
魔女のハーブは、あんまり甘くない 4ー6
◯庭園の中(夜)
やわらかに射し込む月の光の中で、メルルと少年がむきあっている。
少年、メルルの手をにぎったまま。
少年「やっぱり、キミだったのか・・。ひさしぶり、いや、何十年ぶりかな・・」
メルル、うつむく。
少年、メルルの胸のペンダントを見る。
少年「そのペンダントが、自然と、ここにつれてきてくれた気がするよ・・」
メルル、うつむいたまま。
少年、メルルから手をはなす。
マコト「おれ、マコトだけど。おぼえてる?」
メルル、小さくうなづく。
マコト「なぜ、おれたちは、こうやって若くなれたのか・・キミは、わかってるんだろう?」
メルル、視線をあげる。
メルル「あたしにも、はっきりとは・・。でも、星の魔法だと思う・・」
マコト、上にひろがる夜空を見る。
マコト「・・そう、むかし見た、キミたちが放った魔法。いまでも鮮明におぼえているよ」
小さな赤い星が、夜空にうかんだ。
マコト「・・うん、思い出したよ。赤い星を見たとき、きっとまた、キミに会えるって」
マコト、メルルを見て、はっとした顔。
マコト「その耳のキズ・・。たしか、おれたちをかばって・・」
メルル「もういいの。それは、遠いむかしの話・・」
メルル、左耳を手でおさえると、マコト、小さく笑みをうかべる。
メルル、そっと口を開く。
メルル「・・あたしも、だんだん思い出してきたの。なんだか、やりのこしたことがいっぱいあったなって」
しばらくのあいだ、噴水の音だけが庭園にひびいた。
マコト「・・あの日のこと、おぼえてる?」
メルル、はっとすると、顔をふせて頬を赤くする。
マコト「おれ、キミと、いっしょにいたいって」
メルル「・・・・」
マコト「あの頃は、魔女を怖がる人もおおかったけど、おれは知っていたよ。みんな、心のやさしい子だって」
メルル、うしろにならんでいる十字架のほうへ視線をむける。
マコト「メルル。そして、キミは夜の獣から襲われているおれたちを助けて、その左耳を・・」
メルル、目をつむると、やがて、はあと息をはく。
マコト「・・・・」
マコト、両腕をのばし、メルルを抱き上げた。
メルル「・・・・え?」
メルル、信じられないようにマコトを見る。
マコト「・・あの時も、こうやって赤い星が、かがやいていた」
マコト、夜空に目をむける。
マコト「もう、二度と会えないとずっと思ってたけど、これで、きっと・・」
マコト、メルルに顔をちかづける。
メルル、口がふるえる。
ソアラ「メルル、こっち!」
背後から、声がひびいた。
ソアラが、奥のあなから飛び出してきた。
メルル「ソアラちゃん・・!」
ソアラ、メルルをマコトから引きはなすと、メルルの手をひいて走って庭園を出る。
マコト「・・・・」
マコトは、ぼうぜんと立ったまま、二人の後ろ姿を見ている。
白い道を進んでいくと、とびらが見えた。
ソアラ、外に出ると、森のとびらをばたんとしめる。
二人で、はあはあと肩で息をする。
ソアラ「・・あの人に、なにかされたの?」
メルル「・・ううん、なんにも」
ソアラ「メルル、これ・・」
ソアラ、花をさしだす。
メルル「・・?」
ソアラ「つかれたでしょ? この香りをすうと、とっても元気がでるわよ」
メルル「・・うん」
メルル、花を手に取ると、口元にもっていく。
メルル「あれ・・?」
メルル、ぐらっと頭をおとす。
ソアラ「・・・・」
メルル、足がもつれるとその場にくずれさる。
やがて、草の上で、すうすうと眠り始める。
ソアラ、手をのばし、メルルの頬をそっとなでる。
ソアラ「・・ごめんね、メルル。あの人は、わたしの・・」
ソアラ、眠っているメルルの首のうしろにゆっくり手をまわし、胸のペンダントをとる。
夜空の星が光り、ソアラの手のペンダントも光る。
ソアラ、とびらを開けて、ペンダントを手にしたまま白い道をもどっていくと、庭園に入る。
庭園の噴水の前では、マコトが立っていた。
何も言わずにソアラを見ている。
マコト「キミは・・」
ソアラ、マコトの手をにぎる。
ソアラ「やっと、出会えたのね・・」
ソアラ、ペンダントをにぎる。
◯街のストリート(昼)
セーラ、ホウキにのって、気持ちよさそうに街の空を飛んでいる。
街の時計台が見えると、セーラのお腹が、ぐーっと音をたてる。
セーラ「あー、もう、こんな時間。なんか、お腹すいてきちゃった」
セーラ、ストリートに見慣れた姿を見つける。
セーラ「あれ、ミサキ、ちゃん?」
セーラ、ミサキの前に降り立つと、ミサキに笑う。
ミサキ、買い物袋にパンやジャムをかかえて、おどろいた顔。
ミサキ「あ、セーラさん」
セーラ「よっす。いま、買い物帰り?」
ミサキ「ええ。あ、そのホウキは・・?」
ミサキ、セーラが手にしているホウキを見る。
セーラ「へっへー。新しいの、作ったんだ」
セーラ、ホウキを指先でなでる。
ミサキ「本当ですか? すごい、はやそう」
セーラ「ふふーん、かっこいいでしょ」
ミサキ、笑ってうなづく。
ミサキ「でも、よく新しいのが、すぐに作れましたね」
セーラ「うん、小さい頃、ホウキの作り方とか、おばあちゃんに、教わったから」
セーラ、ホウキをくるくるまわす。
ミサキ「・・そう、たしか、おばあさまは魔女でしたもんね」
セーラ「これから、ミサキちゃんちに行っていい?」
ミサキ、もちろんと笑って、袋のなかのパンを一切れセーラにわたす。
セーラ、サンキュと言って、パンをほおばる。
ミサキ「お腹、空いてたんですね」
セーラ「うん、空飛ぶのって、けっこう疲れるんだよねー」
ミサキも一切れパンをつまみ、二人でストリートを歩く。
ミサキ「それで、おばあさまは、なんという人なんですか?」
セーラ「うん、ソアラ、って名前のおばあちゃんなんだ」
セーラ、パンを食べながら言う。
ミサキ「ソアラ・・、すてきな名ですね」
セーラ「もう10年前になくなったんだけどね。若いころの写真見たら、すっごい美人だった」
セーラ、パンを食べおわる。
セーラ「魔女って、すっといなくなったりするからね。まあ、アカリちゃんも、そんな感じだけど」
ミサキ「ほんと、そんな感じですね」
セーラとミサキ、一緒に笑う。
やがて、ストリートの先に、ミサキのお店が見えてきた。
モモが、お店のまえで、ちょこんと座って待っていた。
セーラ「あ、モモちゃん、ひさしぶり・・、でもないか」
セーラ、笑ってモモを抱き上げる。
モモ「ニャオ」
モモ、セーラの頬を小さくなめる。
セーラ「(笑って)あれ、ここでなんかしてたの?」
モモ、地面にむかってニャオと鳴きつづける。
セーラ「・・・・?」
ミサキ「あら、モモがこんなに鳴くなんて、めずらしいです 。ボーイフレンドといる時だって、めったに鳴かないのに」
セーラ「・・地面の下から、なんか聞こえるの?」
セーラ、ミサキにモモをあずけると、ホウキの柄のさきで、地面をこんこんとたたく。
ミサキ「・・・・?」
モモ、前脚をなめる。
セーラ「おーい、なんかいるの?」
セーラ、地面にむかって声を出すが、なにもおこらない。
モモ、しっぽをふる。
セーラ「うーん、でも、なにか感じるんだよね・・。人の声みたいなのが」
セーラ、うで組みをしてモモを見る。
<4ー7に、つづく>