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短編小説「パパの恋人と赤い屋根の家」4/6

◇短編小説をこま切れに?して…これがその4回目です。短編を分ける?伝わるかしら?でもそれが青島ろばの純文気分です。その短編を「異界の標本」としてまとめていきます。

「あなた、いつも窓の外を見てぶつぶつ言ってるわね」
パパの恋人が不意に私達の思考を遮ったようだ。
止まっていた時間が流れ始める。
傍らを見ると、いるはずの弟の姿が消えていて私はあわてた。
「あなたって、いつもそんな風に考えごとをしているけれど悩んでばかりいたってしかたないわよ」
私はあたりをキョロキョロしたけれど弟を見つけることが出来ない。
「聞いてる?」
「ええ」
まさか、と思って眼下のマンションに目をやった。
すると窓の一つが妙に浮き上がって迫ってくる。そんなことあるはずない、と自分でも気恥ずかしくなってきて笑いそうになった。でも実際いよいよ大きく見えはじめていたのだ。
「あなたの弟のことだっけ、それはあなたのパパが考えることじゃない?あなたはあなた自身のことをもっと考えるべきよ」
迫ってきた窓の窓枠に、一人の人型が見えてきて私はギョッとした。それでますます目を凝らした。
「人間って成長する生き物でしょ。私があなたぐらいの頃は、もっと自分を持っていたと思うの」
人型はどうやら弟のようだ。数日前に心機一転、髪をさっぱりと短くしていたのだけれど、なぜか散髪する前のボサボサ髪のままだ。
そして、しきりにこちらを見ている様子だ。
「しっかりすることね。甘えてばかりはいられないじゃない。まあ、あなたと私はそれほど年がはなれていないから言われたくはないと思うけど」
弟はもしかしたら、もう一度やり直したくって、あんなところからこちらを見ているのかしら。窓はパワーを増したようにますます私に迫ってくる。それでさらに目を凝らした。
奥に別の誰かが見えてくる。パパだ。パパが眩しそうにこちらを眺めている。
「母親をなくした子供でも料理のできる人はいっぱいいるわ。あなたにだってできる。やる気さえあればね」
そうか、台所を占領しないように遠慮して、リクエストを聞かれて困ってしまって「なんでも」、なんて答えて、なじみのない香辛料を飲み下したりして、私がバカだったんだ。
パパの後ろにさらに人影が見える。私は身をのり出した。
ママだ。若いママが未来を夢見て眺めているんだ。だから、「わたしも」と念じた。
するとグワンと気圧が音をたてた。同時に次元を超える扉が大きくゆがんだまま開いて、私は異なる空間へと滑りこみ流され始めていたのだった。

次につづきます。

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