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読み切り短編小説「青の一ページ」
私は今年、中学三年生になる。中学校生活最後のクラスは特別だ。卒業式の日、先生を囲んでみんなで泣くであろう、感動と感傷を分かち合いたいクラスメート。大好きな友くんと同じクラスになれるか、友達と同じクラスになれるか。
初登校の日はクラス替えの発表の日。教室に入る前に、ドキドキしながら掲示板に張ってある紙を見ていた私に、遠くから薫が、嬉しそうな顔をしながら駆け寄ってくると同時に、緑子がそれに気付かず、声をかけてきた。
「美香ちゃん、薫と同じクラスだね。嫌でしょ。」
えっ?何言うの?
友達の少ない私にとって、薫は貴重な友達だ。でもたまに強引な薫に気がひけたりもする。他の友達といたいなって思う時もたまにある。私の心が透けて見えた気がして動揺した。私はびっくりしすぎて、すぐ返事が出来なかった。すぐに否定をするべきだったのに。
薫が
「やったー。美香、同じクラスになったね。」
って、駆け寄ってきてくれたのが手に取るようにわかっていたのに。
緑子の後ろに見える薫と目が合っていた。緑子は言うだけ言って、さっさと遠くに行ってしまった。
薫に
「違うよ。」
っと、言ってみたけれど、後出しジャンケンのようで薫の心には届かない。
「別にいいよ。」
薫の寂しそうな顔を見てしまった。薫を傷つけてしまった。友達とくっついたり、離れたり、そんな年頃の私達。去っていった薫のことを、もうそれ以上私は考えないことにした。
一学期が始まり、まもなく修学旅行という頃。五、六人が廊下でキャーキャー言っている。聞くともなく側にいると、
「あきちゃんの髪の毛がさぁ〜、お守りに入ってるんだって。」
「いゃだ〜。キモいよ〜。」
等といい加減な話しで盛り上がっている。そこに薫がやってきて、
「やめなよ。それっていじめだよ!」
っと一喝したものだから、その話しはそれ以上、大きくはならなかった。さすが薫だなっと思うと同時に、何も言えない自分を恥じた。
たまに薫と目が合うが、相変わらず、話しもしない。
体育祭の練習が始まる秋、
私の通う中学校は校舎が古く、教室の床にワックスをかける。
休み時間、少し離れた席で、友達の輪の中で薫が喋っている声が聞こえる。
「こういう日はちょっとすました子に、滑って転んでほしいよね〜。」
珍しく薫が意地悪な事を言っている。
次の休み時間。薫の取り巻きにいた緑子が私の側にやってきた。
「薫がさぁ〜、美香ちゃんに滑って転んでほしいんだって。気をつけた方がいいよ。」
緑子は私の返事を待たず、薫のもとに帰って行った。
「きゃ〜!!いゃだ〜。」
薫の叫び声。どうやら薫は滑って転んだらしい。スカートがめくりあがり、太ももが露わになっている。周りにいた友達も、ゲラゲラ笑っている。
私は、居心地が悪くなって、用心深く、でも素知らぬ顔をしてその場を通り過ぎることにした。その時、緑子の愉快そうな、困ったような目と目が合った。
次の休み時間は体育祭の練習が始まるので、急いで着替えないといけない。
たまたま薫と二人っきりになってしまった。
「さっきはマジ、やらかしたわ〜。悪いこと言うもんじゃないね〜。」
久しぶりに薫が話しかけてきた。
「、、、。」
私は何も言えず黙っていた。
「緑子が転べば良かったんだけどね〜。」
「えっ!?そうなの?」
「緑子、あいつ、腹立つんだよな〜。ムカつく。うざくない?」
「、、、うん。ムカつく。うざい。」
ふふふっ。
あはは。
「ヤっバ。もうすぐ練習始まるよ。行こ。」
「うん。行こ。」
青空の下、私達は、運動場に駆けていった。