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時結い人 第11話
第11話: 揺れる未来の影
新たな隠れ家での日々が始まった。葵は龍馬や近藤とともに暮らしながら、この時代で自分に何ができるのかを模索していた。龍馬の体調は少しずつ回復し、彼の口からはこの国の未来に対する熱い思いが語られるようになっていた。
「この国は、今のままじゃいけない。俺たちが新しい時代を作らなきゃならないんだ」
龍馬の言葉に、葵は何度も胸を打たれた。彼の目に映る未来のために、彼が命を懸ける覚悟を感じ取るたび、葵もまた彼を守り抜きたいという思いを強くしていた。
ある日、近藤が外から戻り、険しい表情で二人に報告した。
「幕府の追っ手がこの近辺にも現れ始めた。隠れ家が見つかるのも時間の問題かもしれん」
その言葉に、葵の心はざわついた。再び逃げる必要があるのかもしれない——その不安が頭をよぎる。
「次の隠れ家は確保できそうなの?」
葵が問いかけると、近藤は首を横に振った。
「今のところ、まだ手がかりはない。だが、坂本様の安全が最優先だ。早急に動かねばならん」
その場に沈黙が流れた。龍馬はしばらく考え込んでいたが、やがてゆっくりと口を開いた。
「俺たちが逃げ続けるだけでは、この国を変えることはできない。攻めるべき時が来たのかもしれない」
その言葉に、葵は驚きと不安を覚えた。彼の言う「攻める」とは、幕府に対抗する行動を起こすことを意味しているのだろうか。もしそうならば、彼の命がさらに危険に晒されることになる。
その夜、葵は一人で月明かりの下に立ち、深い思いにふけっていた。自分がここにいる理由とは何なのか、どのようにして彼の未来を守れるのか——その答えはまだ見つからない。
ふと、背後から龍馬の声が聞こえた。
「葵、何を考えているんだ?」
振り返ると、彼が静かに立っていた。まだ完全に体調が戻ったわけではないが、その姿には確固たる意志が感じられた。
「私は……あなたを守ることが、この時代での役目だと思っている。でも、それが歴史を変えてしまうかもしれない。それが怖いの」
葵の言葉に、龍馬はしばらく考え込んだ。そして、静かな声で答えた。
「歴史というのは、誰かが何かを変えようと行動することで作られるものだ。お前がここにいることにも、きっと意味がある」
その言葉に、葵の胸の奥にある不安が少しだけ和らいだ。彼の言葉には、不思議な説得力があった。彼の隣にいる限り、自分は間違っていないと思えるような気がした。
翌日、近藤が新たな情報を持って戻ってきた。
「薩摩の同志から連絡があった。坂本様の身を預かれる場所を提供してくれるそうだ」
その言葉に、龍馬は深く頷いた。
「よし、そこで体勢を立て直し、新たな計画を練ることにしよう」
葵はその話を聞き、再び動き出す覚悟を決めた。危険は伴うが、彼の未来のために、自分にできることをする——その思いが、彼女を支えていた。
次回、第12話へ続く。