ファッションと現在地
先日スターバックスにマグボトルを持っていき、ハニーミルクラテを注文しました。
私が持っているボトルはスターバックスで5~6年前に販売されていたもので、当時仕事のお礼として取引先の方からプレゼントしていただいたものです。
白のボトルにキラキラとした光のモチーフがデザインされていて、正直あまり好みのテイストではなかったのですが、せっかくいただいたのでと使い始めたところ、そのまま買い替えるきっかけもなく現在に至ります。
「これ、かわいいですよね!?」
レシートを片手に商品受け取り口で待っていると、ちょうどカウンター内で私のドリンクを作ってくれている店員さんがボトルにそれを注ぎながら話しかけてきました。
「このデザインかわいいですよね!?私これすっごく好きなんです!!でもこの形、今もう売ってないんですよ!!」
私は反射的に答えました。
「ですよね!!私もこのデザイン、すごく気に入っていてずっと使っているんです」
人は1日100回以上小さな嘘を重ねるらしい。(諸説あり)
日々こうやって何かをひた隠しにしながら生きていますが、スターバックスの店員さんがもう販売していないと言った瞬間「未使用なら高く売れたんじゃない!?」と思った程のいやらしさを持ち合わせている事は、ここで懺悔しておきます。
その日は、今取り掛かっているプロジェクトが本格的に始動するための決起集会として、仲間との会食でした。
社内と社外のさまざまな分野におけるプロフェッショナルで形成されたチームは頼もしく、とてもユニークです。
少し離れた席を見ると、後輩がいつものように身振り手振りを交えながら、元気いっぱいに持ちネタでその場を盛り上げています。
「その時の修理代15万かかったんですよ!!」
声でかい。
その持ちネタ、この前は10万ゆーてたけどな。
人は1日100回以上小さな嘘を重ねるらしい。(諸説あり)
何だかおかしくなってニヤついていると、隣の席に座っていた違う部署に所属するデザイナーの女の子が話しかけてきました。
「aotenさん私、今マッチングアプリでめっちゃ頑張ってパートナー探してるんです」
ほう。
「でも、この髪色にしたらあまり上手くいかなくて」
この春桜色に染めた彼女の髪は、その白い肌とやさしい顔立ちにとてもマッチしているように思います。ファッションも上下柄の違う服をデザイナーならではのセンスでまとめ上げ、個性的で芯の強さを感じさせつつ、ポップな雰囲気はいつも機嫌よく笑っている彼女の愛らしさにぴったりです。
「一回、万人にモテたくて髪型もファッションも変えてアプリ登録してたんですけど、それはそれで自分がしっくりこなくて続きませんでした」
そう言って見せてくれた写真には、いちごと生クリームが添えられたパンケーキを前に、笑顔でポーズを決めるブラウンヘアの彼女が写っていました。
誰やこれ。
仲間同士では、パンケーキスタイルも素敵だし、試行錯誤も素晴らしいが、最終的には自分の好きなスタイルを貫いて、それに賛同してくれるパートナーが現れたらベストではないか、といった意見が交わされました。
私も含め周りに座る大人たちは、その若さゆえの悩みが放つ強烈な輝きに目を細めながら、羨ましさと懐かしさを感じていました。
私は会話をしながら、先日noteで紹介した『服は、内面により近いものを選び取る事で自分らしさを表現してくれるもの』という言葉を思い浮かべていました。
自身も、むかーしむかしあるところにおじいさんとおばあさんがと語り出したくなるぐらい遠い昔の若い頃、万人にモテたいし人目が気になる、といった時期があったように記憶していますし、その当時は、その内面により近いものを選び取っていたように思います。
ふと、クローゼットの奥の箱に、若い頃からどうしても捨てられずに持ち続けている服が何枚かしまってある事を思い出しました。
彼女ぐらいの年の頃に、迷走しながらあがいた形跡があるかもしれない。
ノスタルジックな気分で家路につき、遠い記憶の片隅に追いやられ、何年も触れていなかったその箱を開いてみました。
恐怖しかなかった。
万人モテ気にしてあがいた形跡全然なかった。
この志茂田景樹さんもびっくりのワンピースを、内面に近いものとして選び取ったのなら、当時の内面はどのような状態だったのでしょう。
ケースの中をさらに探ってみました。
まさかの大きなリボン付き、かつ光沢のあるドレス仕様。パーティ会場どこかしら。
これがあがいた形跡かもしれません。
1つめとのコントラストが強烈すぎて、情緒不安定さを感じます。
あえて共通項を述べるなら、いずれも着用するシチュエーションが浮かばないというところでしょうか。
私はその洋服たちを、そっと箱にしまいました。
BUMP OF CHICKENの曲『Butterfly』に好きなフレーズがあります。
自分から遠く離れることなんてできないと知りながら、それでもその都度悩み、選択するものが、自分自身の現在地を表しているのかもしれません。
にしても、あのワンピースは選ばん。
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