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魔女のハーブは、あんまり甘くない 3ー8

◯ストリート(昼)

秋空の下、ストリートがパレード一色になり、街の人たちが歓声をあげている。

シロフクロウが入っていった路地のほうを、ふくろうおじさん、じっと見る。

ふくろう「ナナちゃん、ちょっとすまない」

ふくろうおじさん、ナナに一言いうと、列を離れ、かぼちゃ頭のまま路地に入っていく。

ナナ「お、おじさん?」

ナナ、路地に消えていくおじさんの姿を見ていると、まもなくして、ガイコツ姿のカミーユが同じ路地に走っていく。

ナナ「・・カミーユ、なんで?」

ナナ、口を大きく開ける。

サウィン「カミーユくん? ちょ、ちょっと、どうしたのよ?」

サウィン、杖をぶんぶん振り回しながら、路地にむかって声をあげる。

少女1「サウィンさん、だめですよ、列をみだしては」

サウィン「え、そ、そうなんだけど・・」

少女2「大丈夫、カミーユくんは、すぐもどってきますよ」

少女3「そうそう、魔女は、パレードの顔ですから」

少女たち、サウィンをパレードにつれもどす。

ナナ、リリアの耳に口をちかづける。

リリア「・・?」

ナナ「リリアちゃん、ごめんね。あたし、ちょっとだけはなれるけど、すぐもどってくるから」

リリアが、こくんとうなづく。

黒猫姿のナナも、まわりに気づかれないようそっと列を離れ、路地に入っていく。

リリア、しばらくパレードに参加していたが、やがて、路地のほうを見る。

リリア「なんか、おもしろそ・・」

リリア、赤ずきん姿のまま、こっそり列をぬけだだす。

◯路地(昼)

大きなかぼちゃ頭と細身のガイコツが、路地を走っている。
路地のブティックや、宝石店の人たちが、おどろいた顔で見ている。

「え、なにあれー?」

「かぼちゃとガイコツが、追いかけっこしてるの?」

「おもしろーい」

人びとが声をあげていると、黒猫姿のナナが、追うように、そのあとを走っていく 。

「なに? 今度は、黒猫のお姉ちゃんが走ってるー」

「はやくてカワイイー」

小さい子どもが、手を振ってきたので、ナナは走りながらも子どもにむけて手をふる。

ナナ「(はっとして)いけない、見失わないようにしなきゃ・・」

ナナ、路地を進んでいくと、とたんに、ひらけた広場に出た。
ナナ、広場の真ん中を見ると、黒い帽子の男性たちが、シロフクロウたちに頭をつつかれている。

男性「な、なんだ、このシロフクロウは?」

男性、黒い帽子を取り振り回すが、シロフクロウたちにかこまれ、逃げ回る。

ナナ「あの子たち・・、みんな飛んできたの?」

ナナ、広場の奥を見ると、コンテナの中から、シカたちが走り出てくる。

男性「お、おい、待て。せっかく捕まえたのに・・」

ナナ「捕まえたって・・・・、やっぱり!」

男性が逃げ回るシカを捕まえようとすると、空からばさばさと大きな音がした。

かぼちゃ頭のふくろうおじさんが、どすんと男性の上においかぶさりプレスする。

男性「(おどろいて)空から・・、なんで?」

つづいて、ガイコツ姿のカミーユが、男性の腕をつかむ。

ナナ、声をあげる。

ナナ「カ、カミーユ?」

カミーユ「お巡りさん、こっちです!」

ガイコツ姿のカミーユがさけぶと、警官たちが路地からあらわれ、広場はパニックになる。

警官「あとは、われわれにまかせて!」

警官たちが言うと、ふくろうおじさんとカミーユは走りだし、シロフクロウたちは広場から飛びさっていく。

カミーユ、黒猫姿のナナに気づいてたちどまる。

カミーユ「え、ナナ、いたのかい? なんで?」

カミーユ、おどろいてナナを見る。

ナナ「・・あたしが、状況を説明しておくから。はやくパレードにもどって」

カミーユ「え?」

ナナ「だって、おじさんは顔見せられないし、カミーユは、サウィンちゃんと一緒にパレードするんでしょ?」

カミーユ「う、うん、でも・・」

ナナ「ほら、早く、パレードにもどって」

カミーユ、いそいでストリートにむかって走り出す。
ナナは、男性たちが捕まるのを見届けたあと、警官のほうへ歩いていく。

ブティックのわきから、リリアがこっそり顔をだす。

◯ストリート(昼)

パレードは、中間地点をすぎて港方面へと、進んでいた。

ドルイド「ほら、みなさん、もう少しです!あそこが、最終目的地です」

ドルイドが大声を出す。

港のほうに、マリンの塔が見えた。
チカチカとライトが点滅している。

ドルイド「すこし列が乱れてしまいましたが、みなさん、このままパレードを続けてください!」

サウィン「まったく、どこいってたのよ? カミーユくん?」

サウィン、カミーユをにらむ。

カミーユ「ご、ごめんよ。ちょっと用事を思い出して・・」

サウィン「ふーん、まあ、いいわ」

サウィン、カミーユの腕をぐいとつかむ。

サウィン「さ、パレードもいよいよ、フィナーレよ」

カミーユ、しばらくの間、サウィンとならんで歩くが、列の後ろのほうにいるナナの姿に目をとめる。

カミーユ、ぴたっと足をとめる。

サウィン「・・・・?」

カミーユ「・・ごめん、ぼく、あっちに行くよ」

サウィン「・・・・え?」

カミーユ、サウィンの腕をほどくと、列の中を進行方向とは逆に進みだす。

サウィン「・・・・!」

カミーユ、参加者をかきわけていくと、ようやく見つけたナナの手をつかむ。

ナナ「・・カミーユ?」

ナナ、目を開く。

カミーユ「あぶないから、いっしょに行こ」

ナナ「?」

カミーユ「まだ、あの連中の仲間がいるかもしれないから」

ナナ「カミーユ・・」

カミーユ、ナナの手をにぎってパレードの中を進んでいく。

◯体育館(夕)

ドルイド「みなさん、お疲れ様でした。すばらしいパレードでした、大成功です!」

わっと拍手が起こる。

参加者のみんなは、たがいにハイタッチをしたり、労いの言葉をかけあっている。

ナナ、奥のイスに座っているサウィンに歩み寄る。

サウィン「・・何も言わないで」

ナナ「え?」

サウィン「わたしをふる子がいるなんて、信じられない・・」

ナナ「・・・・」

サウィン、イスからたちあがる。

サウィン「でも、カン違いしないでね」

ナナ「?」

サウィン「わたしは、まだ、カミーユくんをあきらめたわけじゃないから」

ナナ「・・・・え?」

サウィン「今回は、負けを認めるけど、次、勝つのは私だから」

少女3人が、どこからか出てきた。

少女1「サウィンさん、元気をだしてください」

少女2「次は、うまくいきますよ」

少女3「それで、服は買ってもらえるんですよね?」

サウィン「あたり前じゃない。とっととついてきなさい」

サウィン、はしゃぐゾンビ姿の少女たちにかこまれながら、戻っていく。

ナナ、サウィンたちの姿をながめていると、ふくろうおじさんが、かぼちゃ頭のまま近づいてきた。

ナナ「あ、おじさん・・」

ふくろう「おお、さがしたよ。いや、楽しかったよ。あの連中も捕まえられたし」

ナナ「やっぱり、あの人たちが、シカさんたちを?」

ふくろう「ああ、あの連中は密猟者たちでな。森のシカさんたちを連れ去っていたのさ」

ナナ「そう、ほんとによかった」

ふくろう「いや、あの子たちのおかげさ。本当に、いい子だよ」

シロフクロウたちが、体育館の窓の外に見える大木の枝にとまっている。

ナナ「ええ、シカさんたちは、野毛の山動物園が一時あずかったあと、森へかえすって言ってました」

ふくろう「ああ、それは、よかった。じゃあ、わしは、この場から退散するよ」

ふくろうおじさん、かぼちゃを頭から外すと、黒いコートをすばやく頭からかぶせる。

ナナ「あ、おじさん」

ふくろう「?」

ナナ「あとで、会いにいってもいいですか?」

ふくろう「(笑った声で)もちろん」

ふくろうおじさん、外に消えていく。
窓の外を見ると、シロフクロウたちもいなくなっていた。

リリア「あー、こんなにいっぱい、もらっちゃったー」

カゴいっぱいにお菓子をつめた赤ずきん姿のリリアが、くるくる回っている。

ナナ「あれ、カミーユは?」

リリア「うん、裏の方に行っちゃった」

リリア、体育館の裏をゆびさす。

ナナ、裏にまわると、ガイコツのマスクを取ったカミーユがベンチに座っていた。

ナナ「カミーユ、おつかれさま」

カミーユ「(すこし疲れた顔)ああ、楽しかったね。いろいろあったけど・・」

ナナ、くすっと笑う。

ナナ「まさか、カミーユがあんなこと、するなんて・・」

カミーユ「ま、まあ、お巡りさんを呼んだだけだし・・」

ナナ「でも、どうして、あやしいと思ったの?」

カミーユ「いや、公園でいちど、彼らを見てね。路地で彼らがシカさんたちと一緒だったから、もしかしてと思って・・」

カミーユ、すこし恥ずかしそうに話す。

ナナ「ふーん、大した推理ね。探偵にでもなったら?」

ナナ、腕組みをして言う。

カミーユ「ま、まさか、たまたまだよ・・」

カミーユ、脱いだマスクをにぎりしめて言うと、ナナ、カミーユのとなりに座る。

ナナ「このあと、いいかな?」

ナナ、カミーユの顔をのぞきこむように言う。

カミーユ「・・?」

ナナ「今夜、森に行くの」

カミーユ、しばらくするとふっと笑みをうかべ、小さくうなづく。

ナナとカミーユ、笑い合う。

リリア、すこしはなれた場所から二人を見て、笑みをうかべる。

◯おじいちゃんの小屋(夜)

おじいちゃん、イスに腰掛けながらパイブをふかしている。

暖炉のそばで、アップルがまるくなっている。

アップル「ニャオ」

おじいちゃん「おお、お腹がすいたのかい?」

おじいちゃん、ヤギのミルクをお皿にそそぎ、アップルの前にだす。

アップル、ぴちゃぴちゃとおいしそうにミルクを飲み始める。

おじいちゃん、笑いながら棚の引き出しから写真をだす。

写真には、ならんでいる若者たちが写っていた。おじいちゃん、いちばんはしにいる栗色の髪の女性を見る。

おじいちゃん「なあ、あの瞳の色・・、ワシの記憶ちがいだと思うかい?」

アップル、お皿から顔をあげる。

おじいちゃん、窓を開けて夜空の星を見る。

おじいちゃん「もちろん、お星さまは、ぜんぶわかってるんだろうなあ・・」


                                               <3ー9へ、つづく>


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