(小説)おおかみ少女・マザー編(四・十)
(四・十)地球の化身
マザーとのコンタクト、テレパシーによるやり取りが終わっても、ラヴ子は興奮で寝付けなかった。
わたしに双児の姉妹がいたなんて!しかも神戸に……。会いたい、会いたい、一度でいいから、会ってみたい。そうだ。火星に行く前に、絶対一度は会っとかなきゃ!あれっ、でもマザーも行くんだよね、火星?だってわたしと同じ、旧人類な訳だし。マザーはいつ行くんだろ、火星?あっ、それでわたしと連絡取りたくて、急にコンタクトして来たのかも……。
でも、コンタクトって!マザーって何でテレパシーとか使える訳?ってわたしもじゃん!何でわたし、マザーとテレパシーで、コンタクト出来ちゃった訳?何で?
今でも信じられない、夢見心地のラヴ子である。
もしかして、マザーもわたしもエスパー?やばい、また興奮して来ちゃった。こんなんじゃわたし、今夜はとても眠れそうにない……。
一方、マザーである。
実はラヴ子とのやり取りを終えた後、早速マザーは横浜への瞬間移動を試みてみたのである。ラヴ子から得た情報を基に、ミナトミライの大観覧車とランドマークタワー、そしてパシフィコホテルをイメージして……。
すると忽然として真夜中のミナトミライの街角に、マザーは姿を現した。見事、狼山から横浜への瞬間移動の成功である。場所はランドマークタワーの麓、日本丸メモリアルパークの前であった。
これでラヴ子に会おうと思えば、いつでも瞬間移動によって会えるであろう。そう確信したマザーは、大いに満足した。が、ブルブルブルッ……。
港横浜の夜更けの寒さに、マザーは身震いを覚えずにはいられなかった。ヒュルヒュルヒュルーーッと冷たい潮風が、マザーの頬を荒々しく叩いてゆく。
「へーくしゅん」
マザーの大きなクシャミが、人影のない街角に響き渡った。
「ふーっ、寒い」
その一言を捨て台詞に、さっさとマザーは狼山へと引き上げていった。
翌日ラヴ子は朝から日暮れまでずっと、マザーからのコンタクトを待った。しかしマザーからの連絡は皆無。夜が訪れ、とうとう待ち切れなくなったラヴ子は、自らマザーへと呼び掛けたのである。
「こちらは、ラヴ子。マザー、応答願います」
すると直ぐにマザーからの返事が。
「おう、ラヴ子よ。待っていたぞ」
えっ?待ってる位なら、自分の方から呼び掛けて来りゃいいのに……。不満そうなラヴ子に、マザーは続けた。
「済まない、済まない。ラヴ子も何かと忙しいだろうと思い、待っていたのだ」
ありゃりゃ、気を遣ってくれた訳ね。でも確かに、その方が良いかも!もしお母さんとか義夫といる時に、行き成り呼び掛けられても困っちゃうしね。電話の着信とは、訳が違うんだから……。
「ありがとう、マザー」
それからラヴ子は、直ぐに質問をぶつけた。
「ところでマザーはいつ、火星に行くの?」
しかし例によって、マザーの反応は珍紛漢紛。
「火星?何だ、それは。わたしは、そんな所へは行かんぞ」
行かんぞ、って。またそんな無慈悲なお答えになっちゃう訳ね、マザーお姉様……。ラヴ子はがっくり。
「でもマザーだって、旧人類でしょ?ラヴ子とおんなじで」
しかしこれまた同様に、珍紛漢紛であった……。
「旧人類だと?悪いがわたしは、そんなものではないぞ。ラヴ子よ!さっきからよく分からんが、まっこと人間界とは面倒なものであるなあ……」
あらら。お互いに呆れ合うふたり。はあ?よく分からんが、って。それに、まっこと人間界!と来たよ。また人間界……。ラヴ子も唖然。
ついつい苛々するラヴ子に対して、しかしマザーは相変わらずのマイペースである。
「そもそもラヴ子よ。おまえとわたしは、人間ではない」
はあ?
多少マザーに慣れて来たとは言え、流石のラヴ子もこれには唖然茫然である。行き成り何言うかと思えば、人間じゃないって?じゃ何なのよ、わたしたち?化け物、それとも宇宙人?
「ねえ、マザー。ラヴ子、全然話に付いていけてないんだけど……」
「あゝ?済まん、済まん、確かに俄には信じ難ぎ事かも知れんな。ラヴ子が驚くのも、当然と言えば当然。良し、では良く聴けラヴ子よ」
「うん。OKよ」
身構えるラヴ子に、マザーが語り出す。
「わたしたちはな、姿形は確かに人間。なれど正体は……」
「正体は?」
ごくん。生唾を飲み込むラヴ子。どきどき、どきどき……と、心臓の鼓動も高鳴らずにはいられない。さてマザーの答えや、如何に?
「我等ふたりは、この母なる地球、この星の、化身なのだ」
おお、出たよ出たよ!とうとう地球の化身にされちゃったよ、ラヴ子。全く悪い御冗談でしょ、マザー姉さん?
これにはちょっと驚きと言うより、呆れ気味、引き気味のラヴ子であった。
おいおい!マザーってまじで、頭大丈夫かあ?