稲田豊史『映画を早送りで観る人たち』まとめメモ

映画を早送りで観る現象の増加。その背景として以下の3つがあげられる。

① 作品数が多すぎること
  話題についていくために観るべき作品が多すぎるため、時短で解決しようとしている。SNSやLINEにより他者と常時接続することを余儀なくされる状況の中でグループの輪を保つため、多数の作品を観て話題についていくことの重要性が増している。これによりToDo過多に陥っている。

② コスパを求める人の増加
  普通・メジャーが失われた時代にあって個性を持ちコミュニティに属さなければ孤立してしまうため、個性獲得手段としてスペシャリスト(拠り所としてのオタク)になることが必要。また、日本型経営が崩壊する中で、ジェネラリストではサバイヴできないため、スペシャリストになることが求められる。そのためにコスパを求める傾向が強くなっている。このように、スペシャリストが求められる時代に、趣味においても作品を効率よく「消費」することで手っ取り早く情報を吸収しようとする。

③ セリフですべてを説明する作品の増加
 リテラシーが低い人を差別しない、わかりやすい作品こそが良い作品とみなされるようになった。その背景には、SNSでバカでもいえる感想が可視化されたことがある。わかりやすさが求められる結果、セリフですべてを説明する作品が増え、倍速視聴でも理解ができるような環境となった。

その他以下のような事情もある。
・サブスクにより作品ひとつひとつが大事にされなくなった。作品を鑑賞するのではなく消費するようになった。
・今の大学生は、仕送り額の減少により時間も金も圧倒的に不足している。
・快適主義、快楽主義の蔓延により、嫌いなシーンは飛ばすなどの習慣が普通になっている。これらを背景として作品自体も心の動きを丹念に描かなくなったため、早送りしても支障がなくなっている。
・心のカロリーを消費しないように倍速視聴し、感情移入しにくくしている。
・リキッド消費
・若い世代では、単位時間当たりの情報処理能力が上昇している。 

倍速視聴は悪か?
 かつて、レコードは「缶詰の音楽」と揶揄された。テレビができたときには「一億総白痴化」と揶揄された。時代が進むにつれ、倍速視聴を揶揄するほうこそ笑われる側に回るかもしれない。
 ただ、それでも・・・。

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