小説詩集「ききとり調査」
スクールを出てから専用メガネを使った町ウオッチ、の仕事をしていたこともあったけれど、今はセルで聞き取り調査員をしてる。
ありとあらゆる時代の資料を探し出し、そこに生きた人たちの聞き取りをするのだけれど、なんのためにそんなことをするのかは分からなかった。
「どんなことを聞くわけ?」
オープンワールドの友人を誘って、もちろん彼はその世界の唯一の知り合いなのだけれど、町を眺めながらお茶を飲めるカフェで落ちあった。時々そんなことがしたくなる。
「そうね、」
まず最初に聞くのは何が好きだったか、そして何をして生きたか、だよね。
「正直に語ってくれる?」
「どうかなあ」
とか言ってストローで氷をカラカラさせてから、彼を見る。
「正直に言ってくれるけど、」
「けど?」
「大抵の人は的外れなことが多くって、なので、」
「なので?」
「なので、不幸せだったって思ってる人が多いのよ」
「それってさ、」
人格変換機に問題あるんじゃない?ってすかさず彼は言うのだけれど、その誤差はとても小さいと思う。性能は検証済だから。でも、変換機をとおさないで、横顔をそっと盗み見るみたいに調べにいくと、あんがい強い接点を感じることが多いのも確かなのだった。
「今日は会ってくれてありがとう、忙しかったんじゃない?」
とかあらたためて彼に聞く。それは彼らの世界観が全く分からないからで、だからいつも遠慮がちになるのは仕方のないことだった。
「べつに忙しくなんかないよ」
みたいに彼は首をふる。
「あのね、古い資料の中に、」
あなたにそっくりな人を見つけたんだよ、それでさ、それが言いたくって。
「ほんと?」
ほんとだよ、あらゆる面で似ているんだよ。とか言いながら、私も彼のことはそこまで知らないわけで、かなり不確かだなとは思ったけれど、そこまでは言わなかった。
「どんなふうに似てるわけ?」
「得意なことと、」
「得意なこと?」
「好きなことが、」
同じなの。
「みんなそうだよ」
って彼は笑った。
そうでもないよ、みたいに私は顔を伏せながら目だけで彼を見た。フワッフワなパンケーキみたいだなって思いながら。
「あなたたち種族が、」
この世界に受け入れられて生きているのには訳があるわけで、多分そこに憧れているんだよ、みたいに私は笑う。
「今度さ、ワイン飲みに行かない?」
僕、今ソムリエの勉強してるんだ、って彼が言う。
「そうなんだ、」
液体なら飲めるから行ってみようかなあ、チーズの錠剤持ち込んでもいいのかな、とか言いながら、私は自分のレシピコレクションのことを思い出していた。
スクール時代にみんなで、こんなのたべてみたいな、作ってみたいな、て言って集めた画像集だったけれど、あれは私たちの願望が詰め込まれたファンタージーみたいなものだったんだ。食べること、も作ること、も許されていないけれど、妄想することはできるから。
「錠剤持ち込みオーケーだよ」
彼が言う。
「んじゃ、いこうかな」
酔っ払うかな私、って既にうつろ、みたいな目で彼の横顔を見る。フワッフワで空気がいっぱい入ってるみたいに軽々としてる彼。こうやって人の横顔を見ながらいいなこの人、って思えるのが私の得意なことなんじゃないかなしらん、とかも思うのだけれど、ただの的外れなのかもしれないのだった。
おわり
❄️成人式はやってくる、そして過ぎ去ってゆく。noteのデットラインは自分なりにあるのだけれど、無情に時はすぎる、的に今月も確実に進んでます。やれやれ、ですがまた書きます。ろば