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ボーイミーツガール

「泣くなんて…ずるいよ。」
 彼女はそう言ってテーブルに叩きつけるようにして代金を置き席をたった。
僕はあふれ出る涙をどうしようもなかった。
 ありがとね~。常連である僕たちの異変に気付いてないのか、場に不釣り合いな店主の間延びした声が響いた。

予感はあった。
次に彼女と対面した時、きっと別れ話を切り出されるだろうと。
メッセージや電話で別れ話を切り出すようなことは誠実な彼女にはできないだろう。
彼女ならきっと面と向かって伝えてくる。
だからなるべく避けるようにした。
会いたいというメッセージには用事があるなど理由をつけて断り続けた。
しかし今日は帰り道で待ち伏せていた彼女を避けることはできなかった。

「きみの力を貸してほしい」
そう話しかけられたのが彼女との出会いだった。
彼女は可愛くて賢くて、常に人の輪の中心にいるような存在で、目立たない僕のような人間を認識さえしていないと思っていた。
頼まれたのは彼女がボランティアで参加している保護猫活動についてだった。彼女はどこから聞きつけたのか僕が自宅で猫を三匹飼っていることを知っていて声をかけたらしい。
それから僕たちは休日を利用して里親探しに奔走したり保護猫譲渡会に参加したりと一緒に過ごすことが多くなった。譲渡会の会場では同じく保護猫活動に熱心な彼女の母親に紹介されたこともあった。
「うちの子をよろしくね」
 そう彼女の母親に頼まれたとき、この先もずっと一緒にいるんだ彼女を守るんだ。と心の中で誓った。
付き合ってほしい。と彼女に伝えた時の反応は素っ気ないものだったが承諾してくれた。
それからも付き合いといえばボランティア活動だけだったが、前よりずっと親密になれたような気がした。
だが最近は譲渡会などのイベントにも顔を見せないことが多くなった。もしかしたら会えるかもしれないと期待して譲渡会に参加し続けた。
「あなたは熱心に取り組んでくれるのね。うちの子は駄目ね。最近始めたギターに夢中で今日もバンド組むんだって練習に行っちゃった。」
 彼女と会える時間はぐっと減っていった。
そして今日。

店内には音楽もなく、店主が見ているテレビの音だけが響いている。
テーブルには代金と空のコーラの瓶。
この店に来ると彼女は必ずコーラを注文し、こうして飲むのが好きなんだと言って瓶から直接飲んだ。
僕は涙を拭って席を立ち、彼女が置いて行った代金と空瓶を渡すと店主が言った。
「男の子が簡単に泣くもんじゃないよ。早く仲直りしなさいよ~」
 もうそんな段階ではないのに…解かっていないようだ。
僕はランドセルを背負って店を後にした。

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