魔女のハーブは、あんまり甘くない 3ー4
◯学校(朝)
ナナ、瓶ミルクを飲みながら、学校へつづく道をのんびり歩いている。
ナナ「あー、朝ミルクはさいこー」
ナナ、道の先に見えた学校の校舎にむかって言う。
サウィン「ナナちゃん」
うしろから声がした。
ナナ、振り向くとサウィンが立っていた。
そして、サウィンの少しうしろには、サウィンの仲間らしい少女3人がかたまって、じっとナナを見ていた。
ナナ「・・・・?」
サウィン「ちょっと、聞きたいことあるんだけど」
ナナ「・・聞きたいことって?」
サウィン、コホンとせきばらいをする。
サウィン「カミーユくんなんだけど。ナナちゃんは、幼なじみなんだよね?」
ナナ、すこし考えてから口を開ける。
ナナ「・・うん、まあ、そうなるのかな。どうして?」
サウィン、笑いながら目をつむる。
サウィン「いやね。カミーユくんって、けっこう・・、いや、かなり女子に人気があるじゃない。顔はかわいいし、やさしいし、頭もいいし・・」
うしろの3人も、うんうんと、うなづいている。
ナナ、小さく首をかしげる。
ナナ「え・・と。なにが、いいたいのかな、サウィンちゃん?」
サウィン、腕をくむ。
サウィン「だ、だからね。その・・、気にならないかな?」
ナナ「?」
ナナ、しばらく考えこんでから、わかったように顔をあげる。
ナナ「あ・・、カミーユが、女の子みたいなこと?」
うしろの3人が、くずれる。
サウィン「ちがうって・・! あー、やりづらいなあ。 ま、そういうとこは、あなたらしいけど」
ナナ「・・え?」
サウィン「まあ、いいわ。こんどのパレードは、楽しみね」
ナナ「う、うん、そうだね・・」
ナナ、瓶ミルクを一口のむ。
サウィン「おたがい、がんばろうね」
サウィンが、右手をナナにさしだす。
ナナ「・・・・そうだね。がんばろーね」
ナナも、右手を出してたがいに握手をする。
サウィン、にやりと笑うと仲間3人と学校へむけて歩いていく。
ナナ「・・・・?」
ナナ、しばらくサウィンたちの背中を見ていると、うしろからぽんと肩をたたかれた。
ナナ、あやうく瓶ミルクを落としそうになる。
振り向くと、カミーユが立っていた。
カミーユ「おはよう。どうかしたの? ぽかんとして?」
ナナ、カミーユの顔をじろじろと見る。
カミーユ、?の表情。
ナナ「幼なじみ・・ね」
カミーユ「・・え?」
ナナ「なんでもないの。これ、あげる」
ナナ、空になったミルクの瓶をカミーユにわたす。
カミーユ「・・・・?」
カミーユ、しばらく空の瓶をもったまま、その場に立ち尽くしていると学校のチャイムがなる。
カミーユ、あわてて校舎へむかって走り出す。
◯森の中(昼)
日の光が木々の間からさしこみ、地面には美しいオブジェのような模様ができていた。
ナナ、両手でメガホンをつくり、木々のてっぺんにむかって声をだす。
ナナ「おじさーん、います?」
しばらくすると、木のてっぺんから、ばさばさと翼をひろげたふくろうおじさんが、地面におりてきた。
右の翼の上には、シロフクロウが乗っている。
ふくろう「おお、ナナちゃんか」
ふくろうおじさん、黄色い目を細めて嬉しそうな声をだす。
ナナ「おじさん、あの、これ」
ナナ、チラシをふくろうおじさんにわたすと、おじさんは、くちばしでチラシをくわえる。
ふくろう「すまんね。なんせ腕がないもんだから、こうなる。・・おや、これは、街のパレードかい?」
ナナ、にこりと笑う。
ナナ「はい、ぜひ、来てほしいんです。街がいちばん盛り上がる日ですから」
ふくろう「い、いや、わしは、こんな姿だし・・」
ナナ「大丈夫ですよ。みんな仮装してるからバレませんよ」
ふくろう「そ、そうかな・・」
ふくろうおじさん、首ではなく、頭をかしげる。
ナナ「だって、ずーっと森の中でしょ? たまには、街に出たくなりませんか?」
シロフクロウが、クックと声を出す。
ふくろう「ま、まあ、わしはもともと人間だからな。・・・・そうだな、出てみるか」
ナナ「ですよね。そうこなくちゃ」
ふくろう「・・でも、本当にひさしぶりだよ、こうやって人と話すのは」
シロフクロウが、ばさばさと小さく羽を揺らす。
ふくろう「ふふ、ナナちゃんは、不思議な子だね。君を見ていると、小さい頃見ていた魔女さんたちを思い出すよ」
ナナ「魔女・・。それは、このせいかも・・」
ナナは、胸のペンダントを見せる。
ふくろう「それは・・」
ふくろうおじさん、しばらく胸のペンダントをながめる。
ふくろう「・・たしかに、魔女さんたちがしてたペンダントそっくりだ。どうして、ナナちゃんが・・?」
ナナ、小さく息をはく。
ナナ「これ、おばあちゃんからもらったんですが、なにか不思議な力があるみたいなんです」
ふくろうおじさん、ちかくのきりかぶの上にすわってすこしの間、空を見る。
ふくろう「君の一族は、もしかして・・」
ナナ「・・?」
ふくろう「そうか、なんとなくわかってきたよ。・・やはり、わしは君と会うべきだったのかもしれん」
ナナ「・・?」
シロフクロウ、ナナの肩に飛び乗ってくる。
ナナ「わ、わわ?」
ふくろう「はは、どうやら、気に入ったみたいだな」
ふくろうおじさん、きりかぶから立ちあがる。
ふくろう「ようし、なんだかワクワクしてきたな。じゃ、今のうち、体力づくりをしておくか」
おじさん、翼を大きくひろげると空へと飛んでいき、やがて見えなくなる。
ナナ「ま、まあ、やる気になってくれたみたいだし、よかった・・」
シロフクロウが、肩の上でクックと鳴く。
ナナ「あなたも・・、参加する?」
◯ミサキの店(昼)
ミサキ、ハーブティーにハチミツをくわえると、スプーンでかるくかきまぜて小さく飲む。
ミサキ「うん、これは、いけるかも・・」
ミサキ、うんうんとうなづいていると、店の扉が開く。
大きなつばの帽子をかぶった女性が入ってきた。
長く白い髪が、顔の半分をかくしている。
ミサキ「いらっしゃいませ」
女性「よろしい・・ですか?」
女性、落ちついた声をだす。
ミサキ「はい、どうぞ、こちらへ」
ミサキ、カウンターに女性を案内する。
女性、ゆっくりとイスにすわる。
女性「とても、いい香りのするお店ですね」
ミサキ、ありがとうございますと言いながら、お湯をわかす。
ミサキ「前にも、そう言ってくれた人たちがいました」
女性「(笑って)まあ、そうなんですか。その気持ち、わかりますわ」
ミサキ、ティーカップにハーブティーをそそぐ。
ミサキ「おまたせしました。よかったら、ハチミツをどうぞ」
ミサキ、ハーブティーとハチミツの容器を女性の前におく。
女性、にこりと笑い、ハーブティーを口にはこぶ。
女性「・・おいしい。こんなハーブティーを飲むのは、何十年ぶりかしら」
女性、白い髪のあいだから青い目をのぞかせる。
女性「この街のようすも、すっかり変わってしまって・・」
女性、窓の外を見ながらつぶやく。
ミサキ「(おどろいて)・・この街に、住んでらしたんですか?」
女性「ええ、遠いむかしだけど。あのころは、お店なんてなかった。たまにくる貨物船と、乾いた大地があるだけで・・」
女性、容器のハチミツをハーブティーにいれ、おいしそうに飲むと、ふうっと息をはく
女性「ごちそうさまでした。とても、おいしかった」
女性、硬貨をカウンターにおいて、お店の扉へむかう。
ミサキ「あの・・」
女性「?」
女性、振りかえる。
ミサキ「・・どこかで、お会いしたこと、ありますか?」
女性、白い前髪のすき間から、青い目をむける。
女性「・・いえ、まさか」
女性、小さく笑うと店を出て、丘のほうへと歩いていく。
モモ「ニャオ」
店の奥から、モモが顔をだす。
ミサキ「モモ・・」
モモ、カウンターにぴょんととび乗ると、ミサキの顔をじっと見つめる。
ミサキ「・・やっぱり、あなたも、感じたの?」
<3ー5に、つづく>