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「老人と猫」(第8話)
第8話
老人は、依然として続く振動に疑問を抱きながら、さらに深く調査を進めることにした。精神科で処方された薬のおかげで音は小さくなり、聞こえないことも多くなったが、振動だけはどうしても解消されなかった。この不可解な現象を解明するため、老人は大きな病院での検査を受けることを決意した。
紹介された総合病院の専門医は、老人の話を丁寧に聞いた後、いくつかの検査を提案した。MRIやCTスキャン、神経系の検査などを受けることとなった。しかし、結果はどれも異常なし。医師は「精神的なストレスによるものではないか」と診断し、さらに精神科での治療を継続することを勧めた。
だが、老人は納得がいかなかった。自分の感覚が錯覚や幻覚であるとは思えない。そこで、振動の発生源を自ら特定しようと決意する。まずはアパートの構造を調査し、振動が伝わる可能性のある場所を確認した。そして、何日にもわたり、部屋のどこで振動が最も強く感じられるのかを丹念に記録した。
ある晩、老人はふとした瞬間に気づいた。隣室の壁からわずかに異音が聞こえてくる。そして、その音に合わせるように振動が伝わってきているのだ。さらに詳しく観察すると、振動は一定のリズムを持っており、まるで何かの機械が動作しているかのようだった。
「これは何かの装置が仕掛けられているのではないか?」
そう確信した老人は、隣室の動向を注意深く観察することにした。すると、隣室の住人が夜中に頻繁に外出し、何かを運び込んでいる様子を目撃する。これはただ事ではない。老人はさらなる証拠を掴むために、慎重に行動を起こすことにした。