【クラブマン烈伝Vol.1】クラブマンレーサーYの肖像
この記事をご覧の皆様は、「クラブマン」という言葉をご存知だろうか?
クラブマンとは、モータースポーツ愛好家がJAFなどのクラブに属し、紳士的にモータースポーツを嗜む人物を指した言葉である。
今ここに、その「クラブマン」をリアルとバーチャル、両方で体現する男が現れた。
その名を、"クラブマンレーサーY"という。
この記事は、クラブマンレーサーYのフィロソフィーを記録する、eモータースポーツドキュメンタリーである。
■Act.1 クラブマンレーサーY
クラブマンレーサーY(以下Y)とは何者か?
その正体は、自称「間違い探しの間違いの方の菅田将暉」こと、中島優太である。
YはJAFが管理するリアルモータースポーツ「ロードスターパーティレース」に、自身が所持するNC型ロードスターで参戦するクラブマンレーサーであるが、そのルーツはeモータースポーツ…いや、「レースゲーム」にある。
学生時代から仲間と共に夜な夜な遊んだ記憶が、彼をモータースポーツの世界へ誘った。
そんなYだが、ここ最近再び「eモータースポーツ」の世界にも回帰しつつある。
きっかけは昨年末から、国内最大級のeモータースポーツ大会として発足した「JeGT」である。
Yはこの大会に、チーム「TC CORSE e-sports MAZDA」の一員としてエントリーし、第3戦第2レースに参戦。
マツダが誇る最強eモータースポーツレーシングカー「MAZDA RX-VISION GT3」を操り、敗者復活戦へ後輩チームメイトに繋いだ。
そのシーズンのJeGTチーム戦は、見事にYが所属する「TC CORSE e-sports MAZDA」がチャンピオンを獲得。
Yのバーチャル凱旋に華を添えた。
バーチャルからリアル、そしてリアルからバーチャルへ、クラブマンの精神を伝えてゆくのだ。
ちなみにYは普段、クボタが誇る最強重機「KUBOTA RX406 GT3」を操り、健やかな人々の生活を未来へ繋ぐ仕事をしている。
■Act.2 動じない
昔からレースゲームをやる仲間内のLINEが、湧く。
「GT3になったDTM、みんなでやろうよ。」
DTMとは海外の"ハコ車"レースの最高峰「ドイツツーリングカー選手権」の事。
グランツーリスモが「6」の時代、このLINEに集まる仲間内で、当時収録されていた2000年初頭のDTMマシンを使いシリーズ戦を行っていた。
時が経ち、当時車好きキッズの巣窟だった集まりの平均年齢が25を越えようという今日、ノスタルジックな気分と共に皆がDTMだと湧く。
Yも応える
「俺も、出たい」
DTMが何かなど、知らない。
Yはただ、楽しいことをしたい、それだけなのだ。
そんなYに配車されたのは、2021年DTMのトップドライバーの1人、D.ジュンカデラ選手がリアルでは操る8号車AMG GT3である。
D.ジュンカデラ選手は国際的なプロフェッショナルレーサーだ。
DTMを始め、ニュル24時間耐久、マカオGPなどでの活躍も記憶に新しい。
しかしYは
「ジョン・カビラ?」
動じない、動じないのである。
リアルでプロ中のプロレーサーが乗っていようが、この世界ではクラブマンレーサーであるYの愛機であり、"龍"なのだ。
リバリーを施し、Yが呟く。
「俺、ピンク、好きよ」
■Act.3 申告
7月某日、熱帯夜の中で身内シリーズ「LC DTM'21」が開幕する。
スターティンググリッドを決める予選。
レースを左右する、重要な時間だ。
Yはコースに繰り出す。
しかし迫る、跳ね馬のエース。
譲る。譲ってゆく。
丁寧に左ウィンカーを出して。
紳士的な振る舞いこそ、クラブマンの精神なのだ。
この日のYは攻める。
AMGはYに応える。
集まったトッププレイヤーに負けない、3番手タイムをマークしてみせた。
その刹那、Yは言う。
「めっちゃ良いタイム出たんだけどぉ、俺、カットしちゃった」
申告するのだ。
仲間内でイン側の黄色い部分には乗せないようにと決めた。
しかしこのルールでは、カットしてもバレないかもしれない。
それでも尚、申告するのだ。
寛大なスチュワートは、Yのタイムを抹消することなく、3番手スタートが確定した。
■Act.4 モータースポーツな瞬間
このレースは、ダミーグリッドに着くところから再現する。
予選が終わり、ピット待機後、各車がコースへ再び出てゆく。
モータースポーツとは難しい競技である。
非日常的なスピードで車を走らせ、同じように走るライバルを出し抜く…
ピットを飛び出すドライバーの心境は、緊張、興奮、不安、様々な感情が交錯し、コントロールは至難の業。
しかしそれらを鎮め、丁寧に車両をグリッド枠内に納める。
それがコース上での最初のドライバーの仕事であり、"モータースポーツな瞬間(とき)"なのである。
Yは言う
「これ、好き」
■Act.5 やる気だね?
フォーメーションラップを開始する各車両。
ダミーグリッドルールにより、タイヤは冷えっ冷え。
コントロールラインをトップが跨ぎ、全車アクセル全開。
Yは企む。
YのAMGは救済処置により、5%のパワーアップが施されている。
加えて蹴り出しの速いAMGなら、3番手から一気にトップに立つことも不可能ではない。
自分に問う
「やる気だね?アレを…」
自分に答える
「やるさ…!」
冷えたタイヤで一発、ギリギリのレイトブレーキングを企てる。
―――!!??
やる気だったのは、Yだけではなかった。
「うぉいうぉいうぉい〜〜!」
トップ3が強制コース復帰させられる。
Yは、9番手。
いつだってレースは、予想を裏切ってくるのだ。
■Act.6 お前は、黙っとれ
50分のレース、紆余曲折ありYは躍動する。
予選3番手は伊達ではない。
国体代表、世界大会経験者、スーパー耐久チャンピオン…そんな肩書きに、Yは怯まないのである。
気が付けばファイナルラップ。
Yは粘り強く6位に着ける。
このポジションは5%の救済を受けたプレイヤー、即ち「クラブマンゲーマー」の最上位。
前を走るのは3号車アウディR8。
操るのは薩摩の刺客「ヘイコ」
eモータースポーツの世界に身を投じ、モータースポーツを愛し、彼もまた「クラブマンレーサー」を志す者であり、クラブマンレーサーYをリスペクトしている。
そのヘイコを、刺す。
クラブマンレーサーYが、刺してゆく。
だが、しかし…
「お前は、黙っとれ…!」
…カタルシスなのだ。
このグランツーリスモの世界において、クラブマンレーサーには負けられない。
その意識、精神の浄化、その現れが、レイトブレーキングであり、カタルシスなのである。
開かない。
固く閉ざされたヘイコのインは、最後まで開く事はなかった。
6位。
ロードスターパーティレースなら、入賞。
しかしこの世界の6位は、入賞とは言えない。
称賛はない、祝福もない。
公式戦ではないので、記録もされない。
しかし、それが何だと言うのだ。
たのしかった
それ以上、何を望む?
"クラブマンとは、モータースポーツ愛好家がJAFなどのクラブに属し、紳士的にモータースポーツを嗜む人物を指した言葉である。"
Yは、嗜みきるのである。
それがリアルであろうと、バーチャルであろうと。
これが、クラブマンレーサーYの肖像。
岡田