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キャットタワーのある家 #1 新居

 元気いっぱいにケージを駆け回る綺麗な顔の女の子と、ケージの隅でお饅頭のように丸まってジッとこちらを見ている男の子。ペットショップで初めて彼らを見たとき、すぐに決断した。新しく購入したマンションで一緒に暮らすのは、このアメショの仔猫たちだと。
 彼らを迎える前に、ご飯やお水のお皿、トイレに消耗品におもちゃも、「どんなものが気に入ってくれるのかなぁ」と悩みながら揃えたり、初めての猫との生活を教本やエッセイ本で学んだりして、万全に準備を整えた。なんだか人間の出産前と変わらない気合いの入り方だな、と思って笑える。但し、私には経験無いけど。
 そして、いよいよ彼らが新居の床に降り立ったとき、女の子は興味津々なまん丸の目で部屋をキョロキョロと見回し、男の子はその場でまん丸にうずくまっていた。生後2ヶ月半の女の子には「あんず」と名付け、あんずより3週間後に生まれている男の子には「ゆず」と名付けた。

(アタシ、「あんず」って呼ばれることになった。今日からママともう1匹のチビが家族なんだって。ママ、優しいかな?チビとは仲良くなれるかな?ちょっと心配だけど、でもここはおもちゃがいっぱいあって楽しそう。さっそく探検しなくっちゃ)
(ボク、「ゆず」なの?知らない所に来て、知らない人と知らない猫がいる。ここがボクの新しいお家なのかな?なんか分からないことだらけで怖いよぉ。うーん、動けない)

 猫は環境の変化が苦手と聞いていたので、ゆずのビクビクした態度がどれくらいで軟化するだろうかと心配していたが、仔猫だからだろうか、順応はとても早かった。あんずが促す形で早速キャッキャとじゃれたり、走り回ったりする2匹。散々暴れ回ったのを見届けてから、「そろそろ休憩しなさい」と2匹をケージに移動させた途端、揃って寝息を立てて爆睡し始めた。まるで電池が切れたおもちゃのように。はぁぁ、可愛いくて、たまらん。
 小一時間ほど家の掃除や整理などをしてから台所で洗い物をしていたとき、ふと足下を見るとそこにゆずが居た。
「え?なんで?ケージの中で寝てたはずじゃ・・・・・・」
 ケージに視線を向けると、中であんずが前足を揃えて行儀良く座りながらこちらを見ている。そしてケージの扉は閉まっていて、きちんとロックもされている。
「え?なんで?マジシャン?」
 訳が分からなかったが、とにかくゆずを抱き上げてもう一度ケージに入れて扉をロックした。台所に戻って洗い物の続きをしようとしたとき、顔を上げて再度ケージを見てみると、ゆずがケージの棒の間に頭をグリグリと押しつけて、頭を通そうとしていた。その内スポンッと頭が通ると、小さな体は余裕で棒の間をすり抜けてきた。
「脱走かぁー!」
 脱走猫は一目散に私の方へ駆け寄ってきた。あんずは微動だにせずケージの中から一部始終を見ている。

(ママー!ママー!お腹空いたよ。ごはんー!ごはんー!ごはんー!)
(アンタ、マジ?)

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