#ネタバレ 映画「オリーブの林をぬけて」
「オリーブの林をぬけて」
1994年作品
オフィスラブでは上司も味方につける
2016/5/4 8:29 by さくらんぼ
( 引用している他の作品も含め、私の映画レビューはすべて「ネタバレ」のつもりでお読みください。 )
「 素人を使う映画の撮影現場。ひょんな事から新婚夫婦の夫役に抜擢されてしまうホセイン。妻役は、以前にプロポーズして断られた少女タヘレ。しかし両親から断られていたため、彼はこの機会にタヘレ自身の気持ちを確かめたいと思うのです 」。
ホセインの、健気だとも言えるし、女々しいとも言える、そのリアルで、ぎこちない口説き姿は、わが身を見るようで、目が離せません。
対して、突き放すようにクールにふるまう少女タヘレ。
追われる者の余裕。
ますます燃えるホセイン。
それを知った監督もホセインを優しく応援。
この映画史に残る?「もっともギコチナイ求愛」の後には、これもまた映画史に残る!「もっとも詩的なクライマックス」が用意されていて、その演出ギャップに観る者は萌えるのです。
すでに心は監督の手中にあり。
★★★★★
追記 ( 手柄は部下のものにする上司 )
2016/7/9 8:14 by さくらんぼ
イランの宝であったアッバス・キアロスタミ監督が、2016.7.4に76歳で亡くなりました。
日経新聞2016/7/7には「キアロスタミ監督を悼む・虚構を重ね、真実を待つ」と題した、映画監督・篠崎誠さんのコラムがありました。
「…ドキュメンタリー・タッチとか素朴な味わいなどと言われたが、実際はその反対だ。…あらゆるカットは入念に準備され、映画ならではの虚構を積み重ね、その先に真実の瞬間が立ち現れるのを待ち続けた。」(抜粋)
この映画「オリーブの林をぬけて」もそうですが、現地で見つけた素人二人を主役に起用し、さらにドキュメンタリー・タッチなので、失礼な表現をすれば、私は「日本ではとても作れない、ゆきあたりばったりな映画」だと思っていたのです。「終わり良ければ総て良し」と言われるように「ラストシーンの美」だけで取り繕っているような。
ただ、それが奇跡的な成功を収め、結果的に私の大好きな一本になっただけだと。いや「そのゆきあたりばったり」の「ゆるさ自体に惚れた」のだと。実際に高密度社会の日本で疲れると、監督の映画は「環境ビデオ」のように「癒しそのもの」でしたから。
しかし実際には、黒澤映画を連想させるような緻密な準備があったわけで、作品からそれが見抜けなかった自分を恥じました。
イラン映画というと、日本で上映・放送されることはほとんどなく、結果、多くの日本人には観る機会が無いのですが、少なくともキアロスタミ監督の映画には、「日本人の心情にもフィット」した、今の日本映画には少なくなってしまった「野草に宿るような心」が残っています。ぜひこの機会に再上映・放送してもらいたいものです。
監督のご冥福をお祈りします。
( 最後までお読みいただき、ありがとうございました。
更新されたときは「今週までのパレット」でお知らせします。)