGF理事 山本 晃平
サポートをしていただければ大変嬉しいです。 サポートはコンクール運営費や活動費に有意義に使わせて頂きます。