やる気と死神
延々と米津玄師を流し続けるパソコンの画面は、上の部屋の洗濯機の振動と同じくらい当たり前のものになった。花を描く手を止めて何時間、携帯電話の通知を切って仕事に集中するフリをして何時間が経っただろう。冷房の風が少し冷たすぎる。
仕事は好きだ。楽しくやっているはずだ。
しかしこの部屋にいる死神(幽霊より悪そうで悪霊より不思議なやつのような気がするので)は僕のやる気を不意に誘拐してしまう。いつの間にか無印良品のクッションは僕を包んでいる。負けじと起きあがろうとするが、クッションはそれを許さない。ふかふかだ。
冷蔵庫の横にくっつけたアルミホイルの箱と目が合う。一体いつから君に触れていないだろうか。多分1ヶ月前くらいに玉ねぎを蒸した時以来だろうか。あの玉ねぎ料理はひどかった。料理なんて呼ぶ事自体おこがましいというものだ。
違う、僕は仕事をしなければいけないのだ。絵を描かなきゃいけないのだ。まだ全然たくさんとは言えないがお仕事をもらっているのだ。好きな事を「しなきゃいけない」なんて表現できる現状はなんて幸せなんだろうか。そんな幸せ者は怠惰を絵に描いたような体勢で机に目をやる。机上の大好きなヒーローは両腕を十字に組んでいる。瞬間、そびえ立った右手から放たれる光線が、見事に部屋をうろつく死神に当たり、無事やる気は僕の元へドーン!と帰ってきたのであった!やったぞ!凄いぞ!
・・・。
ふと我に帰り、冷房の温度を一度上げた。お茶をひとくち口に運んだ右手はまた花を描き始める。King GnuのMVが流れ始めたパソコンの画面が明滅する。
一先ず仕事を進めよう。次の死神が来るまでは。