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一瞬で読める滑稽なお話②店長と蜂

 ここは町の道具やさんだ。現場作業を支える商品が置いてある。五十七歳の男性店主。四十代のパートの女性が二人だ。店主は店長と呼ばれている。

 ある日、店長はいつものように、レジ奥の事務所のイスに座ってぼんやりしていた。
レジにはパートの女性二人が立っていた。一人の客が、
「蜂、蜂が飛んでるで。危ないで。」
っと、言ってきた。
「まぁ!ホントですね!危ないこと!教えて下さってありがとうございます!」
一人の女性が店長に声をかけた。
「店長〜。蜂が飛んでますー。」
「うっ!?そぉか。」
っと言って立ち上がり、レジと事務所を仕切れるカーテンをサーッと閉めて、奥に引っ込んだままだった。
「えっ!?」
パートの女性二人は顔を見合わした。

(いやいやいや。あんた、男だろ?いや、そんなことが言いたいんじゃない。今時男だの、女だの、関係ない。そんなこと、わかってる。そんなこと言ってるんじゃない。男だって誰だって苦手なものはある。でも、蜂だよ!?蜂は私らも苦手だ。蜂が得意な人なんか、そういないだろ。問題はそうじゃない。お客様や、従業員の私らのことはどうでもいいのか!?)
一気に二人の脳裏には同じ言葉が浮かんだ。

 でも、蜂は待ってはくれない。蜂退治の薬もここには無い。あるのは二種類のホウキがあるだけだ。
 一人が長い柄のホウキで追いかけ、一人が短いホウキで蜂が下がって来たところを叩き落とす。長い柄のホウキの先に瀕死の蜂をくっつけて、急いで外に持って出る。

「はぁ~。やれやれ。」

「店長〜。もう、蜂は大丈夫です〜。」
「そぅか。」

 店長は又立ち上がり、カーテンを開ける。

 サァー。

そして、又、イスに座る。





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