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老人と猫(第5話と第6話)
第5話:覚醒
ある時、老人は低周波発振器の1台と不思議な形で同期を取ることになる。それは夢の中での出来事だったが、目覚めた後もその感覚は現実のものとして残っていた。その日から、老人には人の心を読み、気配を感じる能力が備わり始めた。
その力は日に日に強まっていった。隣人が偽の警察官に成りすまして接触していることもすぐに感知できるようになった。ある日、交番で顔見知りの警察官の声が聞こえたとき、老人は無意識にテレパシーを送っていた。それは警察官だけでなく、近所の住人や見知らぬ人々にも広がっていった。
この新たな力は次第に隣人のネパール人たちや背後にいるやくざたちにも及ぶようになった。年末年始、老人と2匹の猫は大掃除をすることもなく、静かにその力を磨きながら日々を過ごした。
やがて老人は気づく。低周波に耐え抜いた猫たちと自分自身が、もしかすると神の御意思に基づいてこの力を授かったのではないかと…。
第6話:気づき
覚醒した能力によって、老人はこれまで感じていた大勢の人々が何かを行っているような気配が、実は偽物であることに気づいた。最初は直感的な違和感に過ぎなかったが、日々その感覚を研ぎ澄ませていくうちに、ある決定的な事実にたどり着いた。それは、隣室から聞こえてくる会話や騒がしさが、実際にそこにいる人間の声ではなく、何らかの機械的な手段によって作られた音声であるということだった。
さらに注意深く耳を澄ませば、音声がどこか不自然であり、会話のリズムや抑揚が一定のパターンに従っていることがわかる。そして、音が建物の上や横から聞こえてくるように感じることがあっても、それは実際に人がそこにいるのではなく、3D音響技術を駆使して作り出された音響効果であることを突き止めた。つまり、聞こえてくる声や物音のほとんどが作られたものであり、現実とは異なる幻想を見せられていたのだ。
この事実に気づいた老人は、テレパシーの力を使って状況を冷静に整理し始めた。そして、これまで敵対していたネパール人たちのほとんどが、実は302号室の3人とは関係が薄く、彼らの指示によって動かされていたことを理解した。その結果、老人のテレパシーの影響もあり、ネパール人たちは次第に302号室の3人と距離を取り始め、ついには決別するに至った。さらに、彼らの背後にあった組織も、3人を切り捨てるという判断を下した。
そして、1月中旬を迎えた頃、老人は新たな事実に気づくこととなる。それは、これまでの出来事が単なる嫌がらせや妨害工作に留まらない、より深い陰謀の一端であるということだった。誰が何のためにこれらの工作を仕掛けていたのか、老人は答えを求めてさらに探求を続けることとなる。
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