【クラブマン烈伝Vol.2】レースバカと呼ばれた男
時に読者の皆様は、何かに没頭している人物に対し「〇〇バカ」と呼んだことはあるだろうか?
其れに蔑みの意味は無く、その事柄をただひたすら愛し、取り組み、狂った者への最大級の称賛…。
この記事は「レース」を愛し、「レース」に取り組み、そして「レース」に狂う、1人のクラブマンレーサーのフィロソフィーを記録する、eモータースポーツドキュメンタリーである。
■Act.1至極の"お遊戯"
「レースバカ」と呼ばれた男。
その名を「南澤 拓実」と言う。
彼には「かつみなみ」というハンドルネームも存在するが、最大級のリスペクトを込め「レースバカ」と呼称されている。
彼は昔から「レースゲーム」をプレイする、今風に言えばeモータースポーツプレイヤーであり、その傍ら昔からカートに慣れ親しみ、今はロードスターパーティレースで四輪レースにも挑戦するクラブマンレーサー。
つまり、レースというものにおいてバーチャルとリアルを行き来する「冨林ストレート」を往く者の1人なのである。
しかし、レースバカを「eモータースポーツプレイヤー」と取り上げる者は少ない。
彼にはeモータースポーツで世界大会に行っただとか、県代表になっただとかの経歴は無い。
そもそも、参加していない。
確かに腕前はそれらで活躍するプレイヤーに匹敵するのに、何故か?
レースバカのeモータースポーツへの取り組み方は、他と少し違うのだ。
彼がレースゲームの中で、ポールポジションからスタートし、そのままブッちぎって勝つ所を筆者は見た記憶が無い。
彼のeモータースポーツでのプレイスタイルは
バンパー・トゥ・バンバー
ホイール・トゥ・ホイール
そして、サイド・バイ・サイド。
必ず結果を求められるリアルのレースでは味わい尽くせない、バトル、バトル、バトル…
その「レース」を骨の髄までしゃぶり尽くす、"至極のお遊戯"
それが彼にとってのeモータースポーツなのである。
故に、身内で行ってきたレースで必ずしも良い結果が出る訳ではない。
接触することもある。
しかし最後は、ご満悦の表情で何時の間にか眠りにつくのだ。
■Act.2コースアウトの定義
彼の「レースバカ」っぷりは、予選から発揮される。
レースの予選。
決勝のスターティンググリッドを決める重要な時間。
ここでは「速いか、否か」を問われるが、それとは別に「やってるか、否か」を問われる瞬間もある。
例えば―――
スパのオー・ルージュを全開で抜けるか、否か。
モナコやマカオの壁に寄せるか、否か。
ニュルのジャンプスポットでどれだけ高く飛べるか、否か。
近年安全性が増したとは言え、命懸けで走る事に変わりないモータースポーツにおいて、そういう「やってる」走りは、有無を言わさぬカッコよさで満ち溢れるのだ。
その観点でレースゲームでのレースバカの走りを見る。
ここはレイク・マジョーレ・中央レイアウト逆走の最終セクション。
Rの異なる左コーナーが連続し、僅かな直線を繋ぎ1つの複合コーナーとして扱いラインを描く。
その最も芝に寄せる部分に注目する。
この日最速ラップを記録したのは、薩摩の刺客・ヘイコ。
その寄せは、白線に満たないスマートなものであり、"寄せ"と速さは必ず比例するものでないことが伺える。
予選5位、「相模の白い彗星」馬場雄大は寄せる、寄せてゆく。
これが「レースバカ」を除く中で、最も芝に寄せたラインであった。
そしてこれが、レースバカの「寄せ」
筆者にはリアタイヤが浮遊しているようにしか見えないが、読者の皆様にはどう映っているのだろうか。
タイムは4番手。
必ずしも良いタイムではない。
しかしこれはもう、そういう話ではないのだ。
何故寄せる?何故浮かす?
これはコースアウトしてないのか?
レースバカのそれは、変態にしか理解し得ない定義。
単独で走る予選においても尚、レースバカなのだ。
■Act.3変わらない事
レースになれば、より彼の特色が光りだす。
ウェービングも虚しく冷えきってグリップしないスタート直後のタイヤ。
その状態でのインディスタート。
そんな状況を好むのは、レースバカだけなのである。
4番手から1コーナーだけで2番手に上げてゆく。
だが周りも負けていられない。
今回レースバカに挑むのは「まもちゃん」
まもちゃんもまた、「レースバカ寄り」のプレイヤー。
予選では2位とスピードはあるアウディで、1コーナーで前に出る。
しかしすんなり抜かれて終わらないのが、レースバカ。
2位を争いトップが逃げてる状態なら、一旦引いてトップを追いかける手もあるが、それはもうレースバカではない。
続くのが高速S字だろうが、インにノーズをねじ込む。
レースバカは、そうでなければならない。
レースバカとまもちゃんは、何気に横並びしてる時間が長い。
もう8年以上横に並んでいる。
あえて、何時までも変わらない。
そういう事が許される世界もまた、いとおかし。
■Act.4レースバカになりきる
別のレースでのこと。
今度は薩摩ヘイコにレースバカが襲いかかる。
薩摩ヘイコもまた、レースバカとの因縁深き関係で、共にカートでは全日本戦まで登り詰めた経歴を持つ。
故に並ぶ。並んでゆく。
所構わず、いつまでも。
間違いないようお伝えしたいが、ヘイコ側はこれを望んではいない。
可能ならレースバカを引き離し、離れてゆく上位陣を追いかけたいが、ウエイトハンデでストレートが遅く苦労しているという状況。
このバトル、筆者にはレースバカに分があるが、すんなり勝負を決めず、レースバカになりきってしまっているように見えた。
「変態めぇ…」
ヘイコが受けるその"攻め"に、思わずレースバカに毒づく。
対しレースバカは
「フハハハハ」
とても愉しそうに、笑うのみなのである。
バトルの化身と化したレースバカは、散々バトルし散らかした後、残り数周で疲弊したヘイコのインを差し切り抜き去る。
そうしてそのまま、フィニッシュしてゆくのだ。
この日の成績は、5位。
レースバカの技量とフェラーリに課された救済処置を考えれば、もっと上を争えたのではとも思える。
しかし今夜も、彼はご満悦の表情で何時の間にか眠る。
彼が出るレースのリプレイは、彼に視点を合わせて観たくなる。
結果よりバトルを求めてしまうeモータースポーツにおける彼のそれは、間違いなくエンターテイメントなのだ。
そんなレースバカは今、今季のロードスターパーティレース東日本NDシリーズ、開幕2連勝でランキングトップに立っている。
リアルでは時に無慈悲な程の、ポールトゥウィンでフィニッシュしてゆく。
リアルレースで結果を出すその理由の1つは、バーチャルではレースバカになりきること…なのかもしれない。
岡田