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ミャンマーのドクターX

20代の頃からあいのりが好きだ。現在私の周りの同世代で観ている人はほぼおらず、話し相手がいない。から、録画して夫に観せて話し相手になってもらおうと試みるが「俺違う番組みてぇ」とマジで嫌がられたりしている。。。



「人生の中で増やせないものは時間だけ。人生はあっというま。後悔しないためには行動し続けること。これしかない。自分の心の声に従って。本質的な失敗とは行動しないことだ。」



「一流のアスリートがバッターボックスに入る。ホームランかヒットか三振か。ここに興味はない。最高のスウィングができたかどうか、それが人生を豊かにできたかということ。」



「僕は僕の人生を豊かにするためにやっている。」


あいのりでメンバーが訪れたミャンマー。医療が整っていないこの場所で、30歳から無償で医療を提供している52歳の吉岡秀人先生の言葉だ。5~6日間で120件以上、年間2000人以上の子ども達を手術している。

今回手術をする5~6日間は食事もろくに取らず、睡眠は1日3時間。神経が研ぎ澄まされるという。

番組内では上記の話をメンバーとした後、自分の次々始まる手術にメンバーを立ち会わせる。いや手伝わせる。

メンバーは懐中電灯を持って手術をする先生の指もとを照らしたり、点滴の袋を持っていたりする。


番組を見終わると、言葉にならない感情がムクムク押し寄せる。

なんだ、なんだ、なんだこれは。


「この先生の言葉の力が強すぎて、僕たち、あてられたんだよね」とこの旅の参加者のシャイボーイさんがのご自身のラジオ番組で後日話されていた。



あてられた



そうまさに。その表現がしっくりくる。参加者メンバー、スタジオメンバーの情動が動いているのが画面越しでも解る。実際あいのりもここからかなり展開していく。

ご多分に漏れず、あてられた私はまず先生の本を読むことにした。



飛べない鳥たちへ~無償無休の国際ボランティア「ジャパンハート」の挑戦~吉岡秀人著 風媒社


打たれた言葉に付箋をしていったら付箋だらけになってしまった一冊。

権威やお金を求めることはなく、

患者からもらう感謝や他者評価に自分の価値を見いだす必要もなく、

目の前の命と共にある「心」や「人生」を救う医療をし、

医療に自分のすべてをかけ、

それは自分の人生を豊かにするためと言いきる

ミャンマーのドクターX がいた。


日常茶飯事に停電がおきる中での手術。手術の手元を照らす明かりは人が持つ懐中電灯。使用できる水は若干茶色みがかかった川の水。それで手や器具を洗う。既存の滅菌器は感染元になったため煮沸で消毒。新に滅菌器を買うも電気の変圧が激しく何度も故障。修理に出しても1年かかることもある。

手術の中では電気が回復するまで総がかりで出血中の患部を手で押さえて止血しながら待つこともあるという。



腹がパンパンに膨れ上がった子、大火傷の子、火傷のまま放置され手と手首、腕と胴体、首と肩がくっついた人、人違いでさされ全身に何ヵ所の穴が開き膿が吹き出す男性、平和ボケした私の想像を絶する患者がやってくる。本の中で〈現地ルポ〉としてジャーナリスト関口威人氏が書いたエピソードが掲載されている。

「ある日、この診療所に来ると「ヤシの木から落ちた」という男性が運び込まれた。体を打っただけではない。持っていたカマで、片手の手首がすっぱりと切れていた。意識はあったが、切り口からは鮮血がどっと吹き出している。吉岡医師は何とか止血の手当てを始めた。すると突然、男性が口からぐわっと大量の血へどを吐いた。まずは体に酸素を送り込まなければ危ない。むろん、酸素マスクなどあろうはずはない。この、出自の分からぬ血まみれの男性に、人工呼吸ができるかー。/引用飛べない鳥たちへ」


自分の行為を同意してくれる人も否定する人もいない、自分次第の状況。毎日が究極の選択。

このような自分の心が逡巡する膨大な場面の中で目の前の命とその人の人生と対峙してきた先生の本に書かれた言葉は、だからこそ今までに見たことのないような色の光を放っている。



医療行為自体の過酷さだけではない。

現地のさまざな困難を歩んできた先生は、たどり着いた断崖から見える景色を教えてくれる。そして生まれてきたからには1度はこの景色を見ろと言う。

そして本の至るところにはその景色を見に行くための道しるべが清々しく置かれている。

「形のないものの価値を認識すること。それを体験する事が人生の豊かさに通じている。」

「他人の苦しみを見るだけでは知識になっても知恵にはならない。体験こそ、すべての生みの親である。」

「(略)私はあることに気づいてしまったのです。それは、人生の豊かさとは、その人が経験した苦しみ悲しみと、喜び幸せの落差のことなのだということです。」

「人は未踏の山を登ろうとするとき、何に一番時間をかけるだろう。スケジュールを立てる、道具を選ぶ・・・・・。そうではない。登ろうと決心するまでの時間が、圧倒的に長いのである。」

「人間は今持っている能力で勝負出来なければ、いつになっても勝負はできないものなのである。」
引用飛べない鳥たちへ

ページを閉じ自分の頭の中にある今やりたいことを確認する。
決めた道に立ち往生した時、またこの本を開こうと思う。

※この本は2009年に発売されたものだが、10年弱経つ今でもTVの手術室の映像は懐中電灯を手術を照らす明かりに使うなど大きく医療環境は変わっていないように思えた。
先生の言葉は、この先何年経っても色あせないものばかりだ。

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捕捉

2008年にミャンマーを襲ったサイクロンのこと。死者が発表の3倍、15万人になるのではと言われているということ。

「ミャンマー」とは現実の軍事政権が対外的に使っていて昔はビルマと呼ばれていたということ。

イギリス占領下だったその土地を、日本は独立を求めるビルマの青年達と手を組んで戦う。その青年の一人が現在民主化闘争を指導するアウンサンスーチーの父親であるということ。

1度は全土を日本が占領するが、連合軍の攻撃により再びイギリス領に。3年でビルマの地に19万人もの日本人の命がちり、ビルマ人も大勢亡くなったこと。

本にはミャンマーの国の説明が書かれていた。知らないことばかりだった。。。

小さい頃読んでもらった「おーい、ミズシマ、日本に帰ろう」で始まるビルマの竪琴という本を思い出した。