魔女のハーブは、あんまり甘くない 3ー3
◯森の中(夜)
森のあたまの上には、スーパームーンのような満月が浮かんでいる。
ナナとカミーユは、ならんで音を立てないように森の中を歩いている。
ナナ「やっぱ、この時間は、ちょっと怖いかもね・・」
カミーユ「う、うん・・」
カミーユが右手に持っているランタンが、カタカタと震えている。
ナナ「(心配そうに)・・ね、ランタン、あたしが持とうか?」
カミーユ「い、いや、ぼくが持つよ」
カミーユ、気合を入れた表情になるが、相変わらず右手がカタカタ震えている。
カミーユ「なあ、ナナ・・」
ナナ「?」
カミーユ「この前みたいなのが現れたら、どうする?」
ナナ「ふくろうおじさんのこと? おじいちゃんは、平気だって言ってたから・・」
カミーユ「ま、まあ、そうだけど・・」
ナナ「たぶん、ハンカチは、このへんで・・」
ナナが落ち葉の中を見ようとかがむと、とつぜん頭のうえでバサバサと大きな音がした。
カミーユ「わっ!」
カミーユが、おどろいてその場に尻もちをつく。
その拍子に、ランタンが地面に落ちて、ナナがいそいでランタンをひろい、上を見る。
ナナ「・・大丈夫、ただのふくろうよ」
ナナがかかげたランタンの淡い光の先に、シロフクロウが高い枝にとまっているのが見えた。
シロフクロウ、小さな目をナナたちにむけている。
カミーユ「そ、そうなのかい・・?」
カミーユが、腰をぶるぶる震わせながら言う。
ナナ、はあと、ため息をつく。
ナナ「あー、でも、きれいな模様。雪かぶってるみたい」
カミーユ、そろそろと腰をあげる。
カミーユ「シマエナガ・・、じゃなくて、本当のふくろうか。やっぱり、森の守り神って雰囲気あるね」
ナナ「うん、やっぱり、森にはふくろうだよね・・」
ナナがつぶやくと、木のかげから、がさっと音がした。
ナナ、ランタンを木のかげにむける。
カミーユ、さっとナナのうしろにかくれる。
やがて、木のかげから、人の大きさをしたものが、ゆっくりと出てきた。
ナナ「・・・・え?」
カミーユ「わあああ・・!」
カミーユ、走り出そうとするが、ナナがカミーユのズボンをぐいっとひっぱる。
カミーユが、その場に音を立ててころぶ。
カミーユ「いてて・・」
ナナ、ぴたっとその場にとまり、ランタンの光の先を見つめる。
光の先には、上半身がふくろう、下半身が人のように黒いズボンをはいた生き物がいた。
ナナ「・・・・」
ふくろうは、大きな黄色い目をナナたちにむけていた。
ナナは、その黄色い目をじっとを見つめた。
ナナ「・・なんですか?」
ナナが口を開いた。
ふくろうが、黄色い目をわずかに動かした。
ふくろう「わすれもの・・かい?」
ふくろうが、小さく声を出した。
ナナ「・・え?」
ナナ、視線を下に移すと、ふくろうが大きな翼を差し出しているのが見えた。
そして、その先になにかがひっかかっているのにきづく。
ナナが、森に落としたハンカチだった。
ナナ「あ、あたしのハンカチ・・」
ふくろう「・・・・」
ナナ、いちどふくろうの方を見てから、ゆっくりと手を伸ばす。
そして、ふくろうの翼の先から、ハンカチをそっと取る。
ナナ、これあたしのだ、と言いポケットにハンカチをしまう。
ナナ、ふくろうに微笑みかける。
ナナ「ふくろう・・おじさん、ですか?」
ふくろう、おどろいたように黄色い目を大きくする。
ふくろう「・・・・わしを、知ってるのかい?」
ナナ「ええ、おじいちゃんから聞きました・・」
ふくろう「・・そうか、そんな人が、この街に、まだいたのか・・」
ナナ、ランタンを地面におくと、そばのきりかぶを見て
ナナ「そこに、座りませんか?」
とふくろうおじさんに言う。
ナナがきりかぶに座ると、ふくろうおじさん、笑うように黄色い目を細め、ゆっくりとナナのとなりに座る。
カミーユは、地面にちょこんと座ったまま二人を見ている。
すると、枝のシロフクロウが、バサバサとふくろうおじさんのひろげた翼の上にとまった。
ナナが、小さく声をあげる。
ふくろう「はは。いや、すまないね。この子は、ちょっとイタズラ好きなとこがあってね」
ナナ、そうなんですか、とくすっと笑う。
ナナ「ほら、カミーユ、起きて」
ナナが言うと、カミーユが、そろそろと地面から立ち上がる。
ふくろうおじさん、カミーユを見る。
ふくろう「おや、女の子かい?」
カミーユ、すこし震える様子。
ナナ「いえ。この子、こう見えて、男の子なんです」
ふくろう「はは、そうなのかい。とても可愛い子だね」
ナナ「ほら、カワイイだって」
カミーユ、引きつった笑みをうかべる。
カミーユ「ど、どうも・・」
ふくろう「びっくりしたかい? こんなふくろうの顔をしたうえに、人の足がはえてるなんて」
ナナ、手を口にあてて笑う。
ナナ「ええ、この前見たときは、びっくりしちゃいました。だけど、もう平気です。すごい面白い」
ふくろう「おもしろい、か。はは、そう言ってくれると、こっちも気がラクになるよ」
夜の森に、笑い声がひびきわたる。
ふくろう「こうやって若い人と話をするなんて、何年ぶり、いや、何十年ぶりかな・・」
ふくろうおじさん、ナナとカミーユを見ると、きりかぶから立ちあがる。
ふくろう「ようし。じゃあ、ちょっと、ここでまってて」
ふくろうおじさん、左右の翼を大きくひろげると、シロフクロウが夜空へ飛び立つ。
シロフクロウが満月と重なると、ふくろうおじさんも、大きな音を立てて夜空へと飛んでいく。
ふくろうおじさん、満月の中へ消えていく。
ナナ「すごい、あっという間・・」
ナナ、満月を見ながらつぶやくと、カミーユがナナのそばにくる。
カミーユ「な、なあ。本当に大丈夫なのかな?」
ナナ「平気よ。ここで待ってよ」
カミーユ、ふうっと、きりかぶの上に腰をおろす。
ナナ「だらしないなあ。なにそんな、へたっとしてんの?」
カミーユ「そ、そりゃあ、あんなの見たら、だれだっておどろくよ。ナナが、ちょっと変わってると思うけど・・」
ナナ「はあ、なにそれ?」
カミーユ「だ、だから、それは、つまり・・」
二人がしばし、森の中で言い合っていると、満月の中に大きな鳥のシルエットが浮かび、ナナとカミーユ、いっしょに満月を見る。
やがて、ふくろうおじさんが、満月から大きな音をたてて、地面に降り立つ。
ふくろう「やあ、またせたね」
ふくろうおじさん、翼を重ねて、二人に見せる。
ふくろう「ほら、もっておいき」
翼の中には、大きなクリとドングリがたくさんはいっていた。
ナナ「(笑って)わあ、うれしい。みんなもらっていいんですか?」
ふくろう「もちろん、たくさんお食べ」
ナナ、ポケットにつめるだけクリをつめて、のこりのクリとドングリをぜんぶカミーユにもたせる。
ナナ「ようし、これでOK」
カミーユ「お、重い・・」
ナナ「じゃ、おじさん、また」
ナナが頭を小さくさげると、カミーユもつづいて頭をさげる。
ふくろう「ああ、気を付けてな。また、おいで」
ふくろうおじさん、翼を小さくふる。
ナナとカミーユ、ランタンをかかげて、来た道をゆっくりと引き返していく。
やがて、夜空から、シロフクロウが、きりかぶの上に舞い降りてくる。
ふくろう「なあ、覚えているか? ああ、まだお前さんは、生まれてなかったな・・」
シロフクロウ、小さく鳴く。
ふくろう「あの子、あのときの魔女さんに、そっくりだったよ・・」
満月が、森を照らしていた。
◯おじいちゃんの小屋(夜)
おじいちゃん「なに、会ったのか?」
おじいちゃん、おどろいてナナを見る。
ナナ「うん、いい感じの人だったよ。本当に、体の半分がふくろうの姿してた」
ナナ、いたずらっぽく笑う。
おじいちゃん「そうか・・、まだいたのか・・」
ナナ「おじいちゃんは、会わないの?」
おじいちゃん「ああ、ワシはもう年だからな。足があまり動かんから、遠慮しとく」
ナナが、テーブルにひろげたクリとドングリを見て、おじいちゃん、にっこり笑う。
おじいちゃん「ようし、じゃ、今日は、クリご飯でも作るかの・・」
ナナ「え、本当? クリご飯、大好きー」
おじいちゃん、釜に火をつける。
ナナがクリの皮を、せっせと、むき始める。
おじいちゃん、奥の棚から古びた写真を出す。
5人の若者たちが、港にならんでいる写真。
しばらくすると、おじいちゃん、写真をそっと棚にしまう。
窓のそとでは、まだ、大きな満月がうかんでいた。
◯カミーユの家(夜)
街のはずれの大きなレンガ造りの家。
屋根の煙突から、煙があがっている。
カミーユ、玄関の扉を開ける。
「あー、お兄ちゃん、お帰りー」
ショートカットの女の子が、大きな声を出して奥の部屋から顔をだす。
カミーユ「あ、ただいま、リリア」
リリア、カミーユの顔を見て首をかしげる。
リリア「あれ、なんかあったの? 疲れてるみたいだけど?」
カミーユ「い、いや、いろいろあってね・」
カミーユ、部屋に入ると、絨毯のうえにどさっとドングリをひろげる。
リリア「わあ、すごい大きなドングリ。どうしたの?」
カミーユ、小さく笑う。
カミーユ「ちょっと森でね。へへ、お兄ちゃん、ドングリ採るの得意なのさ・・」
リリア「ふーん、はじめて知った。でね、リリア、今度のパレードに参加するから」
カミーユ「(おどろいて)え、出るの?」
リリア「うん。はじめてだから、すっごい楽しみ」
リリア、どんぐりをテーブルの上でくるくる回す。
リリア「ナナさんも出るんでしょ?この前、いきなり、これなくなったもんね」
カミーユ「あ、ああ」
リリア、となりの部屋に行くと、衣装が入った箱を持ってくる。
リリア「あたし、赤ずきんがいいー」
リリア、箱から、赤ずきんのコスチュームを出して見せる。
リリア「すごいでしょー。これ、リリアが作ったんだよー」
リリア、赤ずきんのコスチュームを、すっぽりとかぶる。
カミーユ「え、本当に? そりゃあ、すごい」
リリア、へへと得意げに笑い、箱に手を入れる。
リリア「あと、お兄ちゃんには、これねー」
リリアがカミーユに、衣装をわたす。
カミーユ、ひろげると、それは派手なガイコツ模様のコスチューム。
カミーユ「ガ、ガイコツ・・?」
カミーユ、しばらく言葉をうしなう。
リリア「お兄ちゃんに、にあうと思って作ったのー。ぴったりしょ?」
リリア、大きな目をかがやかせて、カミーユを見る。
カミーユ「あ、ああ・・」
カミーユ、引きつった笑みをうかべる。
リリア、鼻歌を歌いながら、絨毯の上でくるくるまわる。
<3ー4へ、つづく>