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魔女のハーブは、あんまり甘くない 4ー2
◯リサのお店(夜)
厨房にいるリサが、カウンターに座っている少女にハーブティーを出す。
少女、ぐっとハーブティーを飲む。
少女「おいしー。こんなハ―ブティー、はじめて飲みましたー」
少女、嬉しそうに声をだす。
リサ「よかった。気に入ってもらえて」
リサ、赤い小皿に盛ったクッキーを出すと、少女、いただきますといって、ぱくっと1枚口にいれるとにっこり笑う。
リサ「(笑いながら)それで、あなたの、お姉さんなんだけど・・」
少女、クッキーを口にいれたままリサを見る。
リサ「ひょっとして、アカリちゃんの・・こと?」
少女「はい、そうです」
少女、ごくんとクッキーを飲み込む。
リサ「・・・・・」
リサ、しばらく、おどろいたように少女を見ると口を開く。
リサ「じゃあ、あなたは、アカリちゃんの妹の・・」
ノア「はい、ノアっていいます」
リサ「ノアちゃん・・」
リサ、目を開いて、ノアを見つめる。
リサ「・・そう。こんなカワイイ妹さんがいたなんて、アカリちゃん、一言も言ってなかったわ。ほんと、目もとなんてそっくり」
ノア、へへと照れたように頬をかく。
リサ「そういえば、アカリちゃん、ぜんぜん自分のこと話してくれなかったな・・」
ノア「ええ。そう思います。だって・・」
リサ「・・?」
ノア「お姉ちゃん、いきなり、家を出ていっちゃったから・・」
リサ、目を開く。
リサ「出ていった、というと・・?」
リサが、答えをもとめるように顔を近づけると
ノア「このクッキー、ぜんぶ、食べちゃっていいですか?」
とノアが、笑顔でいった。
◯洞窟の中(?)
アカリ「くしゅん!」
アカリの大きなくしゃみが、洞窟のなかにひびいた。
ココ「ニャ?」
ココ、泉のうえで振りむく。
アカリ「だ、だれかウワサしてるのかな・・?」
アカリ、ぶるっとふるえながら、鼻の下に指をあてる。
女性「私のまえで、くしゃみ、とは・・」
泉に立っている女性、そっと目をあける。
透き通るような白い肌に、大きな青い瞳。
アカリ「は、はい?」
アカリ、おどろいて、女性を見る。
女性「・・いえ、私が泉に現れたときに、くしゃみをしたのはあなたがはじめてですわ。大した人ですね・・」
女性、じっとアカリを見る。
アカリ「そ、そうなんですか。ありがとうございます・・」
女性「(ひきつった笑みで)いえ、ほめてるんじゃないんですが・・」
ココが、ややあきれたような目でアカリを見て小さく鳴く。
女性「・・まあ、いいですわ。ようこそ、妖精の泉にいらっしゃいました」
女性、アカリにむかって、にこっと笑う。
アカリ「妖精の泉・・?」
女性、長い水色の髪を揺らしながら泉のうえを歩きだし、ココのまえでとまる。
女性の足もとに、きれいな水の輪ができる。
女性、ちらりとココを見てから、小さく息をととのえる。
アカリ「?」の表情。
テティス「水の妖精のテティスです。はじめまして」
テティス、小さく頭をさげる。
アカリ「は、はじめまして・・」
アカリがつぶやくと、ココがアカリにむかってニャオと鳴く。
アカリ「ココちゃん?」
ココ、もういちどアカリにむかって鳴く。
アカリ「こっちにおいでって? でも・・」
アカリ、言い終わる前に、泉の上に立っているのにきづいた。
アカリ「・・?」
足が泉の上でとまっていて、小さな水の輪のなかにアカリは立っていた。
アカリ「・・沈まない? どうして・・?」
テティス、なにか気づいた顔。
テティス「・・あら、あなた、ペンダントを持ってないんですの?」
アカリ「はい。人に渡しちゃったので・・って、どうして知ってるんです?」
テティス、ふっとほほえむ。
テティス「この泉に入れるのは、私たち妖精とペンダントを身に着けた魔女だけですもの。・・といっても、最後にきたのは、もうはるかむかしのことですが」
アカリ、しばらく視線を宙に浮かせる。
アカリ「(小声で)その話、たしか絵本にも書いてあったような・・」
テティス「でも、不思議ですね。どうして、あなたは、この泉の上をあるけるのかしら?」
テティス、首をかしげると、視線の先のココに目をとめる。
テティス「まさか・・」
ココ「?」の顔。
テティス「ちょっと、この子猫ちゃんを、よろしいですか?」
アカリ「ココちゃん・・?」
テティス、そっと白い手をのばしココを抱き上げる。
ココ「ニャオ」
ココ、いつもより大きな声で鳴く。
そして、ココの小さな目が、一瞬、きらりと光ったように見えた。
アカリ「え・・・・?」
テティス「やはり、この子猫ちゃんは・・」
テティス、ココを泉のうえにおろす。
ココ、テティスの指を小さくなめる。
テティス「(笑って)よくぞ、きてくださいました・・」
アカリ「・・・・」
テティス「では、お二人とも、こちらへどうぞ。案内しますわ」
テティス、指先を水面につけると、ゆっくりと波がたちはじめる。
アカリとココ、すこし後ろにさがる。
やがて、波が、しぶきをあげ左右に開くと、水の階段があらわれる。
階段は、はるか下につづいていて終わりが見えない。
アカリ「こ、これって・・」
テティス「さ、妖精の宮殿へ、ご案内します」
テティス、にこりと笑みをうかべて階段をおりていく。
アカリとココ、目をあわせる。
アカリ「・・いってみようか。なんか、楽しそうだし。いいよね?」
ココ、ニャと鳴く。
アカリ、笑ってココを抱き上げ、テティスにつづいて階段をおりていく。
アカリ「さすがに、この先は、絵本にもなかったな・・」
アカリ、ココにつぶやく。
<4ー3に、つづく>