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クレパスさん日記9日目

僕はとても大人しい子供でした。
大人しいというか何があっても無言でニコニコする事しかできませでした。
「無言でニコニコしてるやつ」として幼少期は過ごしました。

幼稚園の頃にはポケモンのヒノアラシというキャラクターのキーホルダーの炎の部分で殴られたり(メリケンサック過ぎて痛い)とか耳に箸を突っ込まれて流血して病院行ったりしてました。
それでも無言でニコニコしてました。

ヒノアラシのキーホルダー
火部分が凶器

小学校に上がっても無言でニコニコしてました。
でも友達は少しできました。
友達100人できるかな。

そして小学生2年生ともなるとグループが確立され始めるんですが、そこで大きく乗り遅れ孤立してしまいました。

同じく孤立していた末久くんがいたので仲良くなろうと話しかけてもなかなか会話が弾まない。
(気まずい…どうしよう……。ニコニコ…)

そんなまま2年生も終わりに近付いた所でマラソン大会が始まります。
そこでも末久くんと一緒にいました。
2人とも無言です。
気まずい。

小学校低学年ってもっと皆和気あいあいとしてるもんじゃないのかね。
この孤立の仕方をするにはまだ早すぎる。

そしてマラソン大会が終わりクラスでぐったり。
参加賞としてジュースが配られました。

末久くんに話しかけます。
「寒かったけどジュース貰えてよかったね。末久くんは何のジュースにしっ……!!!!」

お腹に鈍痛が走りました。
気付いたら倒れてました。

すると目の前には怒りに震えて鼻をフンフンさせている末久くんが立っていました。
その後、末久くんはどこかに消えて行きました。

(なんで…?……ニコニコ)

そんな事もあり教室はザワザワしていましたが幸い僕が無言でニコニコしていたので何事もなく、その瞬間の出来事は無かった事として過ぎ去っていきました。

末久くんとは話すことが無くなりました。

今なら分かるんですが恐らく同族嫌悪です。

そして僕は3年生。
この頃から6年生にお金をせびられるようになりました。
井上と原。
標的は僕と同じクラスの栗林くん。

栗林くんは入学初日から話してくれてた人。
グループとか関係なしに話しかけてくれたりした良い人。
今でも年に1回ぐらい会ったりしてます。

そんな2人が標的となりました。
朝に登校する時、よく学校の前で会ってたので一緒に教室まで行ってたのですが。校舎近くで6年生はいつも待っていました。

でもそれは最小限の被害で終わりました。
ニコニコ

この話はいつか改めて書きます。

ただ、そこから井上と原が怖くて怖くてしょうがありませんでした。
小学3年生からみた6年生は高校生です。

なので僕は「井上・原 卒業カウントダウンカレンダー」を作りました。

あと1年、井上と原が学校を卒業するまでの日をカウントダウンするカレンダーです。
日めくりカレンダーで作ってしまったので、ハリーポッターの小説ぐらい分厚いカレンダーになりました。
それでも僕はそんな事どうでも良くて、カレンダーをめくるのが嬉しくて楽しくてしょうがありませんでした。

「1年ガマンすれば良いだけだ」
とニコニコしていました。

嬉しくて楽し過ぎたからか、当時の感覚としては凄く早く日めくりカレンダーは減っていきあっという間に悪魔は去っていきました。
ニコニコ。

そして僕は小学4年生にあがりました。

悪魔が去ったとはいえ、僕は未だに無言でニコニコしていました。
髪も長く、目が隠れるほどの前髪で横髪は口に咥えることができる程でした。

ある図工の時間です。
この日は雨が降っていました。
中庭では改修工事が行われていて1日中トントンカンカンうるさかったです。

黒板には晴れの日に撮った校舎の写真が貼ってあり、皆でそれを見ながらクレパスを使い校舎の絵を描いています。

僕は屋根の色を塗っていました。
その時に屋根の端っこは紫色の方が良いなと思ったので紫色のクレパスを探しました。

赤青黄色などのシンプルな色ではない紫色は何かレアな色に感じます。
レアということは小学生には人気です。

紫色のクレパスは既に誰かが使っていて残っていませんでした。

何故かこのとき僕は普段通り無言でニコニコできずパニックになってしまい

「紫のクレパスがない!!!!!!!!」

と叫んでしまいました。

…静まり返るクラス。

普段静かなやつが急に叫ぶので当たり前です。

静寂を断ち切るように先生が一言

「クレパスさんに謝りなさい!!!!!!!」

違う意味で静まり返るクラス。

………どういうこと?

全員同じ事を思ったと思います。

続けて先生は
「視聴覚室に来なさい。」

僕は真っ暗な視聴覚室に連れていかれました。

「クレパスさんが許してくれるまで謝りなさい。」

そう言葉を残すと先生は部屋を出ていきました。

一連の流れが理解出来てない、しかも急に登場した「クレパスさん」という存在があまりにも不明で謎の恐怖に襲われた僕は号泣してしまいました。

しばらく泣いていると先生が入ってきました。
この時クレパスさんが入ってきたのかと思い心臓が止まりかけました。

そして先生は僕に聞きます。
「クレパスさんは許してくれましたか?」

僕は早く真っ暗の視聴覚室から出たい一心で
「はい。」

僕は明るい教室に戻れました。

すると丁度チャイムが鳴り授業は終わりました。

先生が教室を後にした瞬間です。

静寂に包まれていた時とは一変。
教室が揺れるほどの盛り上がりを見せました。

「さっきのは何?」
「クレパスさんって誰?」
「紫色の絵の具そんなに欲しかったの?」
「先生に何って言われたの?」

答えきれない量の質問、小学校入学から今までを取り返すほどの量の言葉を話しました。

この出来事に尾びれ背びれが付き、
僕は「無言でニコニコしてるやつ」から「クレパスさんに勝ったやつ」になりました。

結局「クレパスさん」の意味は分かりませんでしたが僕には充分すぎるほどの地位と名声が与えられました。

そこから僕が中心のグループができたりました。
そこには栗林くんもいました。
もちろん末久くんも。

小学5年生になってもこの勢いは継続。
すっかり「クラスの明るいやつ」になりました。

そして担任の先生が道徳の時間は毎回フリートークを披露するというお笑いハードパンチャーだったのでそれに憧れ、芸人を目指します。

沢山お笑い番組をみて漫才を見て。
中学生にあがったときには文化祭で3年連続で大喜利をしました。

3年連続でスベり倒して芸人は諦めました。
そう簡単に上手くはいかない。

そして今僕は音楽をしていて「大声でニコニコしてるやつ」になりました。

無言でニコニコしてる僕が今の僕をみたら喜んでくれるだろうか。

僕は僕みたいな「無言でニコニコしてるやつ」に大きい声で堂々と笑って欲しい。

それは音楽を通じてでも何でも。

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