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魔女のハーブは、あんまり甘くない 第2章 8

○ミサキのお店(お昼)
お店の中には、たくさんの町の人たちがハーブをながめたり、棚の瓶を手にとっている。
子どもの姿も、ちらほら見える。

婦人「本当に、ここのハーブティーは、びっくりするくらい効くのよ」

婦人、町の人たちに言うと、ミサキの方を見て微笑む。
ミサキ、すこしひきつったように笑う。

町の人「持ち帰りは、できます?」

ミサキ「は、はい。もちろんです」

町の人「じゃ、マテを1パックとあとは・・」

ミサキ、ハーブを順に袋に包んでいると、少女が顔を出す。

少女「これ、きれーい」
少女が、瓶の中のハイビスカスを見ながら微笑む。

少女の母親「じゃ、これを2パック、ください」

ミサキ「は、はい。ただいま」

ミサキ、しばらくの間、ひたすら注文を聞き、袋に詰めることをくり返す。
そして、ようやく落ち着いたときには、すでに時計は午後3時を回っていた。

ミサキ「時間がたつのって、こんなに早かったっけ・・」

町の人たちがいなくなると、ミサキ、ふうっと大きく息をはいてイスに座る。

ミサキ「あー、疲れた」

ミサキ、こくりこくりと、うたた寝をはじめたがドアを開ける音ではっと目を開ける。

ミサキ「いらっしゃいま・・、あ、セーラさん」

セーラが、笑いながら立っていた。

ミサキ「なんか、すごく、いそがしかったみたいねー」

ミサキ「(苦笑い)ええ、もうハーブがなくなりそうで・・」

ミサキ、ガラス瓶の中にほんのすこし残っているハーブを見ながら言う。

セーラ、ミサキの前に歩み出る。

セーラ「これ、貸してあげるよ」

セーラ、ホウキをミサキに渡す。

ミサキ「・・え?」

セーラ「空、飛ぶのを覚えれば、ハーブを摘んで持って帰るのもラクだよ」

ミサキ「い、いいんですか・・? もし、キズとかつけちゃったら・・」

セーラ「(笑って)大丈夫だよ。ソレ、あたしの魔力で、すぐ治るから」

ミサキ「そ、そうですか、じゃ・・」

ミサキ、ホウキをゆっくり手に取る。

モモ「ニャ」

セーラ「ほら、モモちゃんも乗りたいって」

セーラ、両手でホウキをかまえるジェスチャーをとる。

セーラ「コツは、この前みたいな感じでやれば、だんだん飛べるようになるよー」

ミサキ、ホウキを両手で抱きしめると、やや緊張した面持ちでセーラを見る。

ミサキ「あの、セーラさん・・」

セーラ、ミサキの眼差しから何か感じたのか、真剣な表情になる。

ミサキ「その、魔女って・・、みんなに愛される存在ですよね」

しばらくすると、セーラ、ふっと笑顔になる。

セーラ「もちろん」

セーラ、腰に手をあてる。

セーラ「この前も言ったじゃない、魔女は、みんなを助ける正しい存在だった」

ミサキ、セーラを見てふっきれたような明るい顔になる。

ミサキ「そう、ですよね。うん、そうですね」

ミサキ、ホウキをぶんぶん振る。

セーラ「あれー、なんかあったの?」

ミサキ「い、いえ、なんでもないです」

ミサキ、あ、そうだと言って、棚のほうをむく。

ミサキ「あの、よかったら、これ、どうぞ」

ミサキ、棚からすこし大きめのパックを取り出すとセーラに渡す。

セーラ「お、これは、新作の?」

ミサキ「ええ、新しく作ったブレンドハーブです」

パックの中には、あざやかなえんじ色のハーブが入っている。
セーラ、うれしそうにパックをポケットに入れる。

セーラ「ありがとー。アカリちゃんにも、飲んでもらうね」

セーラとミサキ、たがいにグーサインを出す。

セーラ「じゃ、あたし、帰るねー。これありがと」

ミサキ、手を振ってセーラを見送ると<closed>のプレートを出して、店のドアにかける。

ミサキ「ようし、じゃ、さっそく飛ぶ練習よ、モモ」

モモ「ニャ」

モモ、ミサキの肩にぴょんと飛び乗る。
ミサキ、店の裏手の小さな広場に出る。

ミサキ、ホウキにまたがって体に力を入れる。

ミサキ「ん・・、飛べ、飛んで」

ホウキの先が、地面からわずかに浮く。

モモ「ニャア?」

モモも、小さく鳴く。
ホウキは、ミサキの背丈ほどの高さまで浮くが、すぐにかたむいてどさっと地面に落ちる。

モモ、ミサキの肩から飛び降りると、地面に両前脚をつけてのびをする。

ミサキ「いったあい、でも、この前より、すこしは飛んだかな・・」

モモ、あくびをする。

ミサキ「あー、そんな顔して。すぐ、覚えてみせるから」

ミサキ、ホウキを手にかまえる。

○丘のてっぺん(夜)

白い岩の上に並んで座る、アイとユウキ。
夜空には、星が輝いている。
ふたり、岩の上で手を重ね合っている。

アイ「・・最近、妹の夢ばかり見るの」

ユウキ「大丈夫さ、僕がついている」

ユウキ、アイの肩に手をまわし抱き寄せる。

アイ「あの時、あたしが止めていれば・・」

ユウキ「キミのせいじゃない。あれは、誰にも予想できなかったさ」

アイ、ぐっと目をつむる。

ユウキ「僕の友人も、僕をおいて先に行ってしまった・・」

アイ「それって・・」

アイ、顔をあげる。

ユウキ「ああ。でも、キミの妹と僕の友人は、きっと仲良くやっているはずさ」

アイ「ユウキさん・・」

アイ、頭をユウキの肩にのせる。

夜空の星が、小さく光る。

アイ「あれ、今・・」

ユウキ「?」

アイ「妹の声が、聞こえたような・・」

ユウキ「声? 僕は、なんにも・・」

ユウキ、夜空に耳をすます。

アイ「ごめんね、たぶん、空耳だね」

ユウキ「いや」

アイ「?」

ユウキ「キミはたぶん、不思議な力を持ってるんだよ」

アイ「・・どうして、そんなこと?」

ユウキ「いや、わかるんだ」

ユウキ、一度、深呼吸をする

ユウキ「なんというか、その・・、キミから感じるの天からの力のようなもの」

ユウキ、星を見ながら言う。
アイ、少し困惑した顔になる。

アイ「・・あたしが、よく、夜空の観察をしてるから?」

ユウキ「それもあるのかもね」

ユウキ、苦笑いをする。

アイ「(小さく笑って)まだ、よくわかんないけど、ほめ言葉として受け取っておくわ」

アイ、重ねた手をつよくにぎる。

ユウキ「そうしてほしいな」

アイの唇が、ユウキの頬にふれた。

夜空の星が、また小さく光った。

アイ、ユウキから顔をはなすと、丘の向こう側に
ポニテールの少女が歩いているのが見えた。

アイ「あれ、あの子、知ってる?」

ユウキ「(首をふって)いや、知らないな」

少女の姿が、小さくなっていく。

ユウキ「でも、あんな子が、生まれればいいね」

アイ「ええ・・、あたしたちの子・・」

アイ、お腹を手でそっとなでる。
ユウキ、自分の手をアイの手の上にのせる。
二人の唇が、もう一度、触れる。

ポニテールの少女、あたりをきょろきょろ見ながら丘の上を早足で進んでいる。

少女「あれー、たしか、このあたりに・・」

少女、いったん立ち止まると、夜空を見て、わあとおどろく。

少女「あれ、今夜は星が楽しそうね・・。でも、あたしは何もしてないけど・・」

少女、てっぺんの岩の上に、人が2人いるのが見えた。

少女「あの人たちが・・?」

少女、夜空と2人を交互に見る。

少女「まさか・・ね」

少女、走るように丘をどんどん進んでいく。

○ミサキの家
ミサキ、ホウキを壁にたてかけて、ベッドの上に座っている。
ペンダントを手のひらにおき、ぎゅっとにぎる。

モモが、すこし心配そうな視線をミサキに向けている。

ミサキ「モモ、ちょっといってくるね」

モモ、だまってミサキを見ている。

ミサキ「(笑って)大丈夫よ。私は、ちゃんと帰ってくるから・・」

ミサキ、モモの頭をそっとなでると眠りにつく。

                                          <Episode9へ、つづく>

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