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【2話】親父の仕事【まだ人間】

-前回の続き-

幼少期には大した深くも考えていなかった親父の仕事。

最初に不思議に思ったのが入試の際の履歴書(経歴書?)みたいな書類を書いていた時だった。

母親に

「親の職業書くところあるんだけどなんて書くの?」

みたいな聞き方をした時に

「青果店って書きなさい」

と言われた時だった。

確かに「祖父」は青果店を経営していて、親父は長男である。
祖父の手伝いみたいのをしているのを、幼少の頃に見た事があったし、実際に卸売市場に出入りしている事も知っていたので、不自然では無かったけど、母親の言い方には違和感を感じていた。

高校は単位を落とさない程度にサボってパチンコ屋や、溜まり場になっていた友達の家に行っていたので、昼前に学校を抜け、私服へ着替えに帰宅する事もよくあった。

その日も昼頃に実家に帰ると、(もちろん親の車は2台とも駐車場に停まっていないのを確認して家に入る)リビングのテーブルに大量の1万円札が、ズク(10万単位の束)になって並べられているのが目に飛び込んできた。

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何の気無しに、
若さ故の衝動性で、そこからズク1つと、無作為につまんだ7万円の、合計17万円(だったと思う)をさっと盗み、ご機嫌で私服に着替えてから遊びに出かけた。

勿論ソッコーでバレて、俺が犯人だと確信している親父にしこたま殴られた。

俺の肋骨は無事粉砕された

余談だが、同じ骨を親父には2回折られていて、更に同級生に全く同じ骨を喧嘩で折られている。俺の1番下の左肋骨は合計3回折れている。


(ちなみに喧嘩といっても一方的な空手部による暴力だ、一方的である)


数日後、酔っぱらった親父の友人にダル絡みされたある日の夜、
酒で舌を滑らせた親父の友人で釣り仲間の「Tちゃん」の発言から疑心が確信になった。


親父はヤクザだった


とはいえ、詳しくは後に知る事になるのだが、どこかのタイミングで現役は引退していた。

あの日テーブルに並べられていた金はいわゆる「無尽」の金で、どうやら金庫番的な仕事をしていたようだった。

思い返すと親父の友人はちょっと雰囲気が普通じゃないというか、「怒ったらすげー怖そう」みたいな人ばかりだった。

慣れとは恐ろしいものだ

※無尽を知らない人はググってみよう。結構面白い。


話は戻って、祖父の葬式。長男である喪主の親父は疲れていた。

色々な意味でタフな父の目に、疲れが出ているところなんて見た事が無かったので、さすがにあまり親父とは仲良くない俺も少々心配していた。

式の段取りも一通り終わり、喫煙所に向かう俺に、親父はひょこひょことついてきた。

親父は心筋梗塞をやっていて、もっぱら禁煙中なのは知っていたが、喫煙所に入ってきた親父は「一本くれ」と未成年の俺に言ってきた。

「マイブン(マイルドセブン:現メビウス)だけど...」

と一本親父に火をつけてやった。

この時の景色は今でも鮮明に覚えてて、自分で言うのも照れくさいが、ドラマのワンシーンにしてもかなり悪くないと思う。

堰を切ったように話をしだす親父。

こんな親父を見たのは後にも先にも初めてだった。(まだ生きてるけど)

一人息子である俺は、
親父が死んだら同じ事(喪主)をしなければならない事、
親父が今まで隠していた稼業のちょっとした話、
俺には包丁人になって欲しかったというささやかな望み、
借金こそ無いが残る財産なんて無いからな、

というような軽い皮肉まで、いろいろな話を聞くに徹した。

そして火葬まで済み、俺はこの父方の祖父の死で、4人の祖父母を全て失い、いつもの自堕落な生活に戻っていった。

-続くかもしれない-


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