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精神的ストレス時の呼吸反応における視床下部と中脳の役割



はじめに

私たちの自律神経系は、内的・外的環境の変化に対してホメオスタシス(恒常性の維持)とストレス適応の2つの異なるメカニズムで対応しています。前者はフィードバック制御によるもので、後者はフィードフォワード制御によるものです。精神的ストレスは、行動変化と交感神経活動の亢進を伴う自律反応を引き起こすことが知られており、これは私たちが獲得した「生き残り戦略」の一環である防御反応に起因していると考えられています。

この防御反応の中枢として、視床下部背内側核(DMN)と中脳中心灰白質(PAG)の2つの神経領域が関与していることが明らかになっています。視床下部背内側核中脳中心灰白質の刺激は昇圧や頻脈を伴う呼吸機能の増強を引き起こすことから、精神的ストレス時の呼吸循環反応における両領域の役割が注目されています。本研究では、精神的ストレスが引き起こす呼吸反応に対する視床下部背内側核中脳中心灰白質の機能と、両者の相互作用について解明することを目的としています。


ストレス時の自律神経系

私たちの自律神経系は、外的・内的環境の変化に対して2つの異なる機能を果たしています。ひとつは、恒常性の維持のためのフィードバック制御による調節機能です。もうひとつは、行動変化に伴う自律神経反応の変化を介して、環境変化に適応するフィードフォワード制御による機能です。

精神的ストレスは後者の適応機能に関わり、交感神経活動の亢進を引き起こします。これにより血圧上昇、頻脈、呼吸増加などの自律神経反応が生じます。この反応は、本来は生命の危機に際して生体の生存可能性を高めるための防御反応の一環ですが、ストレス過多な現代社会においては、不整脈や脳卒中などの循環器疾患、不安障害のリスクにもなっています。

さらに、日常の過度なストレスによる持続的な交感神経活動の亢進は、高血圧やうつ病の危険因子となることが指摘されています。つまり、精神的ストレスは短期的には自律神経反応を介して一時的な生理的変化をもたらしますが、長期化すると慢性疾患のリスクも高まるのです。

このように、自律神経系は環境変化への適応に重要な役割を果たしていますが、現代社会におけるストレス過多は健康に深刻な影響を及ぼす可能性があります。ストレスマネジメントが重要視される理由がここにあります。

視床下部の役割

視床下部背内側核(DMN)は、精神的ストレスに際して重要な役割を果たしています。視床下部背内側核DMNに分布するニューロン群が、ストレス時の呼吸循環反応を制御する中枢としての機能を担っていることが明らかになっています。

視床下部背内側核DMNのニューロン活動を抑制すると、ストレス時の自律神経反応である血圧上昇や頻脈が抑制されます。一方で、視床下部背内側核DMNのニューロンを刺激すると、ストレス性の自律反応と同様の頻脈、血圧上昇、呼吸数増加が引き起こされます。これらの結果から、視床下部背内側核DMNのニューロン群が呼吸循環機能の調節に深く関与していることがわかります。

しかしながら、視床下部背内側核DMN内のニューロン群には機能的な局在化が見られ、呼吸、循環、心臓などの異なる機能を制御するサブグループが存在することが示唆されています。つまり、視床下部背内側核DMNには特定の「コマンドニューロン」は存在せず、様々な自律反応を統合する中枢として機能していると考えられます。

このように、視床下部背内側核DMNのニューロン群は精神的ストレス時の呼吸循環反応を制御する重要な役割を果たしていますが、その機能は単一のコマンドニューロンによるものではなく、複数のサブグループの活動によって統合されていると推測されます。視床下部背内側核DMNは、ストレス時の自律神経反応を包括的に調節する中枢的な役割を担っていると考えられます。

中脳の役割

中脳中心灰白質(PAG)は、精神的ストレス時の呼吸循環反応の調節に重要な役割を果たしています。従来から、中脳中心灰白質PAGの背外側部周辺灰白質と外側周辺灰白質がストレス反応の中枢であり、その刺激により交感神経活動の亢進による血圧上昇や心拍数増加、さらに「闘争か逃走」の行動が引き起こされることが知られていました。最近の研究では、PAG内の特定のニューロン群、特に背外側部周辺灰白質のニューロン群が、防衛反応に基づく精神的ストレス反応の「コマンドニューロン」として機能する可能性が示唆されています。背外側部周辺灰白質は、ストレス時の呼吸機能亢進と交感神経活動の増加を同時に引き起こすことから、この2つの反応を統合する役割を担っていると考えられています。

一方で、視床下部背内側核(DMN)を抑制すると、背外側部周辺灰白質の刺激による呼吸循環反応が消失することから、背外側部周辺灰白質視床下部背内側核に情報を出力し、ストレス時の呼吸循環反応の上位中枢または中継核として機能している可能性があります。つまり、中脳中心灰白質視床下部背内側核は、精神的ストレス時の呼吸循環反応の調節において、相互に関与しあっていると考えられます。ストレス応答における両者の詳細な相互作用については、今後さらに解明される必要があります。

視床下部と中脳の相互作用

精神的ストレス時の呼吸循環反応において、視床下部と中脳は密接に関係しながら重要な役割を果たしていることがわかっています。視床下部背内側核は、ストレス時の自律神経反応、特に血圧、心拍数、呼吸の亢進に関与しています。一方、中脳の背外側部周辺灰白質も、視床下部背内側核に情報を出力することで、ストレス時の呼吸循環反応の調節に関わっている可能性が高いことが示唆されています。つまり、視床下部背内側核背外側部周辺灰白質は相互に関連しながら、ストレス反応時の自律神経調節に重要な役割を担っているといえます。

ただし、視床下部背内側核にはストレス反応を統合的に制御するコマンドニューロンは存在せず、むしろ呼吸、循環、心臓など異なる機能を持つニューロン亜集団が存在することが示唆されています。一方、背外側部周辺灰白質のニューロン群には、防衛反応に基づく精神的ストレス反応のコマンドニューロンが存在する可能性があると考えられています。

さらに、視床下部の傍脳弓領域(PeF)は、条件付け恐怖ストレスに際して交感神経活動の亢進と呼吸促進反応を引き起こす重要な制御部位であることが分かっています。したがって、DMNとPeFが協調して、精神的ストレス時の自律神経反応を統合的に調節していると考えられます。今後の研究で、これらの領域の詳細な相互作用が明らかになることが期待されています。

まとめと展望

本レビューでは、精神的ストレス時の呼吸循環反応に関する視床下部と中脳の役割について詳しく解説しました。視床下部背内側核(DMN)と背外側部周辺灰白質(dlPAG)が、ストレス時の呼吸循環反応を統合的に調節していることが明らかになりました。

視床下部背内側核DMNには呼吸、循環、心臓などの異なる機能を担う複数のニューロン亜集団が存在し、コマンドニューロンは存在しないと考えられています。一方、傍脳弓領域PeFは条件付け恐怖ストレスにおいて交感神経活動と呼吸促進に働きます。さらに、背外側部周辺灰白質dlPAGにはストレス反応のコマンドニューロンが存在する可能性が高く、視床下部背内側核DMNに情報を出力し、呼吸循環反応の上位中枢または中継核として機能していると推測されています。つまり、視床下部背内側核DMN、傍脳弓領域PeF、背外側部周辺灰白質dlPAGが相互に関連しながら、ストレス時の自律神経反応を統合的に制御していると考えられます。

今後は、これらの神経領域間の詳細な機能的相互作用について、さらなる解明が必要不可欠です。また、急性ストレスだけでなく、慢性的なストレスが自律神経系に及ぼす影響や、ストレス関連疾患との関連性についての解析も重要な研究課題となるでしょう。ストレス反応のメカニズムを深く理解することで、ストレスマネジメントの重要性がさらに強調され、循環器疾患やうつ病などのストレス関連疾患の予防や治療に役立つと期待されます。健康増進の観点からも、今後のさらなる研究の進展が望まれます。





質問 1: 精神的ストレスが呼吸反応に与える影響は何ですか?

回答: 精神的ストレスは自律神経系を刺激し、呼吸機能の増強を引き起こします。特に、視床下部背内側核(DMN)と中脳中心灰白質(PAG)が重要な役割を果たし、これらの部分の刺激は昇圧や頻脈とともに呼吸数の増加を引き起こすことが示されています。

質問 2:視床下部と中脳の具体的な役割は何ですか?

回答: 視床下部のDMNは、自律神経の反応において重要です。そこに分布するニューロンは、急性の精神的ストレスに応じた神経性の呼吸循環反応を調節している可能性があります。一方、中脳のPAGは、ストレス応答において呼吸と血圧の調整も行っており、特にストレス時の「コマンドニューロン」として機能する可能性が示唆されています。

質問 3: DMN内のニューロンはどのように機能していますか?

回答: DMN内には、異なる機能に関与するニューロン群が分布しており、それぞれが別々の役割を持っています。このため、DMNのニューロンは「コマンドニューロン」とは見なされず、呼吸と血圧の応答はPAGのニューロンを介して伝達されることが考えられます。

質問 4: ストレスによる呼吸反応の調節におけるPeF領域の役割は何ですか?

回答: PeF(外側の傍脳弓領域)は、条件付け恐怖ストレスなどの精神的ストレスに対する行動や自律反応に重要な役割を果たしています。PeFの破壊は、ストレス関連の生体反応を減弱させ、逆にその刺激は交感神経活動を高め、ストレス様の呼吸促進反応を引き起こします。このため、PeF領域はストレス反応の制御において重要な中枢として位置付けられています。

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