【32話】ぶっとびカード【まだ人間?】
-前回の続き-
アングラとは言え有象無象の新規客を常に集めているわけではなく、殆ど友達といえる関係同士でギャンブルを続けている。
そうすると自然と勝ち組と負け組が分かれてくるわけで、それぞれが自分の胴を持っていても、お金は綺麗に全体的には回らない。
みんな生きているだけで金はかかるし、
俺のように外で(サラリーマンの給料で)お金を稼いでくる人なんで極少数。
全体のバンクロールの総量は徐々に減っていくのが世の常だ。
クレジットカードも持てない社会不適合者(という言い方は嫌いだけど)は、最終的に友達や金貸しからお金を借りて、いよいよそれも底と信頼が尽きた時に、その人間は静かに居なくなる。
暗い話だけど、よくある話。
ある日、奇遇な事にアングラで俺と同じ職種(携帯電話関係)の人間と知り合った。彼はショップのイチ店長だったのだが、羽振りが良いというか、派手に遊ぶ男だった。
持ち前の気さくな性格で回りからも好かれていたが、とにかく何をやっても弱い。勝った所を見たこと無いレベルで、底無しに負けていた。
俺は携帯ショップの店長の給料の相場をもちろん知っている(その本人達の給料計算をしていた)ので、彼が悪い事をして小遣い稼ぎをしているのは簡単に想像できた。
当時「新型iPhone」が品薄であまりにも手に入らなく、しかも中国で値段が高騰しているということから、「自分の仕事場を使って在庫を大量に用意し、海外に売り飛ばして金を作る」という儲け話を俺達にもってきたのは、彼が大分と遊び金を溶かした後の事だった。
もちろんこの業界は詳しい俺の所に「確かな話なの?」という相談はあった。
俺はいい加減な事は言えないので分かっている範囲で答えた。
確かに今年のiPhoneはかなり品薄で供給が追い付いていない事
中国では本当に新品が1.5倍近い金額で取引されている事
しかしちゃんと付け加えた。
「でもウチでも在庫ほとんど引けないのに、そんなに玉用意できる程力あるんですかね...」
俺の会社はこの街では何本指かというくらいの規模だった。店舗数が10店舗を超える代理店はそう多くは無い。
キャリアは販売力のある代理店に優先的に在庫を降ろしたいので、ウチはかなり優遇されていたし、実際に他の会社の在庫数もおおよそは把握できた。
「大量に在庫を用意して」という部分が、あまりにも曖昧だった。
しかし彼とは携わるキャリアが違う。
イニシャルで言えばウチはSで彼はDだった。
流石に他キャリアの内情までは細かく把握していなかったので、Dってそんなに在庫持っているのか?という疑問を胸に、俺は金を預けるつもりは無かったので少し他人事に感じていた。
周りの人達は合計数千万円のお金を彼に預け、
そして彼はこの街から居なくなった。
しかも彼は自分の店の在庫を盗んで飛んだのだ。
被害総額は軽く億を超えた。
この件は当然俺の会社にも翌日にニューストピックとして入った。
感の良い(適当に言ったのか?)ボスからは、「友達とかじゃないよな?」と聞かれ、まったく知らない人ですと答えた。
みんな寄ってたかって彼からギャンブルでお金を取った。
そうして彼のソウルジェムは日々陰りを増し、いつの日か魔女となってしまい、この計画を決めていたのだろう。
微々たるものだが、少なからず俺もその一旦は担ってしまっていた。
儲け話には乗らないようにしよう。
そう心に決めた。
ある日地元の友達から電話があった。
「〇ちゃん、仮想通貨って買ってる?」
-続く-