アメリカン・ポップス・クロニクル 1960年代編 ch.3 (3)
夜明け前の月光
ジャン&ディーンが最初に契約したDore Recordsですが、経営者はルー・べデルとハーブ・ニューマンの2人。彼らは55年にEra Recordsを起ち上げて、ゴギ・グラント(風来坊の唄 #1)やアート&ドティ・トッド(シャンソン・ダムール)などをヒットさせていました。その彼らが、ロックンロールの分野にも参入したいと、58年6月に設立したレーベルがDore Recordsでした。
"To Know Him Is to Love Him" 1958年春、フェアファックス高校を卒業したフィル・スペクターは、在学時から出入りしていたゴールド・スター・スタジオで、最初のセッションを行うためにメンバーを集めます。集まったメンバーは、マーシャル・ライプ、ハーヴェイ・ゴールドスタイン、そしてリード・シンガーのアネット・クラインバードの3人でした。アネット・クラインバードは後にキャロル・コナーズとして知られていますね。
彼らが最初に録音した曲は"Don't You Worry My Little Pet"でした。この曲のアセテート盤を手に、スペクターは売り込みに動き出し、友人の紹介でエラ・レコードとコンタクトが取れて、ルー・べデル、ハーブ・ニューマンの2人と会い、エラ・レコードが新しいレーベルを作った話を聞き、最終的にその新興のドレ・レコードと契約を結びました。契約内容は、レコード1枚につき1.5ドルの印税で4枚のシングルを出すというものでした。
グループ名はThe Teddy Bearsと決まりました。エルヴィス・プレスリーのヒット曲がヒントになったようですね。セッション2日目は、シングルB面用に"Wonderful Lovable You"を録音しました。この2日目以降、ゴールドスタインは予備役の訓練キャンプに行かねばならず参加していません。The Teddy Bearsは、フィル・スペクター、マーシャル・ライプ、アネット・クラインバードの3人組となりました。
ゴールド・スター・スタジオ3日目のセッションでは、曲の仕上げにとドラマーのサンディ・ネルソンが呼ばれました。そして、スペクターは満を持して3曲目の"To Know Him Is to Love Him"を録音しました。その出来上がりを聴いたべデルとニューマンは、その曲に可能性を感じて、デビュー・シングルのB面になりました。
1958年8月1日、デビュー・シングルがリリースされました。9月になると中西部のラジオ局で流したB面の"To Know Him Is to Love Him"が人気を呼び、その動きに目を留め、AB面を逆にして再発売したところ、9月22日付けビルボードTop100に88位で初登場しました。べデルが売り込み『アメリカン・バンドスタンド』に出演すると、全米のヒットとなり、12月1日付けチャートでNo.1に輝きました。
華々しいスタートを切ったフィル・スペクターでしたが、翌年1月ドレ・レコードとロイヤリティの問題で揉めて、ドレからインペリアル・レコードに移籍して、アルバム制作に取り掛かります。しかし、インペリアルでは馴れ親しんだゴールド・スター・スタジオではなく、マスター・サウンド・スタジオでの録音作業に戸惑い、ジミー・ハスケルのプロデュースに仕切られる形になり、アルバムはスペクターが納得できる作品にはなりませんでした。シングルカットされた曲もヒットはせず、インペリアルを去ることになりました。
ところが、マスター・サウンド・スタジオで偶然知り合ったレスター・シルが助け舟を出します。彼とリー・ヘイゼルウッドが設立したTrey Recordsと契約し、スペクターの高校の後輩のラス・タイトルマン、ウォーレン・エントナー、そしてスペクターの最初の奥さんとなるアネット・メラーの3人でThe Spectors Threeを作り、シングルを2枚リリースしました。
レスター・シルと出会って幸運だったのは、彼がリーバー&ストーラーを早いうちから見出していた事、スペクターは彼らの仕事に憧れていたので、レスター・シルを通じてリーバー&ストーラーの元で仕事をすることになりました。1960年、フィル・スペクターは生まれ故郷のニューヨークへ戻りました。
フィル・スペクターはジェリー・リーバーと、ベン・E・キングの「スパニッシュ・ハーレム」を共作して、全米10位のヒット曲を生みました。さらには、Dunes Recordsのプロデューサーとなり、レイ・ピーターソンの"Corrina, Corrina"を全米9位に、61年にはカーティス・リーの"Pretty Little Angel Eyes"を全米7位にと、この年暮れにレスター・シルと新しいレーベルを興す足掛かりとなりました。彼が一時代を築くまで、あと少し。
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