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アメリカン・ポップス・クロニクル 1960年代編 ch.4 (5)

I Got Lucky

1960年3月2日、エルヴィス・プレスリーはアメリカに戻って来て、陸軍での兵役を終えました。ニュージャージーから列車でテネシーへ向かいましたが、途中の停車駅で帰国の歓迎を受け、3月20日深夜にようやくナッシュビルのRCAスタジオBに入りました。新しいアルバム用の曲を数曲と、シングル用の "Stuck On You"と"Fame And Fortune"を録音して、2日後にシングルをリリース、このシングル盤には特別にピクチャー・スリーブが付けられていました。このことから分かるように、パーカー大佐とRCAのスティーヴ・ショールズは相当入念な準備をしていたと思われます。"Stuck On You"は4月4日付けポップ・チャートに84位でランクイン、17位、6位と上がり、4月25日ポップ1位を獲得しました。

4月8日、4枚目となるスタジオ・アルバム『Elvis Is Back!』を発売。これはエルヴィス初のステレオ・アルバムで、ポップ・アルバム・チャート2位でした。5月12日には「フランク・シナトラ・タイメックス・ショー」にゲスト出演、ロックンロールに否定的だったフランク・シナトラが、低迷する自身の番組の最後に視聴率が取れるエルヴィスを選んだのは、パーカー大佐とシナトラのお互いの利害関係が一致した結果でした。

60年4月上旬、この年リリース予定の2枚のシングル曲をレコーディング、4月末からは映画『G. I. ブルース』の撮影開始に合わせて、サウンドトラック・アルバムのレコーディングも行い、アルバムは9月23日発売され、映画は11月4日初公開されました。アルバムはポップ・アルバム・チャート1位になり、映画の興行収入も良い結果を残しました。

パーカー大佐は、60年代のエルヴィスの活動が映画中心にならざるを得ない契約、1年間に3本の映画出演という契約を結んでいたのです。エルヴィスも俳優業には興味を示しましたが、彼が望んだのはコメディ・タッチのミュージカル映画ではなく、高い水準の演技力が必要な役柄を希望していました。実際『G. I. ブルース』の次の2作では、『Flaming Star』は白人とインディアンの混血青年の役、『Wild in the Country』は小説家を目指す内向的な青年の役を演じましたが、この2作は商業的に成功せず、次の『Blue Hawaii』が大ヒット作になり、従来の路線へ戻すことになります。

60年10月下旬、エルヴィスが残した3枚のゴスペル・アルバムの最初の作品『His Hand in Mine』をレコーディングして、11月23日に発売しました。このアルバムは、ポップ・アルバム・チャート13位にランクされましたが、ゴスペル・アルバムとしては異例の売上でした。

61年2月リリースのシングル曲"Surrender"は、チャート初登場が24位と、その勢いのまま、週ごとに4位、2位とチャートを上がり、ポップ1位を獲得しました。除隊後の慌ただしさから、ようやく落ち着きを取り戻したのか、3月12、13日ナッシュビルでのレコーディング・セッションはリラックスした雰囲気で行われ、仕上がったアルバム『Something for Everybody』もスロー、アップともにカントリー・タッチの穏やかさが感じられる好作品で、これもポップ・アルバム1位を獲得しています。

61年3月25日、エルヴィスはハワイで戦艦アリゾナ記念館を建設するためのチャリティーコンサートを行いましたが、彼はこのコンサート以降約7年間、映画の中で歌う事はあっても、実際に人前で歌うライブ活動は行われませんでした。

この年のシングルは、"I Feel So Bad"がポップ5位、ボ・ディドリー・ビートの"(Marie's the Name) His Latest Flame"は、B面の"Little Sister"もヒットして、4位と5位にチャートされ、サウンドトラック・アルバム『Blue Hawaii』からのシングルカット曲"Can't Help Falling in Love"は2位で、この時の1位はJoey Dee and the Starlitersの"Peppermint Twist"でした。

1962年のエルヴィス・プレスリー、エルヴィス流ポップスのひとつのピークではないかと思います。この年は、シングルが3枚、コンパクトEPが2枚、スタジオ・アルバムとサウンドトラック・アルバムがそれぞれ1枚を発表しています。映画もお約束通り3作品公開されました。

シングル曲"Good Luck Charm"は2月27日にリリースして、4月21日付チャートでポップ1位を獲得しました。7月リリースの"She's Not You"は最高位が5位で、サウンドトラック・アルバム『Girls! Girls! Girls!』からのシングルカット曲"Return to Sender"は10月リリースで、ポップ2位を記録しています。1位はフォーシーズンズの"Big Girls Don't Cry"でした。

コンパクトEPの2枚は、どちらも映画挿入歌で、『Follow That Dream』が4曲入り、『Kid Galahad』が6曲入りと、良質な佳曲が並ぶレコードで、前者からはタイトル曲が、後者からは"King of the Whole Wide World"がラジオプレイでのTop 40入りとなり、シングル・チャートで15位と30位を記録しています。

スタジオ・アルバムの『Pot Luck』は、5月18日リリースで、ポップ・アルバム・チャート4位を記録しています。発売当時のシングルカットがないアルバム、全曲オリジナル、カバー曲のないアルバムとなっていて、B面ラストに収録の"That's Someone You Never Forget"には作曲者にエルヴィスのクレジットがありました。サウンドトラック・アルバム『Girls! Girls! Girls!』は11月9日リリースで、ポップ・アルバム・チャート3位を記録しました。

これ以降アルバムはサウンドトラック・アルバムが続くのですが、それはパーカー大佐の方針が、サウンドトラック・アルバムは映画の宣伝に役立つものと考えて、普通であればヒットシングルをアルバム収録することで売上を伸ばすのですが、それに反したアルバム作りをしていました。さらには、69年の『From Elvis in Memphis』までスタジオ・アルバムが作られることがなくなってしまいました。

1963年、残念なことですが、エルヴィスはついにシングルNo.1の無い年になりました。リリースされたのは、シングルが"One Broken Heart for Sale" (全米11位)、"(You're the) Devil in Disguise" (全米3位)、"Bossa Nova Baby" (全米8位) の3曲。"Bossa Nova Baby"はR&Bチャートにランクされた最後の曲でした。アルバムは、サウンドトラック・アルバムが2枚、『It Happened at the World's Fair』(#4)、『Fun in Acapulco』(#3)、編集盤の『Elvis' Golden Records Volume 3』(#3) の計3枚でした。

1964、65年になると、世の中はベトナム戦争の時代になり、若者たちは社会的関心が強くなり、映画を活動の中心にしたエルヴィスのマンネリ化した作品は、社会とのズレが生じていきました。60年に録音した"Crying in the Chapel" が65年にシングル・リリースされ3位になったように、世の中はこの様なスピリチュアルな曲を待っていたのかもしれません。

エルヴィス・プレスリーが、映画から歌に戻り、歌と向き合っていくまでには、もう少し待たなければいけませんでした。

(2022/02/25)

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