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「老人と猫」(第9話)
第9話
老人は、自身の直感を信じて調査を進めるうちに、驚くべき事実を発見した。隣室の302号室では、夜な夜な不可解な機械音が響き、特定の時間帯に振動が強まることがわかった。そして、その振動が部屋全体に広がり、自分の住む部屋にまで影響を及ぼしている。
「これは単なる生活音ではない。何か意図的に仕組まれたものだ。」
そう確信した老人は、302号室の動きを注意深く観察し続けた。ある晩、隣室の住人が深夜に数人の男たちを部屋に招き入れる姿を目撃する。そして、その直後に振動が強まり、壁越しに低い機械音が聞こえ始めた。何かが行われているのは間違いない。
老人は証拠を掴むために、スマートフォンの録音機能を使って音を記録し始めた。さらに、振動が強まる時間帯に合わせてメモを取り、パターンを分析することにした。その結果、振動が発生するタイミングには一定の法則があることが判明した。毎晩同じ時間帯に始まり、1時間ほど続いた後、突如として止まるのだ。
「これは何かの装置を使った攻撃かもしれない。」
老人は警察に再び通報し、状況を説明した。しかし、警察は相変わらず真剣に取り合おうとはしなかった。「証拠がない限り、対応は難しい」と言われ、まともな調査は行われなかった。
そこで、老人は別の方法を考えた。アパートの管理会社に連絡し、302号室の不審な行動を報告した。しかし、管理会社の対応も鈍く、「確たる証拠がなければ動けない」と言われるばかりだった。
それでも諦めるわけにはいかない。老人は次なる一手を打つことにした。それは、より詳細な証拠を集めることだった。スマートフォンだけでなく、小型の録音機を複数設置し、長時間にわたる記録を取ることを決めた。そして、そのデータを分析し、隣室で何が起きているのかを明らかにしようと考えた。
だが、ふと猫たちのことが気になった。これまで苦楽を共にしてきた2頭の猫が、この危険な環境にいることは、あまりにも不安だった。もし今後さらに事態が悪化した場合、猫たちの命にも関わるかもしれない。悩んだ末、老人は決断した。
「この子たちの安全のために、新しい家を探そう。」
老人は信頼できる譲渡先を見つけ、猫たちを託すことにした。別れは辛かったが、猫たちが安全に暮らせることを考えれば、それが最善の選択だった。
そして、老人は精神病院での検査を待つことになった。果たして、自分の感じている現象は本当に病気によるものなのか、それとも何か別の要因があるのか。その答えを求めるため、老人は最後の希望を託し、病院の診察を受ける決意を固めた。
「私は決して諦めない。必ず真実を突き止めてみせる。」
老人の決意は固かった。彼は隣室の闇を暴くため、さらなる行動を起こすことを決意したのだった。