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時結い人 第9話

第9話: 運命に逆らう者たち

龍馬が少しずつ回復の兆しを見せる中、葵と彼の間には、徐々に絆のようなものが生まれ始めていた。葵がこの時代に来た意味や、自分に課せられた役割についてはまだ曖昧なままだが、龍馬の命を守ることが、彼女の心の支えになっていた。

隠れ家での穏やかな時間が過ぎていく一方で、外の世界は緊張感に包まれていた。幕府の追っ手が町中を探し回り、反幕勢力に対する取り締まりは日増しに厳しくなっていた。

ある日の朝、近藤が険しい表情で隠れ家に戻ってきた。

「坂本様、この近辺でも幕府の動きが活発になっています。もうここも安全ではありません」

龍馬は少し考え込み、やがてゆっくりと頷いた。

「そうか……ここでじっとしているわけにはいかんな」

葵はその会話を聞き、胸に不安がよぎった。もしここから出て行くことになれば、再び彼の命が危険に晒されることになる。彼女はその場で考えを巡らせながら、龍馬に問いかけた。

「龍馬さん、体はまだ万全ではないのに……」

龍馬は静かに葵を見つめ、微笑んだ。

「葵、俺にはやらなければならないことがある。この時代を、もっと良いものに変えるために命を懸けているんだ」

その言葉に、葵は龍馬の覚悟と強い意志を感じ、心の奥が震えるのを感じた。彼の目には、歴史を動かそうとする強い意志が宿っている。それはただの夢や理想ではなく、命を懸ける価値のある信念だった。

「……わかりました。でも、どうか無理はしないで」

葵の言葉に、龍馬は再び微笑み、軽く頷いた。

近藤の提案により、彼らは新しい隠れ家へと移動する計画を立てることになった。その夜、彼らは最低限の荷物だけを持ち、密かに隠れ家を後にした。町の外れにある林の中を進む道は薄暗く、足音が響かないように慎重に歩を進めた。

「夜明けまでには安全な場所に着く予定だ。静かに、注意を怠るな」

近藤の指示に従い、葵もまた緊張した面持ちで歩き続けた。後ろには龍馬が控えており、その姿に彼の覚悟を再確認する思いがあった。葵は、この時代で自分に何ができるのかを模索しながら、彼とともに新たな道を歩き始めていた。

しばらく進んだ後、彼らは小さな川のほとりで一息ついた。辺りは静寂に包まれ、夜風が肌寒さを感じさせる。しかしその時、遠くから複数の足音が近づいてくるのが聞こえた。

「幕府の追っ手かもしれん……!」

近藤が低く呟くと、龍馬と葵も緊張を走らせた。隠れる場所も少ないこの場所で、もし敵に見つかれば一巻の終わりだ。葵は思わず龍馬の腕を掴み、不安そうに彼を見つめた。

「どうしましょう……」

龍馬は葵の手を優しく握り返し、静かな声で言った。

「大丈夫だ、葵。俺たちは生きて、またこの国を変えるために進むんだ」

その言葉には不思議な力があり、葵の胸に安心感が広がった。彼の強い意志が、自分を支えてくれるように感じた。

彼らは足音が遠ざかるのを待ち、再び道を進んだ。明け方には新しい隠れ家へと無事に到着することができた。葵は胸を撫で下ろしつつも、これからも続くであろう過酷な道のりに覚悟を決めていた。

次回、第10話へ続く。

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