not well,but honest
まるで漫才の冒頭のように唐突だが、ファーストアルバムが好きだ。デビューアルバムとも言う。なぜ好きなのかと言えば、それがそのアーティストにとってデビュー時点でのベストアルバムだからだ。事情はお分かり頂けるかと思う。誰だってデビュー出来るとなれば、その時点で最高のものとを考えるはずだ。セカンドアルバムのためにこの曲は取っておこうと考えられるほど余裕のあるアーティストがそういるとは思えない。アルバムのタイトルがアーティスト名そのもののケースが結構あるのも(「名前だけでも覚えて帰って下さいね」的な意味もあるかもしれないが)、やはり「これが私(たち)だ」という矜持の表れであるような気がする。実際、ファーストアルバムにはそのアーティストの本質とも言うべき大事な曲が入っていることが多い。ビートルズ解散後のソロアルバム「マッカートニー」には「ジャンク」や「Maybe I'm Amazed」が、「フジファブリック」には「陽炎」や「サボテンレコード」、更には「赤黄色の金木犀」だって入っている。「エルトン・ジョン」には「Your Song」が、と書こうと思ったら、あれはセカンドアルバムだったんだな…。
多分、2作目は勢いだったり1作目の経験だったりで何とかなる。全部吐き出して空っぽになった3作目からが本当の勝負というところがあるような気がしていて、そうした状況はこと音楽に限ったことではないように思える。確か「3作目で飛べ」みたいな話をどこかで読んだような…と思って探してみたら、村上龍と村上春樹の対談「ウォーク・ドント・ラン」の中に、3作目を書いている村上龍がブローディガンに言われた言葉が書いてあった。「きみは、自分の運命と才能を登りつめた高い崖の上にいる。そこから先は、もう飛ばなきゃならない。落ちてもいいんだ」村上龍はすごく勇気づけられて書き続けたのだと。40年ぶりに読み返してみたら、今回はその前の言葉が気になった。同じく3作目を書くにあたってブローディガンが「うまく書くな」と。「ウェルはよくない、オネストに書け」と。ガ~ン!ごめんなさい、正直に告白します、上手く書こうとしてました(上手く書けていたかどうかはともかく)。次元の低い卑近な例で恐縮だが、私の場合一昨年の金曜noteが還暦記念のデビューベスト盤で、去年のaosagi noteは勢いで書いたセカンド、冬眠明けの3年目は全く飛べてはいないけれど、無意識の内に上手く書こうとしていた気がする。いや、単なる2年の経験の延長だったかもしれないけど、そうか、必要なのは正直に書くことだったのだ!何か、目から鱗の感。たまたま思いついて開いた古い本のページでこんな啓示に出会うとは。こういうことがあるから、読んだ本を並べておきたくなっちゃうんだよなあ。