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ソワレ
これは2015年5月26日の日記。
京都に住む友人Rと初めて会った日のこと。
RともSNSで知り合ってから数年経って、京都へも行きたかったし、Rとも会ってみたかったので、行ってみる事にした。
SNSでの付き合いが長くて、お互いの顔も趣味も分かっていたから、それほど此方は緊張はしなかったけれど、あの日まだRはマスクをしていて、緊張するから、と言っていた。
今はコロナでマスクが普通だけれど、当時、そういうところも可愛いなと思った。
京都駅に着いて列車から降りた時、連れ立ってる人達は居なかったのに、みんな口々に「暑…」と呟いていた。一瞬だけ心はひとつ。
もう夏みたいに熱気が凄くて、これが京都か…と思ったな。
地元は田舎で、路線なんか上か下かしかないので交通機関に弱くて、京都駅で迷いながら警備の人に画像を見せて、この出口に行きたいと訊いたらとても親切に教えてくれた。
改札口の柵を挟んでRと初対面したの、今思うと少し笑える。
Rが改札口から中へ入ってくれて、一緒に約束してた稲荷神社へ行く為の路線へ向かった。
暑いホームで暑いと言いながら列車を待って、暫くしてやってきた電車に乗り込み、伏見稲荷駅へ向かった。
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降りた駅は稲荷仕様の鳥居のようなデザインで、本当に可愛かった。
駅から他の観光客任せに歩きながら、
バンギャがライブ会場の最寄駅でバンギャの後に着いていくやつだね、ゲーセンに行っちゃう、ファミレスに着いちゃう、などと言い合いながら歩いていた。
けれどあまりのアスファルトの熱気に段々無言になる。思っていたよりは少し距離があったような記憶がある。すぐそこだと思っていたんだよね。
そしてついに伏見稲荷大社へ。
幼少時代から朱の神社がとても好きで、そんな流れでKagrraや陰陽師(本とドラマ)など和物も好きな自分にとって、やはり此処は憧れの地。
そもそも行きたいと言ったのは自分で、Rには付き合って貰った形だ。
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出迎えてくれる狐が意外と大きくて、こんな大きな狐は初めて見るなぁと思った。
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憧れの千本鳥居は壮観で、やっと体感できた朱色のトンネルに感動した。
五月を選んだのは、緑と朱の鮮やかさを期待してのものだったんだけれど、やはり一番朱の映える美しい時季だったと思う。
二手に分かれる千本鳥居までは人が多かったのに、鳥居の下へ入ると、急に音が遠くなったように静かになって、なんだかみんな声を潜めていた気がする。それが印象的だった。
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進めば進むほど人が減っていった。
街よりずっと涼しかったけれど、それでも歩けば暑くて、これは精々、食事処へ着くのが限界だね、と笑った。
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ひたすら千本鳥居のトンネルばかりというわけでもなくて、各所に小さな社があったりして、大小いろんな鳥居が乱立する様は迷路のようで、蝋燭を立てる場所はまるで彼岸の地だった。
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京くん居そうだね、と言いながら、現実味が無くて、本当に物語やMVの世界に入ってしまったようだった。
逢魔時に来たら帰ってこれなくなりそう。Rは夜に家族と来たことがあると言ってたけれど。それはそれで、きっと綺麗だろうな。
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四ツ辻の仁志むら亭を目指していたので、今どこだ? どこまで歩くんだ? と若干の不安を抱えながら登って行った。
階段の上に現れた仁志むら亭を見た時は、やっと着いた!と喜んだ。
座敷の席へ座って、昭和で時間の止まったような店内と、そこから見える山の景色のおかげで京極堂気分だった。
そしてメニューには冷やしあめが有って、これはまさか薔薇十字探偵の榎木津が飲んでいたやつでは…あまい…やつでは…と思って、狐うどんと一緒に注文した。
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Rは稲荷寿司を、自分はうどんを食べながら、会話よりも外からの風やその場の空気を楽しんでいた。
冷やしあめは本当に甘くて、生姜が効いてて美味しかった。かなり疲れていたので余計に美味しく感じたと思う。此方では売っていないので、少し羨ましい。
帰り道は来た時とは違う道を降りたけれど、やっぱり各所に鳥居の一角があって面白かった。
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ここは新緑に映える金鶏菊が鮮やかで、夏目友人帳みたいだった。
四ツ辻までで限界だったけど、頂上まで行く人は凄いな。けど、普段からそういう趣味の人にはなんでもないか。文化系バンギャにはキツかった。(体育会系バンギャもいる)
もし地元にあったら、下までなら通ってしまうだろうなと思うほど素敵な場所だった。楽しかったな。
それからRが連れて行きたいと言ってくれていたソワレへ向かうために、四条に移動した。
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入りたくなる路地裏。
八坂神社も少し立ち寄ったけれど、此方は思ったより広いところでは無かったな。
けどこの後も京都へ行くたびに見かけたので、今では地元の記憶みたいな謎の親近感が…
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ソワレは長野まゆみ好きの間では有名なので、そこをRが連れていきたい場所だと思ってくれた事が嬉しかった。
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店内はとても静かで、彫刻模様の入った木製の造りや、暗い照明が美しかった。
喫茶店とは思えないような重厚な階段を登ると、青の照明に沈んだ店内があった。
席に着いて海の底にいるみたいに静かな店内を眺めると、開襟の白いシャツのよく似合う、長野少年のような女性がひとり、窓辺で本を読んでいた。
メニューは食べたいものというよりも、響きで選んだレモンタルトと、この店の象徴的なゼリーポンチを注文した。
従業員の方は女学生風の服やすらりとした姿勢で、京極堂の絡新婦の理にでも出てきそうな佇まいだった。
タルトもゼリーポンチも、やっぱりまるで長野作品のようなメニューで、とても綺麗だった。
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長野まゆみや楠本まきの話とか、90年代世紀末のバンド話とか、偏った生き方をしてきたよね、といろんな話をした。
そして京都の言葉を使う友人が彼女だけなので、喋り方が可愛いなぁと思っていた。
ソワレはこの時以降、行けていないけれど、SNSの拡散で混雑が多くなってなかなか入れなくなったと言っていた。
あの静謐がその後どうなっているのかは分からない。今はコロナの影響で、また静かかな。
ソワレを出ると、さすがに観光や買い物が出来る体力は残ってないね、という事でカラオケへ。
京都まで来てカラオケへ行ったというと大体笑われる。それはそうだ。
けど趣味の合うバンギャとのカラオケは本当に楽しいので、行けて良かったなと思う。
海月のRの歌うPlastic Treeは本当に上手で、歌い方がとても竜太朗だった。
竜太朗の歌い方は本当に個性的で、べつに真似をしようとしていなくても、プラの曲を歌うのはすごく難しい。あのブレスの使い方や、少年の抱える切なさを語るような歌い方は、一体どうすれば出来るようになるんだろう。
日が落ちる時刻、細い川の流れる京都の街の物語のような風景や風が抜けるなか、一日が終わってしまう寂しさが湿度と混ざって漂っていた。
帰りに駅で定番の八つ橋を買った。
店員さんが何でも試食させてくれるんだけど、賞味期限が近いからとおまけで1パックくれたりして、自分は京都では兎に角いろんな人に優しくして貰っているな。
案内してくれたRにも、会った日だけじゃなく、今もずっとSNSで優しくして貰っている。いつもありがとう。
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