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ピグマリオン効果とはならない『ピグマリオン』
『ピグマリオン』 バーナード・ショー (著), 小田島 恒志 (翻訳)(光文社古典新訳文庫)
強烈なロンドン訛りを持つ花売り娘イライザに、たった6ヵ月で上流階級のお嬢様のような話し方を身につけさせることは可能なのだろうか。言語学者のヒギンズと盟友ピカリング大佐の試みは成功を収めるものの……。英国随一の劇作家ショーのユーモアと辛辣な皮肉がきいた傑作喜劇。
NHKラジオ朗読で谷崎潤一郎『痴人の愛』を聞いていてこれは『ピグマリオン』なのかなと思って読んでみた。「ピグマリオン」は元はギリシア神話で、ピグマリオンという彫刻師が美女を作って、愛した為にそれが息を吹き返したという神話をバーナード・ショーがイギリスの現代(1900年代)を舞台に戯曲化したもので、言語学者?のヒギンズがスラム街の花売り娘イライザを貴婦人に仕立て上げるという喜劇。映画『マイ・フェア・レディ』の原作。
『マイ・フェア・レディ』 https://eiga.com/l/XaSq
谷崎潤一郎『痴人の愛』
言語学者ヒギンズの構造的な差別意識は、最近でも社会学関連の本で取り上げられているが、1900年代にすでにこのような問題意識をバーナード・ショーは持っていた。貧困街のイライザをその言葉と身なりで差別していたヒギンズは自分の上流階級の言葉と身なりが上位のものと思っている。バーナード・ショーが問題にしているのは、「魂」の問題、それはミルトンやシェイクスピアから培ってきた文学的な問題なのだ。そういえば、機械人形が人間に成るという文学は古典としてあった(リラダン『未来のイブ』、ホフマン『くるみ割り人形』)
フィリップ・K・ディック『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』もこのパターンだと気がつく。「ピノキオ」もそうなのかもしれない。
ヒギンズのイライザに対する差別意識とそれが物語としての結末(例えば、イライザが上流階級のマナーを身に着けて上流階級のものと結婚するというハッピーエンド(『マイ・フェア・レディ』)にはならない後日談、新たに花屋の経営者になるのだが失敗する。まあ、バーナード・ショーは愛人である女優のためにこの戯曲を書いたのだが女優はこの役をやりたがらなかった。(2021/02/08)