『死んじゃいけない星』と「あなたの感想」
今さらの話ですが、大槻香奈個展『死んじゃいけない星』に関しては準備段階から強い思い入れを持って臨んでいます。
前回の個展以降、仕事とは別に『日本現代うつわ論』を毎年一緒に作り、この本による様々な活動が大槻さんの作家活動と密接にリンクするため都内近郊の展覧会には常に顔を出しています。近しいところで作品を追いかけているが故に、現在の作品の良さや面白さ、そして同時に分からなさも自分なりに把握しています。今回の出展作品も受け取った段階で素晴らしいということは確信できましたが、それを展示して皆さんに伝わる形にすることには大きなプレッシャーと困難を伴います。しかしこれをやれるのは自分だけだ、と信じて設営を行い会場を作り上げました。いわば白白庵という特殊な環境で僕なりの解釈で大槻香奈作品を展示する機会となりました。
会期が始まって以降、そうと決めたわけでもなく毎日こうしてテキストを公開しています。それは大槻さんの作品の力に突き動かされてという面もあります。それだけの力が今まで以上に見出され、自分なりの感想や実感を記録に残しておきたかったという気持ちもあります。同時に店頭やSNS上でお客様から頂いたご感想を咀嚼して自分の血肉とし、あるいは作品のために残しておきたいという欲望でもあります。
他の誰でもない「あなた」の感想を芸術に立ち向かう人々は欲しています。それがポジティブな言葉でも、あるいはネガティブなものであっても。この作品に誰かが向き合ってくれたという事実が、そしてそこで交わされた言葉が芸術家を奮い立たせ、作品のさらなる価値を創造します。
そして、「私の感想」を誰かに受け止めてもらうことは「私」の発言や存在そのものを誰かに認めてもらうことでもあります。その感想が妥当でも的外れでも、それに誰かが耳を傾けることで、「私」という存在が世界の中に位置付けされていきます。
時にはその感想が近しい人に受け止められなかったり、望むところに届かなかったり響かなかったりと孤独な作業になるかもしれません。しかしいつか誰かの目に触れたならば、人と作品との関係性は美しい織物のように重なりあって、一層特別なものに変化していくことでしょう。
芸術作品は非常に個人的なものであると同時に社会的な存在です。作者が「これは私の作品だ」と言い切るように、鑑賞者が「これは他の誰でもない私のための作品だ」と思わせてくれるような個人的・個別的な出来事でもありうるのです。
同時に社会的に作品の可能性は開かれ、多くの人の目に触れて感想を交換することで作品の魅力や価値が密度の濃いものへと変化していきます。
それぞれの個人的な物語が社会的なレイヤーと交わるのです。
芸術とは根本的に孤独で、それでいてその孤独を孤独のままに肯定してくれる行為であるのかもしれません。芸術作品を介して孤独のままに世界と繋がる手段であるのかもしれません。
だからこそ「あなたの感想」が必要です。
「あなたの感想」はあなた自身と作品と作者を結びつけ、そこにまつわる個々人の人間性を回復させるものです。
「それってあなたの感想ですよね」が小学生の間ですら使われていると聞いて驚きました。碌でもない話です。「あなたの感想」の尊さこそ小学生のうちに学ぶべきなのに。
どんな言葉でも良いから「あなたの感想」を欲しています。拙い言葉であっても、それが言葉にならないという言葉であっても。
(僕は毎日それを書いたわけです。こんなに長々と。その分からなさと言葉にならなさを)
そして「あなたの感想」のために、それをより一層確かなものにするために、二度目三度目のご来場を。
願わくば「私のための作品」とこの『死んじゃいけない星』で出会えますように。
願わくば「私のための作品」をお手元に置いていただけますように。
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