アセニモマケズ「幡野広志のことばと写真展」へ行く
リモートワークが日常となり、身なりを整えて出かける事も少なくなった。
もう穴をあけて20年以上経つにもかかわらず、ほんの数ヶ月の間に薄い皮膚らしきものが再生しつつあるピアスホールに、今日久しぶりに、一番気に入っているターコイズ石のピアスをぶっ刺した。
耳がヒリヒリする。
外に出ると息が詰まる暑さに加え、マスクをしているもんだから、最寄り駅に着く頃にはもう顔全体から化粧がズルっと落ちていた。
せっかく久しぶりにきちんとしたのに台無しだ。
今日は「幡野広志のことばと写真展」を見に、京都へ行った。
私が知っている休日の京都とは違い、人が少なく外国人の姿もほとんど見当たらない。
四条河原町から会場まで、鴨川や街並みを横目に、滝のような汗を流しながら歩くこと数分、趣のあるビルに到着した。
展示会場は隠れ家のような、小さな空間だった。
そこには大小様々な写真と、いくつかの選りすぐられたと思われることばが、ギュッと凝縮されていた。
大きな写真に目が行きがちになるが、小さな写真たちもとても素敵で、そこにあった物語を勝手ながら想像してしまう。ことばは既に書籍等で知っていたが、そこにある写真たちにぺったりくっついて、また新たなものに生まれ変わっていたように思う。
来年、私が愛し母が大事にしている実家の庭が、一年で一番生命力に溢れる季節に撮影してもらいたいと思った。
一通り見終わった後販売コーナーのテーブルで目に止まったのが「気仙沼漁師カレンダー2021」だ。
タオルハンカチで手の汗を拭き取ってカレンダーをめくってみると、そこには生き生きとした表情で写ってる漁師さんの姿や、海そのものの姿があった。驚くほどドラマチックだ。
多少船釣りをする私としては、釣れた時の嬉しそうな漁師さんの表情に、思わず仲間の顔を重ねてしまう。
潮の香り、白波、風、海鳥、ナブラ。
ああ、釣り行きたい。
文章も読みたいが、ここでずっと立ち読みするわけにはいかない。置いてあったQRコードを読み取り、カレンダーを予約をした。届くのがまだ少し先なのでとても待ちどおしいし、何なら毎月めくっていける2021年が更に待ちどおしい。
そして、気になっていた本を1冊レジへ持っていくと、スタッフの方がクリームソーダの飴を勧めてくれた。幡野さんがクリームソーダ好きで東京では提供していたが、京都では無理なのでせめてクリームソーダ飴で気分を味わってもらえればとの事だった。
小包装されたグリーンの飴を1ついただいた。
会場を出て階段を降りながら、早速食べようと袋を破った瞬間、「カンカンカン」と軽い音を響かせながらクリームソーダ飴が踊るように落ちていった。私も慌てて転げるように飴を追いかけた。
やってしまった。
外に出ると相変わらずの暑さに、一度引いた汗がまた噴き出てくる。
それに耐えかね、道路の向かい側にあるホテルを兼ねたスタイリッシュなビルに逃げ込んだ。
無目的でうろついていると、これまでに見たこともないようなパティスリーがあり、そこに並べられているガラス細工のような、美しいスイーツに目が釘付けになった。こんなお洒落な食べ物、見たことない。
3Fのイートインカフェに行き、赤くてポテっとした、まるで小さな花瓶のようなフォルムのものを注文した。
目の前に置かれたそれをフォークで崩しながらゆっくりと味わった。
とろん、ぱたっ、とお皿の上で崩れていく軟体生物のようなその質感、色艶、形を見ながら、何かに似ているとモヤモヤしていたが、結果それは漫画「なるたる」に出てくるホシ丸の顔だという事が帰宅後に判明した。
今日は、凪のような穏やかさで、そして満たされた1日だった。
クリームソーダ飴を落とした事以外は。
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