カワイイ! ドミリさん!
ドミリさんの言葉:
ドミ! ミドリムシのドミリさんだドミ!
どんなミドリムシかは下記の小説をお読み頂けると有難いドミ。
みらい文庫大賞向けに作った、ギャグ児童文庫ドミ!
一次落選以降、特にどこにも投稿していないドミ!
結構昔に書いたから描写が薄いけども、よろしくドミ。
ちなみに、うしさん・とらさん・ソヌちゃんは、
詩と若干キャラクターを変えて他の小説に登場しているドミが、
これはドミリの等身大だドミ。
正直これを改稿して他の児童向けに投稿していいのか分からないドミ。
一応ドミリの全権利を伊藤テルが保持した状態のまま止めているドミ。
というわけで、どこにも投稿しないのも、もったいないドミから、
noteの有料記事として公開するドミ。
本編自体は全文読めるドミ。
有料部分は投稿用の800字の粗筋とプロットだけだドミ。
プロットも1000字ごとの展開を書いてあるだけだドミ。
本編だけお読み頂き、面白かったらスキして頂けるだけで、
ドミリは幸せだドミ。
というわけで本編スタートだドミ。
・
・【浜辺、皆見(僕、1人だけども)】
・
ママから「せっかくの夏休みなんだから、浜辺で青春してきなさい」と言われたけども、別に僕、友達もいないから、ただただ浜辺を一人で歩くダンディズムになっちゃってるよ。
僕、小学3年生なのに、もうダンディズム始めちゃってるよ、いざダンディズムの年頃になったら仙人になっちゃってるよ、多分。
あーぁ、家に帰って漫画を読みたいけども、ママは一度言い出したら聞かないからなぁ。
既に何度か家への侵入を試みたけども、その度にママがスライディングタックルで止めにきて、家の中に入れなかったもんな。
全くママは悪質タックル過ぎるよ、日大か南米サッカーリーグの5部かだよ、あの悪質さは。
あんな悪質をされたら「どひゃー」と言いながら転んで、申し訳程度のオナラを発するしかないよ。
そうしたらママが「そのオナラ、黄色すぎてイエロー」とか言ってくるし。
だから「オナラは黄色じゃなくて無色透明だよ」と反論したら、ママが「じゃあ緑」と言ってきて「緑なら紳士的なプレーをした選手に掲げられるグリーンカードじゃないか」と反論したら、すぐさまママが「じゃあそう」と言って、その会話のターンは終わって。
でも家の中には入れてもらえなくて、それはそれみたいで、全然家の中に入れてもらえなくて。
いつまで浜辺を歩けばいいんだ、どうぶつの森ならここで誰かが打ち上げられているところだけども……って! ぇぇぇええええええええええええええええ!
何か緑色の円柱みたいなモノが打ち上げられている! 僕がハグしたらちょうど腕が一周するくらいの太さの円柱! 浜辺を散歩はよくするけども一度も見たこと無い海のゴミだ! しかも上のほうに何か目と口が描いてある! 緑色のオブジェかな……?
「ドミー」
……えっ? 喋った……?
というか絵だと思った目と口が動いている……。
「未知の生命体、それともロボットとか……?」
僕はつい口から言葉を出してしまうと、その緑色の物体は口をもごもごさせながら、
「未知の生命体ドミ……」
いや!
「自ら未知の生命体を自称するパターンなんてない! 君は日本語が分かるのかいっ!」
するとこの緑色の物体は上体を起こして、こう言った。
「ここはどこ、私はドミリさんだドミ、よろしくドミ」
「名前は覚えているパターンの記憶喪失だ!」
「ピアノマンじゃないドミよ」
「ピアノマンのニュースは覚えているパターンの記憶喪失だ!」
しかしながらこのドミリさんという生命体は何なんだかサッパリ分からない。
さすが自称から未知の生命体を名乗っているだけある。
手足は無くて、ツルンと棒状。
体の上のほうに目と口があるだけだ。
多分立ち上がると、身長は僕くらいの120cmだ。
情報が多すぎるのか少なすぎるのか分からない。
でも僕は記憶喪失のニュースが好きすぎて、こういう時、どうすればいいか知っている。
だからこそピアノマンにも反応することができたんだけども。
あのピアノは弾くものの、実はそんなに上手くはなかったでお馴染みのピアノマンを知っている小学3年生は令和で僕くらいだろう。
さて、こういった状況ではとにかく鮮度が命。
覚えている情報を一気に聞き出さなければ。
「ドミリさん、君は一体何者なんだい?」
「巨大化したミドリムシということまでは覚えているドミ」
「巨大化したミドリムシっ? あの動物性と植物性の要素を持っているという微生物のっ?」
「よく分かっているドミね、あとでステッカー送っておくドミ」
「ラジオのパーソナリティか!」
ドミリさんはゆっくりと立ち上がった。
やっぱり僕くらいの身長だ。目測ばっちりだった。まあここの目測間違うヤツそんないないけども。
「ねぇ、ドミリさん、さっきまで何をしていたかは覚えている?」
「それがサッパリだドミ、気付いたら浜辺にいて、浜辺美波は関係あるドミか?」
「多分だけど関係性はゼロに近いと思うよ」
「浜辺のウルフは?」
「それはもう誰だか全く分からないよ、そもそも人名なの?」
僕がそう言うと、う~んと唸り始めたドミリさん。
一体何なんだろうと思っていると、ドミリさんがこう言った。
「浜辺のウルフの記憶は無い、ドミ、と……」
「いや僕が記憶喪失みたいな扱いになっている! 浜辺のウルフなんて元々知らないんだって!」
「結構歳のピン芸人だドミ、テレビにはまだそんなに出てないドミ」
「じゃあ知らないよ! これからも浜辺は浜辺美波のワントップでやらせてもらうよ!」
ドミリさんは納得したように頷いた。
いやそんながっつり納得されるような話でもないんだけども。
とにかく
「ドミリさんは記憶喪失ということでいいんだね、少なくても目的や直前の記憶は分からないということだね」
「そういうことだドミ、これからよろしくお願いだドミ」
「……これから、って、そうか、行くあてが無いということだもんね……」
僕は少し考え込んでしまった。
だって”これから”を自分1人で決定することはできないから。
僕だってパパやママから養われている身、急にドミリさんを家で住まわせることはできない。
ペット枠か人間枠かも分からないし。
いや巨大化したミドリムシならペット枠か? いや待てよ、ミドリムシは植物の要素もあるわけだから、観葉植物かもしれない。
というわけで、僕は浮かんだ言葉を聞いてみることにした。
「ドミリさんって何を食べて生きているの? それとも光合成で生きていけるの?」
「ガツガツうどんを食べるドミ」
「何故うどん……」
「のど越しが良いドミ」
「まさかののど越しだった……」
どうやらがっつり食費を頂戴するほうらしい。
これは参ったなと思っていると、
「勿論光合成もできるドミよ、でものど越しがねぇ、ドミぃ……」
そう寂しそうに俯いたドミリさんに、僕は、
「光合成ってのど越し関係あるのっ? というかのど越しが悪いのっ?」
「光合成はまるで正露丸を飲み込む時みたいな異物感を抱かせるドミ」
「異物感はまあ人それぞれだけども、あんまり良くなさそうだ!」
「ババロアも良いドミよ、のど越しは」
「いやのど越しじゃなくて最終的には栄養素を聞きたいんだけども」
と僕が言うと、ドミリさんは少し斜め上を見てから、こう言った。
「栄養素は気にしないでいいドミよ、何でも大丈夫だドミ、その辺は単細胞だドミ」
「そうなんだ、じゃあ本当にのど越しが1番なんだね」
「そうだドミ、ミドリムシはのど越しで食を選ぶドミ」
「そんな主語を大きくして大丈夫なのかな」
と会話しながら、足取りは徐々に家のほうへ。
とりあえず、家にいるママにドミリさんの説明をしなきゃ。
子供1人だけで記憶喪失の物体を扱っていちゃいけないと思うし。
僕がまたドミリさんに何か話しかけようとしたその時だった。
・
・【僕は野上新平、言われる名前は珍平】
・
「珍平! また1人だな! 寂しそうにしてんなぁ! おい!」
またアイツだ……僕のクラスメイトで、いつも僕のことをイジメてくる系女子の石間さんだ……。
石間さんだって毎回1人のくせに、僕の1人をイジってきて、本当に嫌だ。
「オラオラ、珍平! 浜辺で1人なんで一匹狼気取ってんな! 浜辺のウルフかよ!」
「えっ、令和の時代に浜辺のウルフって人、流行りだしてんのっ?」
「浜辺のウルフみたいに音声をつぎはぎしたネタやる気かっ? あぁん?」
「知らない! 知らない! コアな浜辺のウルフ情報言われても全然分かんないよ! 石間さん!」
「せっかくの浜辺だ! 砂でも投げつけてやる! それぇ!」
そう言うと石間さんは僕の足元を目掛けて、砂を投げつけてきた。
いや
「足元なら今は短パンだし、サンダルだから海に入ればすぐ洗い流せるけども、砂はできるだけ止めてぇ!」
「おっ、おぅ……」
そう言ってまた掴んでいた砂をそのまま離した石間さん。
結構止めてと言うと止めてくれるところは有難いけども、有難いんだけども、
「石間さん、そもそも今、僕1人じゃないから。ほら、隣にありえない物体がいるでしょ?」
「ドミ、ドミリさんです。よろしくドミ」
ドミリさんがそう言いながら頭を下げると、一気に間合いを詰めてきた石間さんは、その下げた頭を狙って、飛び膝蹴りを喰らわせながら、
「オマエ誰だよ!」
と叫んだ。
ドミリさんは何事も無かったように顔を上げて、
「ドミ、巨大化したミドリムシのドミリさんです」
と言って笑った。
というかドミリさんはいつも口が笑っている。
だから最初絵だと思ったんだ。
石間さんは拳を強く握りながら、
「巨大化したミドリムシってなんだよ!」
とツッコんでその通りだと思った。
そもそも、巨大化したところで日本語喋らないし。
僕も石間さんもドミリさんのほうをじっと見ていると、ドミリさんは頬を赤らめ、照れた。
それに石間さんが声を荒らげた。
「いや照れるとかどうでもいいんだよ! 何なんだよオマエ! 私の邪魔をする気かよ!」
するとドミリさんはより口角を上げ、
「邪魔する気は無いドミ、じゃああとは若いお2人さんで、ドミ」
いや!
「そんなお見合いおばさんみたいなこと言われても! 僕は石間さんにイジメられているんだよ! 助けてドミリさん!」
と言って僕はドミリさんに抱きつくと、ドミリさんはぶつぶつと喋り出した。
「君を助けると恩を売れることになるから、もしかしたら一緒に住まわせてもらえることになるかもしれないドミ。ここはビジネスチャンスだドミ」
いや
「全部口に出して言っちゃうんだね」
「ドミ、ドミは大体何でも口に出すドミ、そして口からも! ドミ!」
とドミリさんが言うと、口が大きく開き、口の中からまるでキャノン砲みたいなモノが出てきた!
「えっ? 兵器っ? ドミリさんって兵器なのっ?」
戸惑う僕と、ガタガタ震えて動けなくなった石間さん。
というかさすがに石間さんをキャノン砲で撃つのならば、やり過ぎではと思った刹那、ドガンという音が鳴った。
その直後、ごっくんという何かを飲み込む音も聞こえた。
一体何なんだと思って呆然としていると、ドミリさんが、
「キャノン砲はのど越しが良いドミー」
と言ってから口を閉じて笑ったドミリさん。
いや!
「自分ののどへ向かって放ったのっ?」
するとドミリさんはあっけらかんと、
「その通りだドミ、自分のキャノン砲を飲み込みたくなったからそうしたドミ。人間がヨダレを飲み込むのと一緒だドミ」
「そんな大々的なヨダレなんてないよ!」
と僕がツッコミ終えてから石間さんのほうを見ると、石間さんは腰を抜かして、その場に尻もちをついていた。
そりゃそうだろうな、と思いながらも、少しいい気味だとも思っていると、ドミリさんが急に叫び始めた。
「ここからドミリさんの本気だドミ! ガンアーム、カモン!」
ドミリさんがそう言うと、どこからともなく、というか空から、腕の先端にガンが付いているようなモノが2本飛んできた。
その、ドミリさんいわく、ガンアームは、人間で言うとこの腕の位置にきて、なんとドミリさんの体について、装着したような状態になった。
「ドミリさん! ガンアーム・バージョンだドミ!」
テレビゲームで言うなれば、ロックマンみたいな状態。
まあ両方ガンなんだけども、と思っていると、左腕のほうのガンが引っ込み、五本指になり、完全にロックマンになった。
石間さんは震えながら、
「ロックマンだ……」
と言うと、ドミリさんが、
「右利きロックマンだドミ」
と言ったので、僕は
「ガンのほうが利き手なんだ」
と呟いた。
ドミリさんは明らかにガンの先端にパワーを溜め始めていた。
何か青い光がバチバチ鳴っている。
そのガンの向く先は石間さんの顔。
至近距離からヘッドショットを狙う気だ。
これ絶対ワンキルじゃん、と思った。
石間さんは震えながら、もう動けないといった感じだ。
僕は一応ドミリさんに、
「やり過ぎちゃダメだからね!」
と言っておくと、ドミリさんは、
「勿論、法律は順守するドミ」
「それなら良かった」
と僕が胸をなで下ろしたところで、ガンアームのガンが鳴った。
キュィン!
聞いたこと無い音だ!
ドミリさんのガンアームから出た青いレーザーは石間さんの頬をかすめて、地面である砂に当たった。
その砂は10cmほど完全消滅した。
いや!
「多分法律順守していないよ!」
「ドミ、アメリカのサスペンス州の法律でやっちゃったドミ」
「アメリカにサスペンス州なんて恐怖の州無いよ! というかもはや完全にホラーだったよ! アメリカのうるさいほうのホラーだったよ!」
石間さんはぶるぶる震えながらも、なんとか立ち上がり、バッとその場を無言で去っていた。
それを見ていたドミリさんは、
「声を上げていたら反射的に撃っていたところだったドミ」
「それはもう完全にアウトだよ! アウトローな世界だよ!」
でもまあ一応、ドミリさんのおかげで石間さんは去ったし、僕はお礼を言うことにした。
「ドミリさん、ありがとうございます」
するとドミリさんは嬉しそうにその場で跳ねながら、
「ドミ! ドミ! 好感触だドミ!」
と言って喜んだ。
ドミリさんの左手と握手しようと手を伸ばしたら、両腕のアームは一瞬にして、ワープするように消えていった。
いや!
「最新科学なのっ?」
「ドミリさんもこの辺のことはよく分からないまま、感覚で使っているドミ」
「感覚でよく頬をかすめるだけの微調整できたね!」
「それは覚えていたドミ、一度自転車に乗れたらずっと乗れるみたいなものだドミ」
「そういう人間あるあるは知っているんだね」
そんなことを会話しながら、僕は家の前にやって来た。
・
・【ママとドミリさん】
・
家の前にやって来たところで、またママがスライディングしてきた!
「危ない!」
しかしドミリさんは思い切り足元をすくわれ、その場に倒れこみ、
「ダミー!」
と叫んだ。
ママは体についた砂を払いながら、こう言った。
「スライディングもかわせない輩がどうした!」
ドミリさんはゆっくり起き上がり、まず僕が説明することにした。
「このドミリさんは巨大化したミドリムシで、僕のピンチを助けてくれたんだ。あと記憶喪失で大変なんだ。恩人だから助けてあげたいんだ。だから一緒に住んでもいい?」
言いたいことを全部詰め込んで言ったけども、伝わったかな、と思っていると、ドミリさんがこう言った。
「よろしくお願いしますドミ」
挨拶だけだった。
まあ僕がほとんど全部言っちゃったからだけども。
ママはう~んと悩んでから、こう言った。
「記憶喪失の子を独りぼっちにはできないわね、分かったわ、新平の部屋で暮らすことを許可します。パパは明後日帰って来るから、明々後日、説明するわ」
いや
「明後日帰って来るなら、明後日に説明したほうがいいような」
と僕が言うと、ママは、
「パパは仕事で疲れて帰ってくるだろうから明々後日でいいの、新平は気にしなくていいから大丈夫よ」
それに対してドミリさんが、
「愛されていて良い家族だドミー」
と言うと、ママが照れながら、
「ちょっとぉ、そんなこと言ったってスライディングは手加減しないわよっ」
と言って笑った。
いやまあある意味ドミリさんは客人なわけだから、スライディングは手加減してほしいけども。
というわけで、一旦お風呂場で足元を洗ってから居間にやって来て、僕はイスに座った。
ドミリさんもお風呂場で全身水浴びして、綺麗サッパリになった。
ドミリさんはまるで腰があるかのように、僕のイスの対面に置いてあるソファーに座った。
というか上体を起こしたりしていたから、腰はあるんだろうな。
でもどういう体の構造がイマイチ分からないなぁ。
というわけでドミリさんに体の構造を聞こうとすると、ママが割って入ってきて、
「でもドミリさんって棒状ね、まさに新平の相棒って感じね!」
と言って笑った。
いや
「棒状だから相棒って少々乱暴な発想だけども」
でもドミリさんは嬉しそうに体を揺らしながら、
「相棒って良いドミ、これから新平くんとドミリさんはずっと一緒だドミ」
巨大化したミドリムシとずっと一緒……いやまあ今はちょうど夏休みの一日目だからいいけども、学校とか始まったらどうしよう。
その前にドミリさんの記憶喪失の謎を解明しないとな、と思った時、とあることを考えた。
それはもう1回、浜辺に行って、何か記憶喪失の手掛かりが無いか探しに行かないと、ということ。
僕はドミリさんへ、
「家の中でちょっと休んだら、また浜辺に記憶喪失の手掛かりを探しに行こうよ」
するとドミリさんは口を尖らせながら、
「それはもう、ちょっと面倒だドミー」
「いやもう長く居つこうとしている感じ! それよりも鉄は熱いうちに打てって言うじゃない! 手掛かりがありそうなうちに行かなきゃ!」
と言ったところで、ママがスライディングで僕のイスの脚部分に入り込みながら、こう言った。
「その前に昼ご飯で元気を付けなきゃダメよ!」
いや
「ママ、スライディングでカットインしなくていいから」
ママは体についたホコリを手で払いながら立ち上がり、
「ママのスライディング量を減らそうとしているならば、おやつカットよ」
「そんなぁ、何でそんなにスライディングしたいのか分からないけども、おやつカットは嫌だよ」
「おやつの油分カットよ」
「だとしたら若干有難いという話になってくるよ」
と僕が言うとママは急に大きな声で、
「おやつの良さは大量の塩気と油分でしょうがぁっ!」
と叫んだ。
いや
「そんな太ったアメリカン・ボーイみたいなこと言われても、ちょうど良い塩気と油分が体に良いよ」
ママは不満そうな表情をしながら、またキッチンへ戻っていった、ところで、ドミリさんが、
「お昼ご飯は何ドミー?」
と言うと、ママが振り返りながら、
「そうめんよ」
と言うとドミリさんがソファーから飛び上がり、
「のど越しが最高だドミ!」
そう言って喜んだ。
本当にのど越し食品が好きなんだなと思った。
・
・【ドミリさんの手掛かり】
・
僕はふと、ドミリさんへ、
「ドミリさんは手掛かりをすぐ探さないといけないとは思わないの?」
「あとは成るようにしか成らないドミ」
「大人が良く言うヤツ、言われた……」
「ドミリさんはこれから新平くんの相棒として、バディモノとして頑張っていくドミ」
「バディモノだなんて人気ジャンルみたいな言い方もされてしまった……」
ドミリさんは嬉しそうにしながら、またソファーに座った。
僕とドミリさんのバディモノって、実際どうなんだろうか。
傍から見たら、ドミリさんは着ぐるみだし……って!
「ドミリさんってもしかすると着ぐるみっ?」
「違うドミよ、巨大化したミドリムシって言ってるドミ」
「でもドミリさんの質感! 何だか着ぐるみみたいだよ!」
僕は立ち上がり、ドミリさんの隣に座って、ドミリさんのお腹をさすってみると何だかちょっとクッションみたいな感じ。
軽く叩いてみると、ぼふぼふいって、まんまクッションだ。
するとドミリさんが僕のほうを見ながら、こう言った。
「昭和のテレビじゃないんだから叩かないでドミ、令和のテレビくらい優しくさすってね」
「令和のテレビはさすったりしないけども、叩いたことは謝るよ、ゴメンなさい」
「別に痛くなかったからいいんだけどもドミね」
「というかさっき石間さんから顔を飛び膝蹴りされていたけども、痛くなかった? 大丈夫」
「あれも大丈夫だドミ、ドミはクッション質だからドミね」
「やっぱりクッション質ではあるんだ……」
謎が謎を呼ぶなぁ、ドミリさんって、と思っているとママが僕とドミリさんの足元目掛けてスライディングしてきて、僕はかわし、ドミリさんはヒットしてしまうと、ドミリさんは真上に飛び上がり、きりもみ回転し、床に顔から落ちた。
「ダミー」
ドミリさんの悲しそうな顔が聞こえてきた。
いやでも
「スライディング当たったくらいでそんなアクションにはならないでしょ」
「でもドミリさんはそうなってしまったんだから仕方ないドミ……」
顔をうつ伏せの状態でドミリさんはそう言った。
まあ確かにそうなってしまったんだから仕方ないけども。
「ドミリさん、顔を上げて」
と言いながら僕はしゃがんで、ドミリさんの背中をさすると、ドミリさんはゆっくり立ち上がり、
「大丈夫ドミよ」
と言って笑った。
いや大丈夫だったら良かった、というか
「ママ、ドミリさんにスライディング当てないでよ」
「合図よ」
「何の合図、いや何の合図でも、もっと家族らしいやり方あるでしょ」
とツッコむと、急にドミリさんが嬉しそうに跳ねながら、
「新平くん! ドミリさんのことを家族だと認証してくれるのっ?」
「いやまあそういうことじゃなくて、僕も狙われていたからだけども」
「画像認証……ダミー……」
「いや画像認証という日本語は間違っているよ! 認証ね! 認証!」
「えっ? 認証したドミっ?」
と言ったところでママが、
「ドミリさんはもう、うちの家族よ!」
と体に付いたホコリを手で払いながら立ち上がった。
ドミリさんはずっと笑っていたんだけども、もっと嬉しそうな表情をして、
「やったドミ! ドミリさんはこの家の子として真面目に生きていくドミ!」
と飛び跳ねた。
ドミリさんってすぐ飛び跳ねるなと思いつつも、じゃあこれからずっと一緒? と、ちょっと思ってしまった。
いやいやどう考えても未知の生命体すぎるし、本当に危険の無い生物なのかな、とか思っていると、ドミリさんが僕のほうを見てから、
「新平くん! これからバディモノとして薬膳カフェをやっていくドミ!」
「いやライト文芸みたいなこと言われても。薬膳カフェはあやかしとすることが基本でしょ、ドミリさんはあやかしじゃないでしょ」
「ドミリさんは確かにあやかしじゃなくて巨大化したミドリムシだけども、ミドリムシは健康食品だから薬膳カフェするドミ」
「ミドリムシは薬膳じゃないし、それだと自分が食べられていることになっているよ」
「ドミリさんはミドリムシを凝縮させた緑種(りょくしゅ)を出せるから大丈夫だドミ、体内で分裂して増やして凝縮させた健康食品だドミ」
何かちょっとグロテスクだな、と思ってヒイてしまったところが顔に出ていたんだろう。
ドミリさんは今まで無かったはずの眉毛を出し、その眉毛を八の字にしながら、
「怖がらないでほしいドミ……ダミー……」
と言ったので、僕は、
「いやいや、急なことでビックリしただけだよっ」
と言ったんだけども、段々ドミリさんの表情は曇っていき、ドミリさんは目を腕で覆い隠す、いわゆる腕泣きをした……って! 急に腕が出てきた!
「ダミー! 怖がらせる気は一切無いダミー! バディモノ解散の危機の回だダミー!」
「いやいや! ドミリさん! 急にアームガンではないシンプルな腕を出現させてるよ! 人間のような腕を!」
ドミリさんは目から腕を離し、僕のほうを見て、
「これはもう渡辺正行リーダーのように腕泣きしたい時、自動で出る腕だドミ……」
「確かにこの世で腕泣きを常習的にする日本人、渡辺正行さんしかいないけども! そのワードはどうでもいいよ! 自動で出るってどういうことっ?」
「それはもう完全に分からないドミ……ゴメンドミ……」
「いや分からないならいいけども、とにかく腕泣きしないで。ドミリさんの生態に一喜一憂しているだけだからさ」
「分かったドミ……」
そう言うといつの間にか腕が無くなり、サッパリとした棒状のドミリさんに戻った。
まあ棒状と言っても、そこそこ大木の幹くらいの太さはあるんだけども。
ドミリさんはまたソファーに座ろうとしたその時、ドミリさんが台所に近いほうのテーブルを見てから喜んだ。
「もうそうめんできているドミ!」
するとママが当たり前のように、
「そう、ご飯ができたことを知らせる合図スライディングよ」
いや!
「ママ! ご飯ができた合図だって早く言ってよ! そうめんって時間が経つと麺と麺がくっ付いちゃうんだから!」
「そんなこと長く生きているママのほうが知っているわよ」
そう言いながらママは、いつも居間の壁に立てかけている光る棒で、僕とドミリさんをテーブルに誘導した。
いや
「ママ、いっつもその工事現場の人が振るってる光る棒使うけども、それ本来いらないからね」
「そんなこと長く生きているママのほうが知っているわよ」
「知っているのならば、だよ」
「でも趣味なんだから止められないわ」
そう言いながらママも席について、一緒にそうめんを食べ始めた。
というかドミリさんはそうめんをどうやって食べるのかなと思って見ていると、案の定、もはや案の定、どこからともなくまた腕を出現させて、箸を持って普通に食べ始めた。
だから
「ドミリさんって腕を出しっぱなしにできないの?」
「これがあると可愛くないドミ、妙に魔人武骨な腕を出しっぱなしは可愛くないドミ」
と言って笑った。
可愛さだったのかよ、と思いながら、僕もそうめんを食べた。
それなりに談笑しながら、主にママが初対面の人に必ず喋る鉄板トーク『闇夜の弾丸』を話して、昼ご飯は食べ終わった。
というわけで、
「ドミリさん、浜辺に記憶喪失の手掛かりを探しに行こう!」
「ドミー、昼ご飯食べてすぐに動くとうしになっちゃうモー」
「寝たらね! あともう、うしになってるよ! 語尾が!」
「モッ! モッ! モッ! マイィィィイイイイイイイン!」
「いやうしのクセがすごい! 普通のうしじゃない! クセすごのうしだ!」
そんな会話をしていると、ママが僕へ向かってスライディングしながら、
「記憶が戻ったところで犯罪組織に巻き込まれても癪だし、このままでもいいんじゃないのっ?」
と言ってきたけども、それをまずかわしてから、
「そんなマジのバディモノみたいなこと言われても」
と言うと、ドミリさんが急に目を輝かせながら、
「マジのバディモノになったら面白そうだドミ! 一緒に犯罪組織の陰を捕まえに行くドミ!」
「いやドミリさんの記憶の手掛かりね!」
結果、僕とドミリさんはまた外に出て、浜辺を歩き始めた。
でも結局、手掛かりになりそうなモノは一切無かった。
ドミリさんが漂流物のペットボトルを行きも帰りも踏んで、その度にあわやになっただけだった。
家に戻ってきて、今度はもう完全なるお風呂にし、体の汚れ全てを洗い流して、居間のソファーに並んで座った。
ドミリさんはふとこう言った。
「これから長い旅路になるかもしれないけども、よろしくドミ。正確に言うとずっとついて回るドミ。バディモノだからドミ」
「いやバディモノでもそんなついて回ることは無いよ、何かあったら一緒に捜査するみたいな感じだよ」
「新平くんの事件を解決していくドミ」
「石間さんのことは有難いけども、基本的にはドミリさんの事件を解決していくんだからね」
――そう、これはドミリさんと僕の、ひと夏の物語だ。
・
・【ドミリさんが覚えているところまで】
・
ママは今、夕ご飯を作ってくれている。
僕は前に「手伝うよ」と言ったこともあるが、ママは「料理は完全創作、1人の時間、参ります」と言って、手伝いを拒絶したので、僕は居間のソファーで座っているだけだ。
というわけで僕はドミリさんのことを深く掘り下げることにした。
記憶喪失とはいえ、何かヒントになることを覚えているかもしれないから。
「ドミリさん、ドミリさんって僕たちが知っておいたほうがいい秘密ってある?」
「ドミ、意外と面長ドミ」
「それは見たら分かるよ、しっかりとした棒状じゃないか」
「心がドミ」
「心が面長ってどういうこと?」
僕が普通にそう聞くと、ドミリさんはニッコリとより微笑みながら、こう言った。
「お題、心が面長とは」
「そんな急に大喜利チックにしないでよ、座布団の大喜利じゃなくて芸人がライブでする競技のお題じゃん」
「今は芸人以外も大喜利をする時代だドミ、アマチュアも漫画家も熱を帯びているドミ」
「そんなマニアックな情報はどうでもいいよ、僕はどこの知識を急に伸ばし始めているんだという話だよ」
と言ったところで、僕は素朴な疑問が浮かんだので、聞いてみることにした。
「ドミリさんって、そういう雑学に詳しそうな傾向があるけども、ここ新潟県じゃなくて、大都会の東京都からやって来たの?」
「そんなことないドミ、ドミは確か島育ちのうどんっ子だドミ。オススメは五島うどんだドミ」
「だとしたらドミリさんの元いた場所、長崎の五島列島で確定なんだけども」
「でもそういう、メジャーなところではなかったような気がするドミ。もっと人がいない、ネオ五島列島だったドミ」
「そんな近未来モノのネオ大江戸です、みたいに言われても。その島ってどんな感じだったの?」
ドミリさんはう~んと小首を傾げているような動作をしてから、こう言った。
「カッコイイ植物が育っていたドミー」
「カッコイイって、葉がポケモンの技みたいな感じ?」
「バイク型だドミ」
「ドミリさんってバイクをカッコイイと思うほうの生物なんだね」
「バイクはカッコイイドミ、憧れだドミ」
そう言いながら遠くのほうを見たドミリさん。
それならば、
「ドミリさんの島は人工的なモノがあったわけだね」
「それは違うドミ、日本のネットとテレビが見られる装置があるだけで、あとは原風景だドミ」
「原風景なんて今日日、俳句でしか聞かない言葉で言われちゃった。70代の俳句の言葉で言われちゃった」
「だから人工的なモノに憧れがあるドミ、いつか行ってみたいと思っていたところで、ここだドミ!」
そう言って嬉しそうにソファーの上でバインバインと腰を跳ねさせたドミリさん。
ということは、
「こうやって人工的なモノがある、うちは憧れの場所ということだね」
「そうだドミ! だからもしかしたらドミは都会に憧れて出航したかもしれないドミ!」
「なるほど。でも実際は違ってただ流れ着いただけなら、島のみんなは心配しているよね」
「そうだドミ……だから記憶喪失でつらいドミ……ドミはどっちなのー! 自分の意志なら帰りたくないし、不意の事故なら帰りたいドミー! ダミー!」
そう言ってまた腕泣きをしたドミリさん。
僕はドミリさんの背中を優しく叩くと、ドミリさんは泣き止み、こっちを見ながら、
「ドミの謎解きバディモノもよろしくドミ」
「そうだね、それはもう完全にやっていくよ」
「ありがとうドミ、ところでドミは植物のくだりで少し思い出したことがあるドミ」
「カッコイイ植物のところで? それなら早く言ってよ」
ドミリさんはまたどこからともなく腕を出現させ、その腕を僕のほうに突き出した。
手には何だか小さな種のようなモノが乗っていたので、
「この種はなんだい?」
と聞いてみると、ドミリさんは1回頷いてから、こう言った。
「これはドミの能力、種だドミ」
「種は種ではあるんだ、ドミリさんの能力って何?」
「ドミは何でも種にして、植えて、育てて、実を付けさせることができるんだドミ」
「そんな植物の一面を見せつける方向もあるんだね」
「植物の一面を見せつける方向もあるドミ」
「じゃあこの種は何の種なの?」
「それは覚えていないドミ、でもこういうのがいっぱいあるドミ」
確かに記憶喪失なら覚えていなくても仕方ないか。
じゃあ、
「あんまり今は使えるモノじゃないね」
「そうかもしれないドミ」
「あとは何か特殊な能力とかない? 言っておかないといけない能力とかない?」
「お題、言っておかないといけない能力とは……いや、お題、アホ山くんのアホすぎる能力とは」
「より競技お題にしないでよ、じゃあ無いってことね」
「今のところはこのくらいでお許しだドミ」
そう言って頭を下げたドミリさん。
いや、
「お許しという言葉はマジで分からないけども、じゃあ記憶が戻った時、選択肢があるといいから一応帰る方法を探っていくことにしよう。自分の意志での出航ならその帰るという選択肢を選ばなきゃいいだけだから」
「そうして頂けると有難いドミ」
と言ったところでママがスライディングしてきて、ドミリさんも下半身を浮かせて、僕も足を浮かせてかわした。
ママはやけにゼェゼェいいながら、こう言った。
「夕ご飯できたわよ! うどんよ!」
まさかの昼そうめんで、夜うどんだった。
でもまあ麺類、自分でも驚くべきほど好きだからいいけども。ドミリさんも嬉しそうだ。
・
・【ドミリさんの寝床】
・
夕ご飯も終わり、居間でテレビを見ていると、ドミリさんは申し訳なさそうに喋り出した。
「テレビ見ている時に喋り出すことは厳禁なんですが、気になっていることがあるのでドミ……」
「いや別に僕、テレビの言葉1音でも聞き逃したら嫌な空気を流すほうの人じゃないよ」
「それならばドミ。ドミは結局どこで寝ればいいドミか?」
「一応僕の部屋ということになっているけども、確かにドミリさんが寝るスペースって無いなぁ。ドミリさんはベッド必須?」
「ふかふか希望だドミ」
ドミリさん自体もクッション質でふかふかなのに、ふかふかな場所がいいんだと思いつつ、僕は、
「じゃあ掛布団はいる?」
「無くても眠れる、良いミドリムシだドミ」
「いやまあ本来のミドリムシはふかふかも希望しないだろうけども」
「睡眠グルメでゴメンドミ」
「睡眠グルメなんて言い方しないけども、何でも食べ物で例えるオジサンのユーモアは大丈夫だよ」
ドミリさんは照れた表情をしながら、
「そういうオジサン、ドミも苦手なのに、つい出てしまったドミ……ドミも歳かもしれないドミ……」
「あっ、ドミリさんにも年齢という概念あるの?」
「それは覚えていないドミ、適当に言ってしまったドミ」
「要所要所で覚えていないんだね、ドミリさんは。やっぱり」
「それも個性と呼んでくれていいドミ」
「そんなネガティブな一面も表裏一体で気にすることないんだぜ、みたいな応援するラッパーの歌詞みたいなこと言われても」
ドミリさんは居間をキョロキョロ見渡してから、こう言った。
「じゃあドミは居間のソファーの上で寝るドミ、どうしてもふかふかは希望だドミ」
それならば、
「ママにそれでいいか聞いてくるね」
と言って僕が立ち上がると、ドミリさんは慌てながらこう言った。
「まだCM中じゃないドミ!」
「だから僕はテレビの1音1音に命を掛けているほうじゃないからいいんだよ」
「でもこのテレビのトークのくだりが後半の伏線になってるかもしれないドミ! ドミが録画して止めて、戻ってきたら追いかけ再生するドミ!」
「ドミリさんは人工的なモノの作りに詳しいね」
「ドミの島はネットとテレビだけは発達していたドミ、テレビでTver見られたドミ」
「Tverとかあるし、知ってるんだ。サブスクやってた?」
「ドミはネトフリとアマゾンやっていたドミ」
「もう僕を越えているよ、僕はハリウッドザコシショウのユーチューブが限界値だよ」
「野田ちゃんが出てるドミ」
「それも知ってるんだ。いやそんな話はどうでもいいとして、僕、ママに聞いてくるから」
するとドミリさんも立ち上がり、ドミリさんが、
「ドミも直接交渉権を行使するドミ」
「それはもう何のスポーツの言葉か自信無いよ、スポーツの言葉だよね? 確か。僕はサッカーしか分からないほうなんだ」
「VVVフェンロ」
「それはオランダのチームだね」
「HJKヘルシンキ」
「フィンランドだよね」
「アトレティコ」
「スペインだね、いや! ただ海外のチーム名を言うだけのくだり何!」
「ドミはDAZNとスポーツブルにも入っていました」
「もう後者は小学3年生じゃ分からないよ! 名前から察するにスポーツだろうけども! 僕はゴリゴリのJリーグ派だから!」
するとドミリさんは、うんうんと頷いてから、こう言った。
「ラインメール青森」
「それはJFLだよ! 4部リーグ相当だよ! と言った時点で僕がJFLも気に掛けていることバレちゃったよ!」
「HONDA FCってJリーグに参入しないだけで、J2の中位くらいの実力があるドミ」
「もう娯楽が好きすぎるよ! ドミリさん! 話が合うから尽きないよ! とにかくママのところへ行こう!」
「そうするドミ」
僕とドミリさんはママの寝室がある2階の部屋に行った。
ドアをノックして、
「ママ、ドア開けてもいい?」
と聞くと、中から、
「隠れるからちょっと待ってて!」
という声がした。
いや、
「そう言って、いっつもママはカーテンの裏に隠れるだけじゃないか。もうカーテンの位置まで行くのが面倒だから隠れないでいいよ」
と僕が言ったところで、ドミリさんが、
「ドミは初参加だから、どこに隠れてもいいドミ」
するとママがめちゃくちゃ大きな声で、
「新平! ドミリちゃんがいるのにネタバレして! おやつカット!」
僕は慌ててドアを叩きながら、
「そんな! おやつカットは止めて! ネタバレしたのは確かに悪かったよ! 謝罪するからぁ!」
でもママの声の大きさは止まらない。
「ドミリちゃんのファーストかくれんぼを奪うなんて! ネタバレには鉄槌を! おやつカット! そう! おやつカットイン!」
と声がした刹那、ドアが開き、ママは煎餅を持っていた。
いや!
「おやつカットインって何! ご褒美になっちゃった! 煎餅もらえるネタバレになっちゃった!」
ママは優しく微笑みながら、
「今日は新平のネタバレ記念日」
と言いながら、僕に煎餅を差し出した。
僕はそれを一応受け取ってから、
「だとしたら僕に甘すぎるよ、うちの子すぎるよ」
ママはニコニコしながら、
「それでいいの、それでいいのっ」
と言って、スキップしながら部屋の中に戻ったので、僕とドミリさんはそのまま部屋の中に入り、まず僕が、
「ドミリさん、ふかふか希望らしいから、居間のソファーで寝ていい?」
と聞き、すぐさまドミリさんが、
「ドミ、ふかふか第一志望校だドミ」
するとママが矢継ぎ早に、
「何ていう名前の高校?」
それに対してドミリさんはハキハキと、
「ふかふか山田高校だドミ!」
と答えたので、僕はドミリさんって青森のこと好きなのかな、と思った。
ママはうんうん頷きながら、
「ふかふか山田高校は冬は雪で厳しいけども大丈夫?」
と聞き、僕は完全に青森山田高校として聞いているなぁ、と思った。
さて、ドミリさんはどう答えるかどうか固唾を飲んで見守っていると、
「ドミ、ドミはプレミアで闘いたいドミ」
ママはサムズアップしながら、
「合格!」
と叫んだ。
合っているんだと思いながら、僕は、
「じゃあドミリさんは居間のソファーで寝るとして、またテレビを見に行こう」
ドミリさんは頷き、また一緒に1階へ降りていって、居間でテレビを見た。
僕は眠くなったところで、自分の部屋へ戻り、ドミリさんとはバイバイした。
その時も、ドミリさんは腕を出してバイバイしてくれた。
一体あの腕は何なのだろうか。
・
・【朝のカーテン】
・
朝、起きると何だか外から工事現場のような音が聞こえた。
こんな早くから工事を始める時、あるんだと思いつつ、時計を見ると午前5時。
小学3年生の夏休みすぎる時間に起きてしまったと思いつつ、とりあえずドミリさんの様子を見るため、居間へ行くことにした。
居間に降りていくと、なんとドミリさんがいない。
どこを探してもいない。
でも変な気配は常に感じていて。
もしかしたらカーテンの裏に隠れているのでは、と思い、僕はカーテンを開けるとそこには、庭を耕しているドミリさんの姿があった!
「ドミリさん!」
僕は叫びながら、窓を開けると、ドミリさんがこっちに気付いて、またどこからともなく出しただろう手を振りながら、
「小学3年生の夏休みすぎる時間におはようだドミ!」
と言ったんだけども、いやそんな感覚のシンクロよりも、
「ドミリさん! 勝手に何をしているのっ! 思い立ったが吉日すぎる大学生の朝じゃないんだから!」
「その例えは分からないドミ、だけれどもドミのやっていることが気になっていることは分かったドミ。耕し」
「いやできるだけ短い言葉で言われても! 何で勝手に耕しているんだ!」
「それは勿論、ドミの持っている種を培養しながら、植えようと思っているんだドミ」
「種って昨日見せてくれた何の種か覚えていない種のことっ? 大丈夫なのっ?」
「多分大丈夫だドミ、何故ならドミが持っていた種だから良い種だと思うドミ!」
そう言って腕で自分の胸を叩いたドミリさん。
でもドミリさんってロックマンになったりするし、結構過激な種も持ってそうだけども、って!
「もう既に何か生えてる!」
僕が庭の奥側を見ると、そこには、まるで三輪車のような形で茎や葉が生えている草があった。
「三輪車だ! 昨日の話の流れから一瞬バイクかと思ったら三輪車だ!」
「三輪車のほうが育てやすいということを思い出したドミ」
思い出した……ということは、こういった木を植えたほうがドミリさんの記憶が戻るのでは。
そうなってくると安易に止まられなくなってきた。
ドミリさんの表情を見ると、かなり楽しそうな顔をしている。
福袋で、ものすごい当たりが出た人の顔をしている。
う~ん、どうしよう、と考えていると、
「ドミ! ドミ! どんどん培養して植えてくドミ!」
と飛び跳ね始めたので、僕は少し気になったことを聞いてみることにした。
「培養って何? 種を増やすことができるの?」
「できるドミ! ミドリムシと言えば工場で培養ドミ! だからドミは小さい植物なら培養することができるドミ!」
「いや確かにミドリムシを食品利用する場合は工場で培養するけど、ドミリさんは工場ではないじゃないか」
「生物は皆、工場だドミ」
「そんな格言しか言わないオジサンの最初の一言目みたいなこと言われても」
「生物は向上する工場、技術力の技は意義の義、つまり義術力だドミ」
「あぁもう高校サッカーの監督の言葉遊びみたいになっちゃった、完成に近付いちゃった」
ドミリさんはかなり自信満々だ。
高校サッカーの監督そのものになりかけているのかもしれない。
さすがにそれは場違いなので、僕は、
「そんな言葉遊びはいいとして、本当にそんな危ない木とかは無いんだね?」
「分からないけどもドミの種だから多分大丈夫だドミ」
「それがちょっと不安なんだけども」
「ドミのこと、信じるドミ!」
そう言って満面の笑みをこちらに向けたドミリさん。
いやでも実際、
「庭は完全にパパとママの土地だから、2人に許可を得ないとダメだよ」
「新平くんの土地じゃないドミ?」
「僕は完全に養われ人間だし、僕の許可も厳密にはまだ得ていないじゃないか」
「いいドミー?」
可愛く首だと思われる場所を横に曲げながら聞いてきたドミリさん。
棒状のクッションがギュムッと動いているだけで、首なんて無いけども。
まあ、
「僕は別にいいけどね、そういうギャンブル性のある生活、決して嫌いじゃないけどもね」
と言いながら僕は窓から庭へ出るため、窓のとこに常時置いているサンダルを履いて、ドミリさんの前へ行き、一旦ドミリさんに”耕し”を休んでもらい、ママに許可を得に行こうと近くで伝えたその時だった。
こっちへ向かって走り込む音がしたので、僕とドミリさんはかわす態勢に入ると、案の定、ママのスライディングがやって来た。僕とドミリさんはかわし、
「耕した土はスライディング心地最高!」
そう言いながら一気に土まみれになったママが、
「高校球児に転生してみた」
と言って立ち上がった。
「いやママ、甲子園のグラウンドみたいな気持ちでスライディングしないでよ」
「そうね、新平はサッカーのほうが好きだから高校サッカー選手権のほうが良かったね」
「まあ高校サッカー選手権にこんな土のフィールド無いけども」
「NACK5は? NACK5は?」
「NACK5スタジアムのこと、NACK5って言わないでよ、NACK5そのものはラジオ局だから」
「ラジオ局は土?」
「NACK5そのものの話だった! ラジオ局は勿論アスファルトの建物にカーペットだよ!」
「カーペットにスライディングすると全めくれするよね」
そう言いながら、てへっと笑ったママに対して、僕は、
「同意を求められても。めくれないように上に乗りなよ」
とツッコんでおいた。
会話が一段落ついたところで、ドミリさんが割って入ってきた。
「ドミ、つい庭を耕してしまったドミ。良かったドミ?」
するとママはニッコリ微笑んでから、
「勿論! むしろ庭が雑草まみれで、もうどうしようとなっていたから耕してくれて良かったわ!」
そんなちょうどなことあるんだ、と思いながら僕はドミリさんとママを見ていた。
というわけでここからドミリさんが勢いに乗って、どんどん種を植え始めた。
僕とママはとりあえず歯磨きしてから手伝うということになった。
ママが「息クサでの作業は自分の息クサで嫌になるから歯磨きは必須」と言ったからだ。
家の中に戻り、歯を磨いて、また庭に戻ると、もうママがドミリさんと阿吽の呼吸していた。
”バディモノがとられてしまう”という言葉が浮かんだけども、別にまあとられてもいいかと思って、僕は慌てず、種植えの輪に入った。
・
・【変な虫】
・
種植えは朝ご飯前に全部終わったみたいで、僕とドミリさんとママは家に戻り、まずは食事を摂ることにした。
「コンフレーク!」
そう言いながらスライディングしてきたママに、僕とドミリさんはさらっとかわしつつ、コンフレークの準備を自分でした。
ドミリさんも、もう腕出しっ放しじゃん、というほどに腕を使って皿の中にコンフレークと牛乳を入れていた。
ママは工事現場で人を誘導する時の光る棒を振っているだけで、特に手伝ってくれたりはしない。
まあコンフレークの作業に手伝うとか無いけども。
僕とドミリさんが席に着いたら、ママは光る棒を置いて、自分のコンフレークをし始めた。
3人揃ってから「いただきます!」をして、コンフレークをガツガツ食べ始めた。
明治大学のラグビー部くらいガツガツ食べていると、ドミリさんがこう言った。
「ドミー、こんなおいしい枯れ葉、初めて食べたドミー」
「ドミリさん、これ枯れ葉じゃないよ。とうもろこしを粉状にして平たくして焼いたモノだよ」
「手の込んだやり口だドミ」
「最新の詐欺みたいな言い方されちゃった」
「何であろうと、ドミはこの木がほしいドミ、このコンフレークというモノは種にするドミ」
とドミリさんが言って、ドミリさんが手でコンフレークを持ち、頭の上に乗せると、その頭の上のコンフレークがみるみるうちに丸い粒のように変化していき、最終的に種になった。
それを見た僕はつい大きな声で、
「急に種になった! どういうことっ!」
ドミリさんは優しく微笑みながら、
「前に言った通り、ドミは好きなモノを種にできるドミ。これでコンフレークの実が成る木を育てられるドミ」
まさかそんなことができるなんて、と思っているとママが口からちょっと牛乳を吹き出しながら、こう言った。
「じゃあダイヤモンドの木とかいいかもね!」
「ママ、そんな豪胆な海賊の発想しないでよ。そういうのは多分だけど違法だよ」
と僕が言ったところでドミリさんが、
「この種を作る作業はミスする時があるドミ、固いモノほどミスする傾向にあるからダイヤモンドや金は難しいドミ」
「基準は硬さなんだ」
「あくまで最終的に実を成らす技だから、実くらいの硬さじゃないとダメだドミ」
それを聞いたママはシュンと肩を落としたが、僕はママの貪欲さに若干寒気がした小学3年生の夏。
朝食を終えた僕とドミリさんとママは、とりあえずコンフレークの種も植えたところで、ママは買い物に行った。
さて、ドミリさんが植えた種は一体どんな実が成るのだろうか。
ギャンブル性のある、射幸心生活は決して嫌いじゃない僕は胸がドキドキした。
とは言え、こういうのってよくよく考えたら3ヵ月くらい掛かるのでは、という話をドミリさんにしようとしたその時だった。
ドミリさんが庭のほうを見ながらこう言った。
「輝き出したドミ、そろそろ成るドミ」
何だろうと思って、僕もふと庭のほうを見ようとしたら、なんと庭のほうが黄金に光っていて、眩しくてちゃんとは見れなかった。
「えっ、ドミリさん、どういうことっ?」
「ドミの種で育つ木は3時間もあれば実を成るところまでいくドミ、どうぶつの森の時間操作裏技だと思ってくれるといいドミ」
「どうぶつの森で時間を操作することは裏技じゃなくて、公式が禁止している行為だよ」
「でも本田翼はやっていたドミ」
「その疑惑があるというネットニュース、前にあったけども」
「ほらドミドミ、どんどん育っていくドミ」
「いやだから眩しくて全然見えないよ」
と言いながら、僕はドミリさんを見ると、ドミリさんはいつの間にかサングラスをしていた。
往年の刑事ドラマのサングラスをしていた。
「ドミリさん、サングラスしているね」
「勿論、バディモノの片方はサングラスに限るドミ」
「そんなことは全然無いけども、何か垂れ目みたいなサングラスだね」
「往年の刑事ドラマ・サングラスだドミ」
「言い方、僕が心の中で思った言葉と一言一句一緒だ!」
徐々に輝きがゆるやかになり、僕も庭を目視できるようになったところで、ついに木を見ることができた。
その木とは、めちゃくちゃカラフルで、なんというか、ユーチューバーのぬいぐるみぐらいカラフルだった。
「ちょっと庭へ見に行くドミ!」
「じゃあ早速行ってみよう」
ママはちょうど買い物に行っている最中なので、僕とドミリさんだけで見て回ることにした。
庭に出て、すぐに目が入ったのは、葉っぱがコンフレークの木だった。
いや!
「実じゃない! 葉っぱがコンフレーク!」
「やっぱりこのコンフレークというモノは枯れ葉だドミ、葉だから早く収穫できるドミ」
そう感慨深そうに頷いたドミリさん。
いやいや、
「全然枯れ葉じゃないよ。とうもろこしだよ」
「これはまあそうとして、他の木も見ていくドミ」
その近くにあった木は、妙に漢方薬っぽい香りのする実が成っていた。
幹はカラフルなんだけども、実は茶色という素朴なカラー。
これは一体どんな実なのだろうか。
「ドミ、この漢方薬の香り……思い出したドミ、これはマジののど飴の種だったんだドミ」
「マジののど飴って何! のど飴って全部マジだよ!」
「いやマジののど飴はマジののど飴だドミ。果物が配合されたチャラいのど飴じゃなくて、漢方配合のマジののど飴ドミ。そうそう、ドミはのどが荒れやすいからのど飴の種を常に持っていたんだドミ」
「確かにドミリさんって、食べ物はのど越しってすごい言うもんなぁ。逆にこのカラフルな実は何かな?」
「それは多分、果物のど飴ドミ」
「いや果物が配合されたチャラいのど飴も持っていたんだ。いや別に僕は果物配合をチャラいとは思わないけども」
「ドミはとにかくのど飴が好きだドミ」
「ミドリムシにそんなのどイメージ無いけどね」
そんな感じで木を見て回った結果、全部のど飴だった。
中でもキシリトールののど飴のことを、ドミリさんは『マルチロールのど飴』とサッカーで複数のポジションをこなす選手の人の言い方をしていた。
そこからドミリさんと僕で、複数のポジションをこなす選手の古今東西をしてから、家へ戻った。
ドミリさんは木に成ったのど飴を何個か口に含んだけども、僕はなんとなく抵抗があって、もらうことはしなかった。別にのども痛くないし。
昼になるとママも帰って来て、家の中からドミリさんが木の説明して、そのままお昼ご飯となった。
ママは「チャーハン!」と叫びながら、コンフレークを皿に入れた。
お昼はチャーハン気分でコンフレークを食べるんだなぁ、と思いながら、僕とドミリさんはカップラーメンを食べることにした。
理由はドミリさんが、ママが今日買ってきたカップラーメンをじっと見ていたからだ。
「とんこつなんて、まさか、ドミ……」
と言っていたので、じゃあ食べてみる? ってなって、そんな感じだ。
とんこつの何がまさかなのかは全然分からないけども、ドミリさんが僕の隣で笑顔でとんこつカップラーメンを食べているので、まあいいだろう。
というかドミリさんっていつも大体ニコニコしているなぁ、と思って横を見ていると、その向こう側の庭で何かが動く影が見えた。
まさかのど飴大好きな鳥かな、と思って注意深く見ていたら、なんとフォルムは蜂みたいなんだけども、鳩くらい大きい物体だったので、
「うわぁぁああああああああああああ!」
と叫んでしまうと、ママが、
「敵襲か!」
と言いながら、光る棒を手に取った。
いや!
「そんなFPSみたいなノリで光る棒を手に取らないでよ! でも確かに敵襲かも! 庭を見て!」
ママもドミリさんも庭を見ると、完全にそのクソデカ蜂とみんな目が合い、クソデカ蜂が会釈をした。
蜂って大きくなると、大人みたいな会釈するんだと思っていると、ドミリさんが、
「島の蜂だドミ!」
と言いながら、玄関へ向かって走り出したので、ママもそれを追いかけて、僕は怖かったけどもみんな一緒ならと思って、僕も外へ出ることにした。
・
・【クソデカ蜂】
・
「ちぃーっす! クソデカ蜂っす!」
自分でクソデカ蜂って名乗ったし、喋った……と思っていると、ドミリさんがまず口を開いた。
いやまあその前にママがスライディングタックルしたけども、クソデカ蜂は普通に浮いていたので、全然当たらなかった。
「ドミ、君はドミがいた島にいたクソデカ蜂ドミね、一体何の用だドミ」
「めっさのど飴の香りしたから来たら楽園でマジ感謝っす、ちょりっす」
絶対ちょりっすのタイミング違うだろと思いつつ、僕も割って入って、
「クソデカ蜂さんはのど飴を食べに来たの?」
「そうっすね、のど飴好きなんで。やっぱのどって大切じゃん?」
何か喋り方がウザい上に、そんなのどのことばかり考える島なのかよ、と思った。
ドミリさんが喋る。
「実はすぐ成るから、のど飴は好きに収穫するといいドミ。でも周りに迷惑かけちゃダメだドミ。もし迷惑かけたらドミと新平くんのバディモノによるあやかし退治になるドミ」
「えっ、ドミリさん、クソデカ蜂ってあやかしなのっ? というかあやかし退治モノだったのっ? 僕たち」
「あやかし退治も探偵も料理も何でもやる、ライト文芸のバディモノだドミ」
「ライト文芸というつもりで生きてきていたんだっ」
「ミドリムシだからドミ」
「ミドリムシは全然ライト文芸じゃないよ、工場の純文学にしか適用しないよ、本来なら」
と言ったところで、ママが口を挟んできた。
「ママは日常アニメやりたい、何も起きないけどもずっと光る棒を振ってるみたいな」
「だとしたらシュールなヤツだよ!」
そんな会話をしているクソデカ蜂が急に僕たちの周りをブンブン飛び始めて、
「俺っちのことを無視するなし! 俺っちが一番だし! マジちょりっすだし!」
完全にちょりっすの位置違うだろと思いつつも、クソデカ蜂の飛ぶ音も言葉もウザくて何か嫌だなぁ、と思っていると、ドミリさんが、
「まあとにかく好きにのど飴を舐めて、どこかに行くドミ」
と言いながら、家へ戻ろうとしたので、僕もそうしようと思うと、クソデカ蜂が僕たちの行く手を阻み、
「待て待て待てだし! もっとクソデカ蜂のいいところ言い合う流れっしょ!」
それにドミリさんが力強い瞳で、
「じゃあドミがそれやってあげるから、新平くんは家に戻るドミ」
と言ったんだけども、僕は普通に家でドミリさんと会話がしたかったので、ドミリさんの体を掴んで引っ張ると、クソデカ蜂が、
「邪魔するんのダメだし! 俺っちとミドリムシの会話劇が始まるっすよ!」
と言いながら、僕の腕に止まったので、
「ひゃっ!」
と言って腕を払うと、またクソデカ蜂が、
「この程度で怖がるなんて本土のヤツは全然ダメっすね!」
と言ったので、僕はムッとしていると、ママがまたスライディングタックルをかましたけども、当然のごとくクソデカ蜂は浮いているので当たらず、ママが静かに服についた土を払った。
ドミリさんは一連のママの動作を見てから、ちょっと真面目な顔をしながら、こう言った。
「とにかくここは島同士でトークするドミ、だから新平くんのこと悪く言うのは止めるドミ」
クソデカ蜂はちょっと仰け反ってから、
「じゃ! じゃあそうするっす!」
と言ってドミリさんの周りをブンブン飛び始めた。
ドミリさんは僕のバディモノなのに、と思ったら、何だかイライラしてきて、その怒りに身を任せて、僕は海岸線のほうへ走り出した。
ママが心配そうに僕のほうを見ていたことが一瞬目に映ったけども、それよりも僕は自分が走ることを優先させた。
ドミリさんとはまだ出会って1日半だけども、ドミリさんは優しくて神秘的で面白くて楽しいのに、まさかとられてしまうなんて。
あんなウザったいクソデカ蜂に。ドミリさんとはもっともっと一緒に会話したいのに邪魔するなよ! クソ! クソ! クソ!
「クソぉぉおおおおおおおおおお!」
僕は海へ向かって叫んでいた。
「クソデカ蜂なんて嫌いだぁぁぁああああああああああ!」
何だか叫ばなければ気が済まない。そんな気持ちだ。
「もう木も嫌だよ! 何だあの木! 華の無いユーチューバーのスタート画面かよ!」
「ドミ! ゴメンだドミ!」
その声がする方向を振り向くと、そこには申し訳無さそうな表情をするドミリさんが立っていた。
「あっ、ドミリさん……」
僕はどうしたらいいか分からず、その場で俯くと、ドミリさんが「ドミドミ」言いながら近付いてきて、こう言った。
「ドミ……ドミが木を植えたせいでゴメンだドミ……木を植えたばっかりに……ダミー!」
いや違う。
違うんだ。
木を植えたせいじゃない。
その結果、あんなウザいクソデカ蜂が来たことが嫌なんだ。
だから、
「ドミリさん、木は何も悪くないよ。ゴメン。言わなくてもいいもの対して言いすぎたんだ。木はほら、ゴールデン番組のスタジオみたいで嫌いじゃないよ」
「ドミ……本当ドミ……?」
「そう、のど飴の香りもアロマみたいで気に入っているよ、悪いのは全てあのクソデカ蜂だから」
「ドミ、新平くんは優しいドミ……新平くんの優しさは、キシリトールののど飴、そう、マルチロールのど飴ドミ」
「ドミリさん、誰がベンチに置いておきたい存在だよ。僕はスタメンだから! そう、僕はドミリさんの横で先発するから! 一緒にバディモノしよう!」
「ダミー……嬉しいダミー!」
そう言ってドミリさんは僕に抱きついてきた、と思った。
今は腕無しだったので、抱きつかれてはいないけども、多分そうだと思って僕がドミリさんに抱きついた。
ドミリさんはクッション質で暖かかった。
何でミドリムシがクッション質? って改めて思ったけども、そんなことは些細なことだ。
ドミリさんが優しい素材で本当に良かったと思った。
・
・【工事の音再び】
・
次の日の朝、外からまた工事現場の音が聞こえてきた。
ドミリさんがさらに耕しているのかなと思いながら1階の居間に降りてくると、ドミリさんはソファーの上で目を閉じて寝ていた。
ちゃんと目を閉じるんだ、と思いながら僕は一旦歯磨きに戻った。
ドミリさんが居間にいるということはマジの工事現場確定だから。
時間も午前8時だし、早め早めの工事現場ならやっていてもおかしくないと思ったから。
歯も磨き終え、また居間に来て、カーテンを開けると、そこにはなんと、斧のようなモノで木を叩いている石間さんがいたのだ!
「石間さん!」
僕は急いで窓を開けて叫んだ。
すると石間さんがこっちを見て、怪しく笑いながら、こう言った。
「大丈夫、こんな木は私がカットしてあげるから」
「そんなカットだなんて美容師みたいな気持ちで林業しないでよ! というか何で木を伐採しようとしているんだ!」
と僕が声を張り上げたところで、石間さんの周りを飛んでいたクソデカ蜂が、
「いくら俺っちが止めろと言っても止まんないっすよ! ちょりっす! どうすればいいんっすかねぇー!」
完全にちょりっすの位置が違うだろ、かつ、クソデカ蜂って人に対して攻撃とかしないんだ、と思った僕は、とりあえず玄関から庭に出て、ちゃんと靴で、
「石間さん! 僕たちの家の庭を勝手にいじらないでよ!」
「えっ! でも珍平はこの木が嫌いなんでしょ!」
「そういう時期があったこと何で知ってるか分からないけども、それはもう本当にどうでもいいんだって! むしろドミリさんと仲良くできればそれでいいと思っているんだって!」
すると石間さんは顔を真っ赤にしながら怒って、
「何がドミリさんだ! そんなヤツに気を遣うよりも今まさにカットインからの内側に絞ってのシュートでしょ! 今の時代のサイドバックは!」
「急に偽サイドバックの理論を言わないでよ! というか石間さんもサッカー好きなんだね!」
「そうそう! サッカー最近覚えたの!」
「最近のレベルで偽サイドバックまでいくなんて、すごいね!」
「ありがとう!」
と石間さんが嬉しそうに笑った。
いや!
「……じゃなくて! 伐採しないでよ! 本当にいいんだって! これで!」
「いや心の奥底では木を憎んでるはず! 大丈夫! 珍平の代わりに私がカットするから!」
と言ったところでドミリさんがやって来て、こう言った。
「せめてのど飴の収穫してからにしてぇドミぃ!」
それに対して石間さんは作業を止めて、
「それは確かにそう」
と言った。
良かった、もったいないという精神のおかげで止まってくれた。
僕は改めて石間さんに言う。
「今はこの木からする香りも気に入っていて、本当に嫌じゃないんだって。というか僕、石間さんに嫌なんだみたいなメールしていないでしょ?」
「えっ? メール交換するっ?」
「しないよ、石間さんとメール交換したらイジリのメールがすごいきそうじゃないか」
と僕が言うと、何だかちょっとシュンとした石間さん。
そんなに僕のことイジリたいんだ、何だその情熱、テニスとかに向ければいいのに。
「とにかく何で僕が1回だけ木のこと嫌いになったこと知っているんだい?」
「それはたまたま海岸線を散歩していたら、珍平が海に向かって叫んでいたから」
「じゃまあそうか、そうだね、僕は無防備に叫んでいた小学3年生、真夏の大冒険だったからね」
理由も分かってホッとしていると、石間さんがこう言った。
「じゃあみんなで収穫してカットしちゃいましょう」
「いやだから伐採しなくていいんだって」
「でも私はカットしたほうがいいと思って行動力」
「行動力が何なんだい! いや分かるけども! 大喜利好きのような言葉の省略しないでよ!」
と僕が言ったところでドミリさんが、
「お題、木を伐採する時に必要なこと」
それに対してすぐさまクソデカ蜂が、
「腕力一本鎗! うぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
と叫んだので、僕は冷静に、
「叫ぶほうの大喜利プレーヤーじゃないんだよ、叫びで誤魔化すほうの大喜利プレーヤーじゃないんだよ」
とツッコんだ。
いやいやそんな会話をしていても根本の解決にならないんだ。
石間さんは相変わらず、瞳の奥は伐採の都会人になっているし。
何かこの木が必要だということを示さなければ。
だからって僕は木に成ったのど飴を継続的に舐めたいとは思わないし。
持続可能で、SDGsで舐めたいとは思わないけども。
と考えたところで、何かに利用はできないかと僕は思った。
SDGsのように、サイクルさせればいいんじゃないか、と。
状況をちゃんと整理しよう。
ドミリさんは自分で出航したのか、漂流したのか分からないので、とりあえず島に戻るという選択肢も持ちたいというところ。
というか1回戻れば多分周りの人か何なのか分からないけども、周りの存在がドミリさんがどういった状況で外に出て行ったか教えてくれると思う。
そしてこのクソデカ蜂は島にいたクソデカ蜂……ということは!
「クソデカ蜂って! 島から来たのっ?」
クソデカ蜂は浮きながら頷くように沈み、
「その通りっす。すごい良いのど飴の香りというか気配がして、ここまで来たんっすよ」
「じゃあ元の島に戻れるということだね!」
「まあ戻る気は無いっすよ、だってこんな良いのど飴は無いっすから」
「僕とドミリさんで、もっと良いのど飴の木を作るから、そうしたら1回ドミリさんを島に戻してほしいんだ! 案内というか! で、その種を島に戻って植えればいいし!」
それに対してクソデカ蜂は、
「いいっすね! それ! ちょりっす! それでいくし! 交渉成立っすね! ちょりっす!」
急に、思い出したかのようにちょりっすって言うなと、僕が思っていると、ドミリさんが嬉しそうに飛び跳ねながら、
「ドミ! ドミ! これで選択肢を持てるドミ!」
と喜んだので、僕は自分の考えていたこと、つまり1回戻れば周りの存在がドミリさんがどういった状況で外に出て行ったか教えてくれることを伝えると、ドミリさんは、
「確かにそうだドミ! とにかく1回戻るドミ! そして自ら出航してきたなら、また新平くんの元に戻ればいいドミ!」
というわけで、
「石間さん、そういうことになったから木は伐採しないでほしいんだ」
すると石間さんはゆっくりと頷き、
「なるほど、じゃあ良いのど飴が作れればドミリはいなくなるということか、よしっ! 協力する!」
と叫んだ。
いや、
「別に協力はしなくていいよ、そのまま僕の目の前から去ってくれるだけで構わないよ」
「いや協力者は多いほうがいいだろ! 私も味見するよ! のど飴!」
まあ人間が舐めても大丈夫なのか知りたいところもあるので、味見してくれるならそれを拒否しなくてもいいかと思った。
ここから、僕とドミリさんと、まあクソデカ蜂と石間さんで、のど飴の研究を始めた。
まず僕がお小遣いでのど飴をいっぱい買ってきて、それをまず木にして、花が咲いたところでいろんなのど飴同士と受粉させて、と。
まんまやっていることが農家なので、農家ズだ、と心の中でひそかに思っていた。
・
・【パパが帰ってきた】
・
なんせ木は3時間くらいで実が成るところまでいくので、ずっと庭に出ずっぱりで作業している。
1日はすぐさま溶けて、次の日の夕暮れ、そろそろまた明日となったところで、パパが出張から帰ってきた。
僕は玄関のほうへ走っていくと、それよりも早く既にママがパパにスライディングタックルをしていて、パパが倒れていた。
パパはママのスライディングタックルをかわさない。
それが仲良しの秘訣なんだ、みたいなことを言っていたことを聞いたことがあって、ちょっとキモイな、とは思っている。
だから僕は『またキモムーヴじゃん』と思いながら倒れているパパのことを見下していると、パパが急にこっちを見ながら、
「ギャース!」
と叫んだ。
初期のしょこたんじゃん、と思いながら僕はパパが見ていたほうを振り返ると、そこにはドミリさんが立っていた。
ドミリさんを見て驚いたのかと思いながら、ドミリさんのほうを見ていると、ドミリさんがニコニコしながらこう言った。
「ドミリさんだドミ! 気軽にドミリさんって呼んでほしいドミ!」
発せられた言葉にはしっかりのど飴の香りが乗っていて、今日のラストのど飴は果物ののど飴にしたんだ、と思った。
パパは急いで立ち上がりながら、ドミリさんを指差し、
「化け物だ!」
と言ったので、僕は首を横に振ってこう言った。
「ドミリさんはミドリムシだよ、化け物なんて言わないでよ」
ママも同意するように首を動かしながら、
「ドミリちゃんはもう私たちの家族なんだから、そんな言い方しないの!」
その言葉に嬉しそうに飛び跳ねるドミリさん。
でもパパは口元を震わせながら、
「どういうことだ……我が家は洗脳されているのか……」
と言ったところでママが、普通にパパをビンタして、
「そんな最低の物言いをしないの!」
と言って、パパは明らかに傷ついたように俯いた。
ママが喋り出す。
「ドミリちゃんは記憶喪失で海岸線に打ち上げられていて、新平が助けてあげたの。困っているミドリムシがいたら助けることは道理でしょ。もしこれ以上そんなキモムーヴするんだったら、もう1回出張行ってきなさい! 出張のリベンジよ!」
パパは肩を震わせながら、ゆっくりと語り出した。
「したいよ……出張リベンジできるならしたいよ! 今回は大失敗をしたんだよ! 部下とワタクシ両者共々! 出張リベンジたいよぉぉおおおおおおおお!」
と今にも泣きだしそうな声で叫んだパパ。
いや出張リベンジのほうをこっちにお知らせされても、と思っていると、ドミリさんがゆっくりパパに近付き、背中を優しく叩いた。
するとパパが瞳を潤ませながら、
「大黒柱だから新平の成人式までは泣かない!」
と荒らげた。
これパパはよく言うけども、成人式ってそんなデカいイベントなのかな?
別に日々の僕に感動してくれていいけども。
パパはゆっくりドミリさんのほうを見ながら、
「オマエも出張を失敗した時の苦しみ分かるか……って! 腕ぇ!」
そう言いながら、キュウリに驚く猫くらいに飛んで逃げたパパ。
あっ、そうか、腕の説明は必要だね。
「パパ、ドミリさんは要所要所で腕が出てくるんだ。でもその腕はすぐに消えるから気にしないで」
「腕が出たり消えたりするって、どういうユーモアっ?」
「そんなパパ、ネタツイ勢が絶対ウケたい時に出す呟きじゃないんだから」
「ドミリさんってミドリムシじゃないのっ? この腕は妙にメカニックだけども!」
するとドミリさんが優しく首を斜めにしながら、
「ドミもよく分からないドミ」
「大丈夫なのっ? それぇっ?」
と今にも泣きだしそうな顔をしたパパは、すぐさま目をしばしばさせてから、
「大黒柱だから新平の成人式までは泣かない!」
と叫んだ、ところでママがまた普通にパパにビンタして、
「ドミリちゃんは可愛いから何でもOKだろ!」
パパは頬を抑えながら、
「大黒柱だから新平の成人式までは泣かない!」
いや別にパンチラインじゃないんだよ、と思っていると、ドミリさんが少し悲しそうな顔になりながら、
「ドミはやっぱりいないほうがいいんだドミか……」
と言ったので、僕はすぐさま、
「そんなことないよ! ドミリさんは可愛いし、いろんなことが起きて僕は楽しいよ! ドミリさんのおかげでここ2日間、最高に笑っているし! ほら! 苦手だった石間さんとも少し仲良くなれて気が休まっているんだ! ドミリさんが記憶喪失で困っているなら助けたい! だって! バディモノでしょ!」
ドミリさんは一筋の涙を流した。その涙はすごいマジののど飴の、漢方薬の香りがした。
それを聞いたパパは、溜息をついてから、こう言った。
「新平の、その、ドミリさんを想う心、すなわち動物を想う心、感動したよ。そうか、もう新平はそこまで成長したのか……」
そう言って瞳から涙が溢れたパパ。
いや普通に成人式以外でも泣くんだ、と思って僕はちょっとだけ冷めた。
結局、パパもドミリさんを了承し、みんなで家の中に戻っていった。
食卓は4人、否、4体で囲み、楽しく団らんした。
パパの出張先であった情けない話は本当に面白くて、パパは本当に天才的にダメだな、と思った。
・
・
・
そこからはパパもドミリさんののど飴作りに協力してくれて、次の出張先で見つけたのど飴が本当にただただクサイだけで、みんなで笑い合ったことは忘れられない思い出だ。
クソデカ蜂とドミリさんと石間さんが味見をし、1日経過したら僕も味見をしていくスタイル。
石間さんが僕にとっての毒見係だ。それは言わないけどもね。
そんなある日、僕がのど飴同士を配合するのではなくて、のど飴とチョコレートを種にして配合しようと言ったらそれが良くて。
クソデカ蜂がそれを舐めた時にこう言った。
「うまいっすよぉぉおおおおおおおおおおお! ありがとうございます!」
2022年1月12日に芸人引退宣言したコネオ・インターナショナルばりの”ありがとうございます”だったな、と思っていると、クソデカ蜂がこう言った。
「この種を島に持ち帰ります! ありがとうございます! 新平さん! 石間さん! そしてドミリさんさん!」
やり口が完全にコネオ・インターナショナルだと思った真夏の昼間。
・
・【イカダ作り】
・
イカダは庭に育てていた木々で作ることにした。
ドミリさんがいなくなった状態で、また変な虫が来たら大変だから、一旦無にして帰るとドミリさんが宣言したから。
石間さんもそのままイカダ作りを手伝ってくれて、かなり良かった。
実際僕は石間さんと普通の会話もできるようになって、親密度が上がった実感があるので、イジリを喰らったとしても昔ほど嫌な気持ちにはならなくなっていた。
むしろちょっとした冗談として受け入れることもできるようになっていた。
イカダはドミリさんが麻縄の種を作って、麻縄の実で組み立てている自然に優しい仕様。
ドミリさんは最初の段階で「SDGsでいきたいドミ」と言っていたので、そうすることにして。
というかドミリさんもSDGsという概念を知っているんだ、と思った。
でもそうか、ドミリさんはネットやテレビで日本の状況を全て把握しているんだ。
だから日本語も喋られるんだろうな。
イカダも完成間近になったところで、ポツリと石間さんがこう呟いた。
「私が珍平のバディモノなんだから、これでやっと邪魔者がいなくなる」
「ちょっと石間さん、邪魔者ってドミリさんのこと? そんな言い方しないでよ、というか僕と石間さんがバディモノってどういう意味? 僕はドミリさんとバディモノなんだよ」
「えっ、聞こえていた……?」
「聞こえていたって、それもドミリさんへのキツイイジリでしょ、そういうの指揮が下がるから止めてよ」
「いや、えっ、あの……もう!」
そう言って石間さんは急に走り出して、どこかへ行こうとしたので、言い逃げはズルと思って僕は追いかけた。
するとドミリさんも後ろからやって来て、僕とドミリさんで石間さんを追いかけていると、
「そっちの緑色は邪魔だよ!」
と言ったので、僕はドミリさんのほうを振り返ると、ドミリさんは、
「ダミー」
と言いながら、顔から砂浜に突っ伏して倒れた。
僕は急いでドミリさんに駆け寄って、
「ドミリさんに邪魔だなんて言わないでよ!」
と声を張り上げたら、石間さんは足を止めて、ゆっくりこっちに向かって歩いてきた。
ドミリさんは自力で立ち上がり、石間さんのほうを見ながら、力強い口調でこう言った。
「いやドミは邪魔だドミ、でも君も自分のプライドが邪魔して本音を言えてないんじゃないドミ?」
僕は一体何のことだろうと思って、頭上に疑問符を浮かべていると、石間さんが拳を強く握って、
「じゃあもう言う! 言うよ!」
と叫んだ。
一体何のことだろうか、ドミリさんのほうを見ると菩薩のように微笑んでいた。
ドミリさんは分かっているのか、でも僕は一切分からない、一体何なのだろうか。
「私は! 珍平が好きなんだよ!」
一瞬何のことが分からず、時が止まったような気がした。
静寂に包まれて、次にこの空間を切り裂く言葉を吐いたのは、ドミリさんだった。
「ドミへの決闘宣言じゃなかったドミ……!」
いや間違っていたのかよ、意図しない発言が出ちゃったのかよ、でもそうだよね、ドミリさんへの決闘宣言の可能性もあったよね。
実際は僕のことが好き、って、好きってどういうこと? 僕は何か気恥ずかしいだけで、よく分からない。
石間さんの表情を見ると、顔を耳まで真っ赤にして、不安そうに僕のほうを見ていた。
嘘とかじゃなくて、イジリとかじゃなくて、本当に”好き”ということ?
いやでも、いやでも、僕は、僕は、僕は!
「そういうのは分からない!」
気付いた時には、僕はどこかへ向かって走り出していた。
チラリと振り返ると、石間さん、そしてドミリさんも追いかけてきていて、僕は大きな声で、
「ドミリさん! 今は本当に邪魔なヤツだよ!」
と言うと、ドミリさんの足音が無くなり、
「薄々感じていたドミ」
という声が聞こえてきた。
ある程度、家からもドミリさんからも離れた海岸の岩陰で、僕と石間さんは2人きりになった。
一定の距離を持って、それぞれ岩場に座っている。
僕は意を決して、今の気持ちを語ることにした。
「急に石間さんにそう言われて、正直よく分からないよ、ずっとイジられていたのに、急にさ。そりゃ最近は仲良くなってきたけどもさ」
すると石間さんが今までで一番優しい声で、
「イジってないよ、昔からイジっていたつもりは無いよ……ううん、イジっていたかもしれない、構ってほしくて、どうすればいいか分からなくて」
「じゃっ、じゃあ、えっと、好きだから、こうやって話しかけてきていたということ……?」
「そう……珍平が海に向かって叫んでいた時も、珍平の元に行こうかと近くをうろうろしていたら、偶然珍平の影が見えて、行ってみたら叫んでいて、とか。ずっと珍平のこと考えていた」
「そ、そうなんだ……」
「珍平、私は珍平のことが本当に好きなんだ」
いや!
「ずっと珍平呼び!」
何かめちゃくちゃ気になってしまい、デカい声でツッコんでしまった。
というかもうこの勢いで喋るしかない。
「だとしたら不器用すぎるよ! 折り紙最初の谷折りで挫折くらい不器用だよ! 挫折で折り始めているみたいな感じだよ!」
「そ、それは分からない、後半が分からない」
「僕も分からないよ! 何も分からないよ! 好きだって言われても全然意味が分からないよ! 僕は好きとかそういうことはまだ分からない!」
「そ、そっか……」
と寂しそうに俯いた石間さん。
だから!
「石間さん! 今日から仲の良い友達でいこう! それならば分かる! 一緒に楽しく日々を進んでいこう!」
「えっ……本当にそれでいいの……?」
「勿論! 石間さんと珍平の関係でやっていこう!」
「ありがとう、珍平……」
そう言って握手の手を差し出してきた石間さん。僕はその手を握って軽い会釈をした。僕は会釈する大人になったんだ。一歩、大人になったんだ。
その後、砂浜の上で仰向けに倒れていたドミリさんを拾って、庭に戻ってきた。
イカダが完成して、まだ時間帯的に昼だったので、ドミリさんは早々に出航することにした。
とにかく一度島に戻れば、自ら出航したのか、それとも不本意に漂流したのか分かると思うから、と。
僕は明日の早朝という案も提案したけども、ドミリさんは「勢いに乗っていきたいドミ」と言った。
何の勢いに乗っているんだろうとは思ったけども、それ以上言うのは野暮だと思ったので、止めなかった。
クソデカ蜂はドミリさんを先導しながら、そのまま島に帰ることにしたらしい。
「ドミリさん、思ったよりトントン拍子で短い間だったけども、さようなら! もし自ら出航してきたんだったら、また会いに来てね!」
「当たり前だドミ! ドミと新平くんはバディモノだドミ!」
すると石間さんが笑いながら、
「私との青春活劇もしようねっ、珍平!」
「そんな江戸の人情劇みたいな言い方しないでよ、石間さん」
「じゃあドミは行くドミ、10日間ありがとうだったドミ」
ドミリさんはどこからともなく出現した腕を振りながら、出航していった。
その腕でパドルを漕ぎながら、航海を始めた。
腕、結構出すなぁ、と思いながら僕は見ていた。きっと石間さんも同じことを考えていたと思う。
その後、僕は石間さんと庭の後片付けをした。
この時に、ドミリさんが勢いに乗って行きたいと言っていたけども、後片付けしたくなかったからかな、とか考えていた。
だとしたら、最後の最後でちょっとだけズルいな、とか思った。
その後、ママのスライディングタックルの練習に付き合わされたら、夕暮れになって、石間さんと2人で海岸線を散歩することにした。
ふと石間さんがこう言った。
「夏休みはまだまだ続くしさ、いっそのこと2人で、共同で自由研究をしない?」
「そうだね、それは面白そうだね。というかドミリさんの木を育てるヤツ、記録しておけば良かったなぁ」
「でもそれは学校側に提出できないでしょ、珍平」
「確かに、急におとぎ話を具現化してきたと思われちゃうね」
「まあそれも楽しいと思うけどねっ」
と笑い合ったところで、僕はふと視線を下に落とすと、うわぁぁあああ!
「あぁぁぁああああああああああああああああああ!」
僕の目線の先を見た石間さんも、
「わぁぁあああああああああああああああああああああ!」
と叫んだ。
何故なら、その目線の先に、砂浜でうつ伏せに倒れているドミリさんがいたからだ。
「「ドミリさん!」」
僕と石間さんが同時に叫ぶと、ドミリさんがくるりと体を半回転させて、仰向けになり、
「潮が強ぇドミ」
と言った。
僕はその場にしゃがみながら、こう言った。
「潮が強かったんだね……」
「クソデカ蜂は先に行ってしまったドミ……これからよろしくだドミ……」
ドミリさんはなんとも言えない、苦々しい笑顔を浮かべていた。
これは完全に大人の笑顔だった。
気恥ずかしさの混じった、大人の笑顔だ。
でも内心、少しだけ嬉しそうな、その嬉しそうな一面を悟られたくないという気持ちもあるような、大人の苦々しい笑顔。
だから僕は言うことにした。
「ドミリさん、また一緒に生活できるようで嬉しいよ。少なくても僕は」
「ありがとうだドミ、ドミ、ダミー!」
そう言って腕泣きをしたドミリさん。
僕とドミリさんの生活はまだまだ終わらない。
(了)
・
・
・
ドミリさんの言葉:
お読み頂き、誠にありがとうだドミ。
有料部分は上記の通り、投稿用の800字の粗筋とプロットだけだドミ。
特に見る価値は無いドミから、
有料の100円はただただドミリのための応援資金だドミ。
まあそれも伊藤テルが本の購入資金に使うんだけどもドミ。
それではバイバイだドミ。
面白かったら、御遠慮せずスキを押して頂けると有難いドミ。
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