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読み切り短編小説-「令和番、金の斧銀の斧」

 こんばんわ。今日はいかがお過ごしでしたか?
外の月は明るいです。
ごゆるりとお過ごし下さいませ。

読み切り短編小説-「令和番、金の斧銀の斧」

 ある町のはずれの丘の上に、大きな木が一本立っていた。幹は太くて緑の葉が茂っている。葉はいつもそよそよとしている。町のみんなを見守っている。
 この木には神様がいて不思議な力が宿っているという。何か一つ、願い事を叶えてくれるそうだ。ただ、それとは引き換えに何かを失うことになるらしい。大人は失うことが怖ろしく、大抵の人は本気で願い事をしに行かない。たまに不埒な人間が願い事を言いに行くらしいが、天国から地獄に突き落とされる事になるらしい。

 健太はどうしてもお願いしたい事があった。
 健太は小学四年生。家に帰るといつもパパとママは不機嫌で、喧嘩をしている。健太が小学校に入学する頃まではとても仲が良かった。喧嘩の理由は健太にはわからない。パパとママと健太と、仲の良かったあの頃に戻りたい。健太はパパもママも好きだ。もし、離婚になんかになって、どちらかを選ぶことになったりしたら、自分はどちらも選べない。

今日こそ、丘の上の木の神様にお願いしに行こう。

 健太が丘の上に着いたのは、お空が夕焼けで真っ赤になっていた頃だった。

「木の神様。お願いがあります。」太い幹に手を当てた。
そよそよそよ、、、
「パパとママ、仲直りしてほしいんです。仲良くしてほしいんです。」
そよそよそよ、、、
その時、太い幹の奥底から、太くて低い声がした。
「いいのかい?引き換えにお前の命、短くなるぞ。」
「、、、はい。いいです。そんなことより、仲良く暮らしたいです。」
「よし。わかった。叶うかどうかわからないが。」
「えっ、叶わないなんてこと、あるんですか?」
健太はがっかりした顔になった。
「夜を楽しみにしておけ」
そよそよそよ、、、
それが最後の声だった。声をかけても、もう、返事はなかった。

 健太は家路についた。

 健太のママがキッチンに立った頃、携帯がブルッと震え画面が突然明るくなって動画が流れてきた。
「えっ。健太!?」
 健太のパパは家に真っ直ぐ帰りたくなくて、コンビニに寄った所だった。同じように携帯がブルッと震えるのと同時に画面が明るくなり、動画が流れた。慌てて、コンビニを出た。
「健太!」

パパは慌てて家に向かった。
ママは急いで玄関に向かった。
健太は足取り重く玄関に向かっていた。
「健太!!」
パパとママの声が同時にした。
「パパ!ママ!どうしたの?」
「健太!木の神様の所に行ったの!?」
「うん。なんで知ってるの?」
「なんで、こんなこと、、、」
「僕なら大丈夫。」
「健太。」
パパとママはおいおい泣いて、健太を抱きしめてくれた。

 木の神様のおかげで、パパとママは仲良くなったらしい。優しくなった。

 木の神様にお礼を言いに行こう。
「木の神様。パパとママは仲良くなりました。ありがとうございました。」
太い木の幹に手を当てた。
そよそよそよ、、、
木の神様の太くて低い声がした。
「どちらに転ぶか私にもわからなかったから、良かった。良かった。フハハ。」
木の神様が太い声で笑った。
(なんか分かんないけど、少しいい加減な神様だな。)
って、健太は思った。
「お前の心の声は聞こえてるぞ。いいんだ。それで。沢山笑って暮らすんだぞ。笑って暮らすと長生きするからな。安心しろ。」
そよそよそよ、、、
もう、木の神様の声は聞こえなかった。

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