20190818

お盆と呼ばれる時期の、帯とも襷とも呼び難い休みの最終日だ。人が消えたかのような数日を経て、東京は通常運転の予感が色濃い

最寄りの大きな街まで出て漫画を買って、喫茶店の席に体を埋めてそれを読もうと思ったが、先ず書店の数が目減りして久しい。ここや、あそこの雑居ビルに入っていたそれらは、全てなくなってしまった

匂いは記憶と大きく結びついており、例えばトイレの青い色の消臭剤の匂いがするとゲームボーイ版の牧場物語の事を思い出す。幼い頃、夏休みに家のトイレに籠もって延々と架空の牧場運営をしていた記憶の残り香である。その夏は、この夏ほどの猛烈な暑さではなかったが、狭い個室には強烈な西日が差し込んでいた

暑さを少しでも和らげようと選んだ地下道の匂いが、よく通っていた今はもう無い書店の匂いと同じだった。カビっぽいが不快ではなく、墨液のような、個人的には好ましい類のそれだ。掃き溜めには鶴がいる(らしい)し、淀んだ場所で懐かしくも清々しいような気分で深呼吸をする事だって、稀にはあるのだ

地下道と同じ匂いのしない書店で漫画を買って、別の駅へ移動した。新宿駅で乗り換えた先の、賑やかだが住宅街の要素が含まれる別のエリアだ。アーケード街を終わりまで歩いて、その奥にある寺院に続く商店街を更に進む。進む途中にカフェがあり、そこに入る事にした。扉は重たげな印象だったが、それに反して滑らかな軽い動作で開いた

結論を言えば、そのカフェはとても良かった。皮が主張しない自家製ソーセージ、甘くないピクルス、アップチャージなしで選べる小さめのグラスに注がれたハートランド

休みの最後はこうあるべき、と云う姿そのもののように思えた。そういえば、この街には趣味の友人が住んでいるようなのだけど、彼はこの店を知っているだろうか、などと思いながら買った本を読んだ

描かれる物語の舞台は青森で、季節は春だった

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