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読み切り短編小説-「遺品整理」

      (1002文字)

母が亡くなった。

母の遺品整理に通って三日目。

古くて、がたがきた一軒家。
伸び放題の草で見えない土の庭。鍵がかからなくなり、中から木でつっかえしてある玄関。電気の球が切れた廊下。雨漏りの名残りのある腐りかけた天井。黄ばんだ襖。壊れた湯沸かし器。何もかもが嫌だった私の実家。


母は夫に先立たれ、長男である私の弟は結婚をして県外に家を建て、私は隣町の長男の家に嫁ぎ、一人でずっと、守る意識もなくこの小さな家に只、、、居た。暗いこの部屋で黙々と内職をしていた母。


私は全ての窓を開け、何も感じないよう無心で、ゴミ袋に入れていく。全ての物を種類別に分けていく。一人でせっせと荷造りをして片付けていく。


部屋が少し広くなり、擦り切れた畳の上で大の字になり、目を瞑る。


父の笑顔。母のお味噌汁の匂い。弟と取っ組み合いのケンカをしている私。明るい日向の季節も確かにあった。


母の晩年、身体が思うように動かなくなり、否応でも薄汚れていってしまった暗い部屋。っと思っていたのは私だけだったかもしれない。私がたまに草引きに行っても、草の伸びるスピードには間に合わない。取り替えた球は順番に切れていく。黄ばんだ襖は長年の積み重ね。父親がタバコを吸っていた想い出。壊れた湯沸かし器は、もう使わないからそのままでいいよ。っと。母は最後まで母で、子供への思いと、家族との想い出を、確かに噛み締めて生きていた。家人の居なくなった家は、一瞬で、薄ら暗く寂しく錆びれさせてしまうが、ほんの数日前までは、きっと色付いた日々だったはずだ。例え黄ばんだ襖があろうとも。


私も数十年もすれば、母と同じ立ち場になる。私の娘も同じような思いで、遺品整理をするのだろうか。


遺品整理をしながら私は、母から私へ、私から娘へ、繋がりに、思いを馳せる。私の目の前から消えゆく物も、あの時のあの品物の物語が心の奥底に眠ることになる。物理的には最終、炭になったり気体になったり形が変わるだけだろう。目に映らないだけ。
「世の中に片付くなんてものは、ほとんどないのだ。」
心の奥底に留めておき、次に進むだけ。時折、ふと立ち止まり、覗き込み、取り出し、苦さ、辛さ、甘さ、悲しさ、等等、味わうことになるだろう。

終わり

山根あきら様の企画に参加させて頂きました。
よろしくお願いします。

https://note.com/piccolotakamura/n/ncccae1f019ac

#青ブラ文学部



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