【41話】退社【人間廃業】
-前回の続き-
12年を務めた会社にも限界が来ていた。
従業員数60人程度の中小企業とはいえ、ナンバー3まで昇進はさせて貰っていたが、給料は数年頭打ち、現場の店長に毛が生えた程度。
進言した販促施策はことごとくナンバー2の専務により潰され、同業他社に先行されては追う展開ばかり。
逆に反対したプロジェクトはボスの強制執行により失敗。
現場からの会社に対する不満を一身に受け、新規事業は無経験の俺が勉強しながら最前線で実行しなければならない。
何より、ボスが若干躁鬱(失礼ながらそう見えた)気味になってきており、眠剤を常人の1週間分程を毎日服用していたのもあってか、正常な打ち合わせも難しく、ある日の奥様との離婚から身の回りの世話まで俺がやっていた。
きっかけは、今ここに書こうと思っても詳しく思い出せないくらい些細な事だった。
確か、何かのプランを勧めるにあたって、俺が会社のミスを自分の責任として処理しようと進めていた時に、会社が何の相談も無しに勝手に俺のミスとして処理しようとしたような記憶がある。
社長室で社長と打ち合わせをしていた時に
「もう限界だな」
と感じた。俺と入れ替わりに専務が社長室に入り、デスクに戻った俺は、自分の荷物を整理し、退職届を書き上げ、預かっていた全ての店舗と本社の鍵を置き、そこに居た女部長のFに
「もう会社戻らないから後は宜しく、わからない事あれば個人的に携帯に連絡して」
と伝え、何も言わずに会社を後にした。
退職金等は一切受け取っていない。
その日からもう少しで1年が経つ。
それから一度も俺に連絡をする事ができない社長と専務は、きっと後ろ暗い気持ちを抱えてるだろう。
それが悪びれていないのであれば、今更何も言う事は無いが、きっとそんな事が無いから連絡できないでいたのだと思う。
部長のFには相当迷惑をかけただろう。
俺にしかできない仕事があまりにも多かったから、何の引継ぎもせずに辞めたのは本当に悪いと思っている。
新規プロジェクトは全て廃止となったと後に聞いた。
それは正解だったと思う。
きっと莫大な損失を抑えただろう。
パチスロに始まり、麻雀、ポーカーと覚え、レースベットやスポーツ賭博等、この世のギャンブルは大体の仕組み覚えた。
仕事以外の時間は、プラスゲームだと思える事、そうでなければ少しでも沢山の人と関われる事にお金を費やしてきた。
それはホワイトな人間でもグレーな人間でもブラックな人間でも、選り好みは一切しなかった。自分と関わってくれた人間は人種を問わずみんな大好きだ。
お金に関してだらしない事は一つもしてきて居ない。
どれだけ自分がマイナスになろうとも、自分が関係した物事に関して、一切周りに金銭トラブルを巻き込まなかった。
書いてて恥ずかしくなるくらい恰好をつけた言い方をすると
その自負だけを自信に、俺は残りの人生にベットした。
-続く-