魔女のハーブは、あんまり甘くない 4ー7
◯泉の底(?)
アカリ、テティスのうしろについて水の階段をおりていく。
腕の中のココは、いつもと変わらない様子。
たまに、しっぽをふっては前脚をなめている。
アカリ「すごく、やわらかい。ぜんぜん足がすべらない・・」
アカリ、水の階段を踏みしめながら言う。
テティス「ふふ、とても歩きやすいでしょう? だって、地上の水とは、まったく別物ですから」
テティス、笑いながら言う。
テティス「さあ、つきましたよ」
とつぜん水の階段がなくなり、白い大地が目の前にひろがった。
アカリ「・・・・」
ココは、アカリの腕からぴょんと白い大地にとびおり、テティスのあとをついていく。
アカリも二人のあとをついていくと、白い大地には大きな水の柱がならび、まわりには、水しぶきでできた美しい虹があった。
アカリ「ここは、いったい・・?」
テティス「ほら、あれが、妖精の宮殿ですよ」
純白の巨大な宮殿が、虹のさきに姿を見せた。
宮殿のまわりには、羽をはばたかせた小さな妖精たちが、くるくる飛んでいる。
テティス「(笑って)あの子たち、あなたたちを見て、そわそわしてるんですわ」
アカリ、ハッとする。
アカリ「洞窟に落ちていた羽は、あの子たちのもの・・」
テティス「そうね。あの子たち、成長期だから、羽がどんどん生え変わるんですよ」
テティスのまわりに、小さな妖精たちが集まる。
テティス「みんな、元気ね。あんまりはしゃぎすぎないでね。・・え、2人が?」
アカリ「・・・・?」
テティス「2人の姿が、見えないの? ・・おかしいわね。どこ、行ったのかしら?」
ココ、くんくんと、しきりに匂いをかいでいる。
アカリ「ココちゃん、どうかしたの?なんか、興奮してる?」
ココ、アカリをちらりと見ると、その場でしゃがんで動かなくなる。
アカリ「?」と首をかしげる。
ーことん。
アカリ、はっとたちどまる。
アカリ「え? いまの音は・・?」
テティス「あら、どうかしました?」
アカリ「いま聞こえた音、いえ、声は聞き覚えがあります・・」
テティス、苦笑いをする。
テティス「・・まさか、地上の声は、ここには聞こえないはずですよ」
アカリ、目をつむって耳をすます。
アカリ「セーラ・・ちゃん?」
ココ、ニャオと声をあげる。
◯庭園の中(夜)
夜空の下、ソアラとマコトが庭園の中で向き合っている。
ソアラ、ゆっくりと歩みだす。
ソアラ「・・やっぱり、マコト、くんね」
マコト「キミは・・」
ソアラ、ふっと笑う。
マコト「ソアラ・・、どうして、キミまで・・?」
ソアラ「わたしのこと、覚えててくれたのね。嬉しい」
マコト、うなづく。
夜空に、星がきらめく。
ソアラ「きっと、星の魔法の、おかげね」
ソアラ、夜空を見ていう。
マコト「・・あの、胸のペンダントかい?」
ソアラ、こくんとうなづく。
マコト「・・信じられない、こんなことが起こるなんて・・」
ソアラ「わたしも、まだ、信じられないわ。メルルだけじゃなく、あなたにまでこうして会えるなんて・・」
ソアラ、両手を胸のまえであわせる。
ソアラ「・・それで、あなたは、どうやってその姿にもどれたの?」
マコト、少し考えた顔。
マコト「・・うん、たぶん、未来のおれの子孫の子かな。はっきりとは、思い出せないけど」
ソアラ「なにそれ・・、変なの」
ソアラ、小さく笑うと、マコトに向かって口を開く。
ソアラ「・・・・て」
マコト「?」
ソアラ、小さく口を動かしている。
マコト「え、なに? よく聞こえないよ」
マコト、ソアラに近づく。
すると、ソアラ、マコトの胸にとびこむ。
マコト「(おどろいた顔)・・・・」
マコトとソアラが、どさっと花の上に倒れる。
ソアラ「・・だきしめて、って言ったの」
ソアラ、マコトの胸の中でつぶやく。
ソアラ「わたし、このチャンスをのがしたくはないの・・」
マコト「・・・・」
ソアラ「これはきっと、お星さまがくれたプレゼント・・。さっき、あなたを見た瞬間、そう思ったわ」
ソアラ、手にしたペンダントを見ながら言う。
ソアラ「・・覚えている? あの頃、わたしが、ずっと森であなたを待ってたの?」
マコト「・・うん。でも、あの頃は・・」
マコト、じっと射手座の星を見ている。
ソアラ「ええ、魔女と人が恋するのは、許されなかった・・。いつも、大人たちから見られていたもの」
マコト、だまって星を見たまま。
ソアラ「でも、今なら・・、わたしたちをしばりつけるものなんかない」
マコト「で、でも、おれ・・」
マコトの声がゆれている。
ソアラ「・・わかってるわ。あなたが本当に好きな人は、だれなのかなんて・・」
マコト「・・・・」
マコト、うつむく。
ソアラ「・・でも、いいの。こうやって、若い姿にもどれて、いっしょにいられるだけで」
ソアラ、マコトの胸に顔をうずめる。
マコト、手をのばし、ソアラの黒い髪をそっとなでる。
マコト「・・でも、おれはいつまで、この姿でいられるのか・・」
ソアラ、顔をあげて不安げな表情。
マコト「おれは、ただの人だから、キミたち魔女みたいに、ずっとこのままじゃいられないはずだよ」
射手座の弓から、流れ星の矢がはなたれた。
ソアラ「・・ほら。あの矢が、どこに行くかは、知ってる?」
流れ星がほかの星に重なると、強く光りだす。
すると、ペンダントがかがやきはじめる。
ソアラ「ああやって星が重なると、すごい力を放つの。それが、ペンダントに届くのね」
ソアラ、ペンダントを胸に強くあてる。
マコト「・・うん、その光景を思いだしてきたよ。キミたちが、光の街を創りあげていく姿。まるで夢を見ているようだったよ・・」
ソアラ「それで、わたし、思いついたの」
マコト「・・・・?」
ペンダントの光が、ソアラの全身を包みこむ。
ソアラがマコトから、からだを起こす。
マコト「・・・・!」
ソアラ「あの星みたいに、 わたしと重なることができれば、あなたは、ずっと若いままでいられるかもしれない・・」
マコト「ソアラ・・?」
ソアラ、マコトの長い髪に手をまわすと、自分の唇をマコトにちかづける。
ペンダントは、輝きつづけている。
◯庭園の外 (夜)
メルル「う・・ん」
メルル、とびらのそばの草の上で目をさますと、そばから、2つの小さな光が夜空へ飛んでいく。
メルル「あたし、眠ってたの・・?」
夜空には、たくさんの星が見たことないほどにかがやいている。
メルル「お星さまが、あんなに・・、なんで?」
メルル、はっとする。
メルル「あれ、ぺ、ペンダントが・・?」
メルル、胸のあたりをさわる。
メルル「まさか・・」
メルル、草の上から立ち上がったが、よろけてたおれそうになる。
メルル「あの花、たぶん、眠りをさそう効果が・・。でも、どうして・・」
メルル、ぐっとこらえて、足をもちあげる。
メルル「・・だめよ。あたしは、魔女なんだから・・!」
メルル、歩き出すと、とびらの中に入っていく。
2つの小さな光が、メルルのあとをおっていく。
<4ー8に、つづく>