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祖母の短編①
祖母の詩篇
祖母が書いた短いエッセイ。
子供の頃、自分も手負いの雀の雛を拾って一時だけ世話をしていたのを思い出した。
或る日の出来事
まだ北風が吹きまくる寒い頃だった。近くの家の槇囲いの中にある榊の木に、営巣を始めた百舌のつがいを認めた。
「まだまだ寒いのにもう春仕度?」
と、直ぐ傍の茶園の耕作をしながら解る筈もない百舌に話し掛けたものだった。
初めの頃は、求愛のプレゼントなのか
雄燕などの鳥が子育ての時親鳥が餌を運んで来た時賑やかに鳴きたてる、あの様な時の声そっくりに羽を振るわせて餌を貰う様を
柿の木の枝や電線などで見掛けたものだったが
それから暫くその行動は見られず
時折、巣のあるあたりから出入りする雄と、雌の鳴き声が聞こえたりしていたが、雛のかえったのはいつ頃だったのか、忘れるともなく忘れていたけれど……。
今日、お昼のサイレンが鳴り止んだ頃、普段の鳴き方と違う百舌の鳴き声に気付いた。
「なんだろう。」
怪話に思って昼食に入りかけた家に内にも入らず、暫く表に佇んで居たが
何とも気掛かりな鳴き声に、若しや冬眠から覚めた蛇が雛鳥を狙って居るのかも知れない。
そう思うとそっとしては置けない。急いで榊の木の真近まで行って見た。
枝越しに見える巣のあたりにはそれらしい形跡は無い。それにあれほど騒騒しく鳴き立て居た百舌達が、ピタッと声を止め、静かだ。
おそらく私の近づいたのを感じ取っての事だろう。ならば蛇などの危険な事での騒ぎではなかったのかも知れない。
安心したらお腹が空いて来た。
其の日の午后、芽が出たばかりの唐もろこし畑の手入れをして居る時、今度は親鳥が電線に止って甲高い声で鳴き続けているのを見た。長い尾をしきりに廻しながら……
先程の事もあるので、きっと他の鳥を牽制して居るのだろう。ぐらいに思ってあまり気にせずに居た。
耕作も一段落し、道具を片付けに納屋近く迄行った時、思わず足を止めてしまった。
なんと、そこには横倒しにしてある丸太の上に百舌の雛が居るではないか。
一瞬、目を疑ったがそれはまさしく百舌の雛だったのだ。
薄茶色の羽毛はまだ軟らかな感じで僅かな風にそゝけ立っていた。
然し、しっかり見開いている眼は丸く黒く光っていた。
両の足は握る事も出来ない太い丸太の上でしっかりと踏ん張って……
雛は近付いた私に特別に驚いた風にも見えずじっと動かずに居るのだ。
と、思い付いた。先程の親鳥の鳴き方が異常だと思ったが、此の雛が巣からあまりにも遠くに来て帰れずに居るのを呼び戻しに来ていたのかも知れない。
然し、あたりを見廻して見てもそれらしい姿はもう見えない。
私が傍に来たのを見ればあの気性の激しい百舌の事だ、ましてや小鳥の中でも猛禽に属していると思われる百舌の然も子育て中の事だ、下手に手を出したら物凄い勢いで突っ掛かって来るかも知れない。
とは言うものゝ此の健では恐らく百米以上も離れた巣迄帰る事は出来ないだろう。
お昼頃、騒がしかったのは何か異変があっていわゆるパニック状態が起き、こんなまだ羽もろくろく揃ってもいない雛が少しずつ飛んで来たのだろう。
此のまま置けば必ず何かにやられてしまう。猫にでも見付かったら一コロだ、そう思うとやむなく決心した。
手袋をしたままそっと両手を近付けた。きっと逃げるだろう、と、思いきや以外にすんなり両手の内に入ってしまった。
持ち上げた瞬間、「キキーッ」百舌特有の声を挙げた、親鳥が聞きつけて攻撃されてはこっちが堪らない。
兎に角、巣の傍まで何とか届けてやらねば、と、そっと嘴を親指で押さえると静かになった。
別に暴れもしない。
漸く巣のある囲いの傍に来ても親も見えない。声もしない。
なるべく巣の近くへ手を延ばして小枝に止まれる様、そっと離すと直ぐ上の小枝に飛び移って行った。
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