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半年以上ぶりに美容室へ行き落ち武者になった
ほぼリモートワークスタイルにシフトした今、会社に行くという生活によって抑え込まれていた、自分のずぼらさが隠しきれなくなってきた。
高校時代、春と秋は“ベスト+シャツ“と言うスタイルだが、ベストから出ている両腕しかアイロンをかけた事がないし、20代は仕事が忙しいと言う理由で週1回はメイクを落とさず寝ていたし、30代になってもなお、シャンプーとリンスをするのが面倒で途中まで使用するとそれらを混ぜ合わせてリンスインシャンプーにしていたという、いっぱしのずぼらだ。
リモート会議であれば、バッチリメイクする必要もなく。
リモート会議であれば、ピアスも必要なく。
リモート会議であれば、デコルテまでの映りを気にした服装でよく。
リモート会議であれば、髪の毛もただ束ねておけばいい。
そう、ただ束ねておけばいい髪の毛は無造作ヘアのその先へと進化を遂げていた。
私には20年来の行きつけの美容室がある。
店長1人と助手1人の小さなお店で、私の若い頃の失態や黒歴史、当然ずぼらな性格も熟知している。
一度ずぼら過ぎて1年近く行かなかった時には、「切りに来なくていいから生存確認のため電話をください。こっちからは催促するみたいで電話かけにくいから」と半ば呆れ気味に言われた。
緊急事態宣言後、お店がしばらく限定的な営業スタイルにすると言う事で、心配になり電話をかけた。
休業補償もあるし細々やってるから大丈夫、電話ありがとう、という気丈な声を聞き少し安心した。
「また行きますね」
「はい、また待ってます!でも無理しないで下さいね、うちも手探りで営業していく事になると思うんで。お互いとにかく気をつけましょ」
そんなやりとりをしたのは3月だ。
そこから目まぐるしく世の中は変わり、仕事のスタイルも変わり、ただひたすら伸び切った髪を束ねる日々。気がつけば、季節はすっかり秋になっていた。
お世話になっているお店がしんどい時期に行かないとは何ごとかと自分でも思うが、ずぼらさが止まらない。毎週送られてくるお店からの空き状況案内LINEに目を通し、「今週も予約で一杯やん、良かった良かった」と、自分は行かない事前提に安心感を得るというなかなかの卑しさが、ずぼらな人間性にトッピングされる。
そしていよいよ重い腰を上げたのが、つい先日だった。
「ご、ご無沙汰してますaotemです…」
大爆笑だった。
「いやもうね、aotenさん一生髪切らへんつもりなんちゃう?やりかねへんよ、って店長と話をしてたんですよ!」
ぐうの音も出ない。ぐう。
そして伸び切った髪をたずさえ、半年以上ぶりにお店へ伺った。
慣れ親しんだ匂い、店長と助手の笑顔、見慣れたインテリア、懐かしい…
かと思いきや全然懐かしくない。あれ?先月もしかして来たんちゃう?
変わったところといえば、お互いマスクをしていることぐらいだ。
「で、今日はどうします?」
いつも通り、ニヤニヤしながら店長が聞いてくる。
「長澤まさみにしてくださ…」「無理です」
お決まりのやり取りをしながら、伸び切った髪を整えてメッシュカラーを入れてもらった。
来た時には無法地帯だった私の頭が、とても美しく生まれ変わった。
もう細かく言わずにある程度お任せしているが、いつも私の好みに仕上げてくれるのだ。
「いつもありがとうございます、また来ます」「たまには髪くくらんと、おろしてくださいよ」ニヤリ。
バレてる。
久しぶりに髪を綺麗にしてもらって、気分が軽く明るくなった。こうなると何だか新しい服やメイクグッズも欲しくなってくるから不思議だ。
その翌週、出社する機会があった。
久しぶりに髪を下ろし、丁寧にヘアオイルなんぞをつけてスタイリングし、お気に入りの服を着て、朝からとてもいい気分だった。
「あれaotenさん、雰囲気変わりましたね」「あれaotenさん、そんなメッシュ入ってましたっけ?いい色ですね」
いろんな人に声をかけてもらい、さらにとてもいい気分になった。やっぱりたまには綺麗にしないとな。
いつも素敵な髪型にしてくれる店長に感謝である。
仕事を終えて帰路に着く頃、まだ気分はゴキゲンだった。
夕暮れに染まった空、夕陽に照らされた街並み、いつもより世界が輝いて見える。
道沿いにある店舗のガラスに映る自分を横目で見て、「ほぉぉ、いい感じ」なんてニヤつきながら、心地いい風に髪をなびかせて颯爽と歩いていた。
「米倉涼子みたいやん」
何の前触れもなく、突如その声が耳に入ってきた。
ラブ・ストーリーは突然に。
佐橋佳幸氏のギターのカッティングとともに、音楽が流れ出す。
半ば反射的に「え?もしかして私の事!?」とキラッキラの瞳で振り返る。
と同時に、血の気が引いた。
そこに居たのは、先日2人の警察官に取り囲まれ、スーパーの前で職質されていた人だった。
ててててて店長!長澤まさみにしてって言ったのに何で米倉涼子にしたん!?(してない)
バッサバッサと落ち武者の如く髪を振り乱しながら、力いっぱい走って帰宅した。
いつも出迎えてくれる猫たちも、怯えて出てこなかった。
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